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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
8.レ・ミュー
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15.上位との戦闘をするユーヤと共するエル

 困った。


 そんなに距離があるように見えなかったが、まさかこんなに遠いとは。


「くくく」

「ふぇ?」


 後ろを振り向くと、そこには熊か犬か分からぬ混沌の王フンドンが。

 何をしに来たんだ? というか、迷宮から出てこられたんだな。


「くくく」

「え、え?」


 フンドンはゆっくりと近づきながら、笑うような声を出している。彼女は僕の高さに合わせて頭を下ろしてきた。


「くくくくく」

「え、何? 乗れって?」

「くくく」


 首をカクカクと縦に振った。否定はしていないようだ。

 僕は頭に乗せてもらう。


 どこにも濡れるような要素はなかったと思うが、毛が濡れている。そう見えているわけではなく、実際に濡れていた。


 フンドンが走り出す。というか飛んだ。ただの跳躍。そうだというのに高い。もうこれは飛翔と呼べる域だ。

 僕は振り落とされないようにしがみつく。いつの間にかエルと龍の上に来ていた。


 僕は何の躊躇なく飛び降り、剣を抜いた。


「ここからは僕も相手だ!」


――――――――――


 はるか高空、青い空と白い雲の隙間に留まる龍を見上げ、ゆらりと立ち上がる。

 彼の言う通り、細部が繰り抜けている。しかし、それでは倒し切れない。私の方がダメージが多い。それでも、戦いは止まらない。


 衝撃と破壊が、砦とその周辺地域を襲う。

 滑空する龍の爪や牙、尾や魔法、それらが人々を引き裂き、そこらに屍が量産される。

 口に出すことはしないが、この行動は本当に調停者のものなのかい? サワタマルク。


 暴れまわるサワタマルクの攻撃を、私は舞うように地を蹴り、躱し続ける。


 よし。右腕がくっついた。でも、戦闘には使えないな。

 自分に風属性をぶつけて、龍から適切に距離を取り続ける。


「ここからは僕も相手だ!」


 天からの熱い落とし物。熱い熱い熱い望みを持つ少年の声が響いた。


「―――ユーヤ」

「エル。後で話がある」

「はいよ。了解」


 ユーヤはこちらを見ずに話す。その背中から怒りを感じる。その高潔さに口角が緩んでしまう。

 ゆっくりと熱を帯びていく。戦場に一人追加され、それでどう変わるというのか。

 それでもユーヤは神話級の強さを持っている。かなり力になってくれるだろう。もっとも、龍のような空飛ぶ巨大物と戦う経験がないのが不安点だ。


「龍を相手に、恐れを知らぬ奴等だ」

「龍のことなど知らん。僕はエルのところに来ただけだ」

「ならば、貴様も混乱の元である。つまり、始末する」

「仕方がない。私も禁断の扉を開こう」


 私が左腕を振る。


「――ッ⁉」


 突然の氷塊、その規模と重さにサワタマルクは喉を詰まらせる。

 冷たい衝撃波、白い風。草に霜がついていく。


「―――ブハァ!?」


 ユーヤの口から白い息が吐き出される。


「……氷属性?」

「あぁ、だが、龍族は厄介な存在だ。あの程度じゃまだ倒れない」


 エルの言葉の直後、轟音とともに巨大な氷塊が真っ二つに割れた。端から砕け、細かい氷片が舞い散り、その中から出てきた龍が咆哮した。


 凍える風が荒れ狂う。


 私は地面を踏み砕くほどの力を込め、血刃を振り抜く。直線状の全てを薙ぎ払う破壊の刃。

 龍はそれを躱して、炎を吐いてきた。


「ほら」


 私は氷の足場を作りながら前に走り出す。

 龍がユーヤの方を向こうとするのを、襲撃で阻止する。


「ハァ!!」


 真上から落ちてくるユーヤの剣が、サワタマルクを打つ。回転しながら打ち下ろした剣が半ばまで入るが、そこで止まった。

 それでも致命に至らなかった。龍が頭を大きく振ると、剣が抜けてユーヤが宙を舞う。


 刹那、ユーヤが叫ぶ。


「エル!」

「分かっているよ」


 自分の血を固めて長剣とし、左手だけで振った。私の長剣は龍の顎下を斬る。


「グゥ!?」


 光属性で顎下を強化してやろうという兆候が見える。その顔面をユーヤが蹴飛ばした。

 怒るように口を開け、こちらを噛もうとしたところを、私は踵で蹴り上げる。


「グゥ!? な、なぜ!?」


 龍が焦り炎を吐いてくる。私もユーヤもその程度では焼かれない。

 私は地面を踏み、浮き上がらせる。その上にいたユーヤはそのまま走り、サワタマルクの頭上に立った。そして、跳躍し、二本ある龍の角の内の一本を斬る。

 角に集中しているサワタマルクの横面を蹴飛ばした。龍の頭が一回、二回と弾み、瓦礫の山へ飛び込んだ。


 ユーヤは着地すると、瓦礫の山を油断なく見つめる。


「どうなった?」

「フン。あの程度でサワタマルクが死ぬわけがない」


 私は腕組みをしたまま堂々と立ち、瓦礫の山を睨む。


「なぜ、そこまで頑張る」

「それはこっちの台詞だが?」

「そこの少年はなぜ、この戦いに参加する? この戦いの意味を知っているのか?」

「ハ?」


 サワタマルクの重要そうな質問に対し、即答でキレ声を出した。戦争のことなど全く知らずにここまで来たのだろう。


「知るか、そんなもん。僕にとってエルは大事な、大切な存在なんだ。こんなよく分かんねぇとこで喪わせるわけねだろぉが!」


 オッフ。そんなことを聞かされたら、嬉しくなっちまうだろ? 龍は黙り、ゆったりと目を瞑った。


「そこにあるのは純愛か」

「束縛系のな」

「……そうか」


 サワタマルクはその一言だけを残すと、ゆっくりと飛び上がり、悠然と飛び去った。

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