16.アラスへ向かうユーヤ
「いやー、今回は焦ったぜ、右手がしっかり取れちゃったぜ」
「は?」
ドカッと地面に座り、砦の瓦礫に背を凭れるエルが右手首をプラプラと振っている。手首が取れたってどういうことだ?
歓声が平野に広がっている中、僕は屈んでエルの右腕を掴む。
「取れたってどういうことだよ!」
「あん? 言葉通りだぞ? 右手首じゃなくて右腕だけど」
「ナッ!? ど、どこだ!?」
何気ないように言うエルの言葉を聞き、僕は慌てて手を離して右腕をじっと見る。
「ど、どこが取れたんだ?」
「え? あ~~、どこら辺が千切れたかな?」
「だ、大丈夫なのか?」
「私は吸血鬼だからな。雑にくっつけて血をぶっかければ、放っておくだけで治るぞ」
「それを聞いただけで引き下がれるかよ」
周りの兵士達は生き残った負傷者を救護し、亡骸の残る死者を手厚く葬り、亡骸の残らない死者の足跡を残している。後始末が進んでいる。
「何で勝手に出て行ったんだよ」
「時間がなかったんだよ。私は一言残したり、書置きとか残したりした方がいいじゃねぇのかって言ったんだけどさ。ケイがしなくていいって言ったんだよ」
「何でそんなことを!」
僕は地面に両手を着いて前傾姿勢となり、エルに詰め寄った。
「おいおいおい、凄い近づいてくるじゃん。チューでもしてほしいのか?」
「した方がいいのか?」
「何だよ、私の事大好きか?」
「好きだよ」
「ほ?」
「大好きだ。決まってんだろ。僕は一度手にしたものとか手に入れたものとかは手放したくないんだよ」
「ハッハ。傲慢だな」
「僕は強欲なんだよ」
本心からの言葉だ。ここまでの強さを手に入れるのに、エルの力は必須だっただろう。
「お前の見る未来には私がいるのか?」
「当たり前だ」
エルの頬にさっと赤みが差す。そして、ふっと力を抜いた。
「おい?」
「……」
「おい?」
目を閉じるエルの頬をペチペチと叩き起こそうとする。
「おい!」
少し強めに頬を叩くと、エルが脳天をチョップを繰り出してきた。
「疲れてんだからちょっとは寝かせろや!」
「す、すまん」
頂天を押さえながら立ち上がり、少し距離を取った。
「必ず帰ってこいよ」
「ほいほ~い、いいよ~、約束ね」
エルが軽薄な調子でハンドサインによる了解を出す。僕はそれを見届けると、エルの隣に座った。
「どこかに行かなくていいのか?」
「良いよ。今の僕はエルの隣にいたいんだ」
「恥ずかしいことを平気で言うな」
僕はその言葉の意味が分からなかった。
「何も臆することはないだろ? 実際にそう思っているんだから」
「……あぁ、そうだな」
エルはニコニコしながら、両手を自身の後頭部に添えた。周りに敵がいないのかを警戒する。
「ユ~~~~ヤ~~~~~? 周りにはいないぜ~~」
「分かるのか?」
「魔力を使うとある程度分かるんだよ」
「僕は魔力がよく分からないからな」
魔力の話をされると弱い。僕は魔力が使えないのだ。
「あんまこれ言っていいのか分かんないけど、お前、魔力使えているからな」
「は? 使ってないけど」
「多分光属性だと思うけど、戦闘中に使っているぞ?」
エルの言っていることが分からない。僕が魔法を使っている? 自分の手をじっと見る。全く自覚がない。
「お、伝令が来たぞ」
「伝令か」
エルの視線を追うと、そこには早馬に乗ってこちらに走ってくる兵が一人。
兵は慌てて馬から下り、エルの前に走ってくる。
「こちらケイ様からの伝令でございます!」
「おう」
エルが手紙を受け取り、中身に目を通していく。
「なんて書いてあるんだ?」
「あん? あぁ~~、えっとな、何かこのままガンドスに攻め上げろってな話らしい」
「はぁ? ケイの方は大丈夫なのか?」
「まぁ、今は大変そうだけど、助っ人がいるから大丈夫だろ」
「助っ人?」
僕は文章が読めない。その内容をエルが要約し、話してくれる。僕は手紙をよく見ようと身を傾けて、左頬をエルの肩にくっつけた。
「何をしてんだ? 早く戻ってやれ」
「は、はい!」
エルの命令に伝令係は体をビクッと震わせ、礼をする。
「あの、お一つだけ質問が」
「何?」
「その、お隣の少年はいったい?」
「こいつか?」
伝令係の目が僕に向く。エルは僕の頭を乱雑に撫でた。髪型がボサボサになる。こだわりは特にない。
「こいつは私のパートナーさ」




