14.ブチギレユーヤ
ギリと大きな歯音が鳴った。頭にカッと血が上る。上りすぎて膝から力が抜けそうになってしまう。
アイネが僕の腕を掴み、倒れないように支えてくれた。
フロイドが僕達を率いてやってきたのは、エルとケイ宅の裏。いや、ここはクライネの宅でもあるはずだ。
こんなところに何か作ったのか?
クライネのことを見る。眉根に皺が寄っている。どうやら知らなかったらしい。
「ここに何があるんだ?」
「迷宮の入口がありますよ」
家屋の裏、何もなかったところに地下への入口があった。
「こちらです。どうぞ」
「え~~~~?」
いつの間にこんなものを作ったのか。とりあえず追って下りていく。
フロイドが途中で足を止め、部屋を開けた。中はさっぱりとしていた。一卓の机に四脚の椅子。他には何もない。壁掛けの地図くらいか?
「この時の為だけに、さっき作ったお部屋です。お話し合いが終わったら作り替えます」
「そんなことを。何作るんだ?」
「回復部屋ですかね? トレーニング後の」
全く想像できない。結局何をする部屋なんだ?
まぁいい。今はケイとエルについてだ。
「二人はどこに行ったんだ?」
「え~~っと、マレットス国ですね」
質問すると、フロイドは壁にかかっている地図を見ながら答えた。
「マレットスといえば、お二人の所属国ですね」
「じゃあ帰っただけだろ?」
アイネは解決したかのようにすっきりした顔をしている。
僕はそういかない。二人が勝手にいなくなったことに憤っているのだ。きちんと話し合って僕も納得した上での帰省であるのなら、僕だってここまで怒らない。
今回は無断だ。そこに激怒しているのだ。絶対に会って話させてやる。
フロイドが指を鳴らすと、テーブルからメキメキとコップが生えてきた。
「え?」
「どうぞ、お飲みください。普通のお茶です」
え? お茶? 何か生えてきたけど?
「は、生えて、きました、けど?」
「はい。迷宮製ですので」
ニコニコしているが、だいぶ怖いぞ。これ、飲んで大丈夫なのか?
「うっま!」
アイネが飲み干していた。これを飲もうだなんて、なんという勇気だ。見倣わなければ。
「そこまでして飲まなくても」
気迫たっぷりに呷る僕を見て、クライネがポツと呟きを落とした。
「で、ケイとエルは故郷に帰っちまったんだよな」
「故郷じゃねぇよ」
「え?」
「エルは元々西側諸国ウネメの出身でこっちに流れてきた奴だ。ケイも旅をしてマレットスに着いたはずだぜ」
知らなかった。かなりの新事実だ。いや、今は関係ない。
「二人がマレットスに帰ったのは事実だろ」
「ま、それはそうだな」
「僕は二人と会って話を聞きたい。いや、聞くんだ! じゃないと僕の気が済まない!」
僕の怒号を聞いて、クライネは静かに目を閉じ、アイネはニヤニヤとし始めた。何だよ、何が言いたいんだよ。
フロイドもニヤリとする。
「そう言うと思いまして、馬車を準備いたしました! お二人が乗って行かれたものよりも高性能でございます!」
なぜかテンションが高い。きっと披露できるのが楽しみだったのだろう。
「それだとどれくらい早く行けるんだ?」
「通常の速度で一日半ほど。皆様の安全を考慮しなければ半日ほどで着きます」
はっや! 体が千切れ飛びそうなほど速いな。
「光属性をベースに、雷属性や金属属性を利用し、理属性でリカバリーをしながら進むことで限界を超えた速度を出すことができます」
自慢げに話すフロイドが扉を開けると、そこにはモンスターが一頭。僕がかつて大迷宮最下層で見た、濡れたような毛のモンスター。熊か犬か分からぬそれは、準備万端と言わんばかりに体を震わせつつ、くくくと笑ったような声を出している。
「何だ、こいつ」
「私も見たことがありません」
「僕は大迷宮で見たような」
「彼女はフンドン。混沌より産まれし王です」
「え」
彼女? 女の子?
「マジか。女っつーか、メスに見えなかったわ」
「え、えぇ、そうですね」
「それよりもさ」
気まずそうに目を逸らす二人やフンドンよりも僕の関心を引くものがあった。
「今のやり方でマレットスに行けねぇの?」
「え?」
「その、扉開けたら瞬間移動っていうので、僕達はマレットス行けねぇの?」
沈黙。
え、何この沈黙。
「そ、その発想はありませんでした」
「確かにそれなら時間かかんねぇな」
「はい、どうぞ~~~! もうマレットスの迷宮です!」
僕達が走り出す。すぐに光が見えてきて、そこには戦場。
「何だ、あのデカブツ」
「アイツはサワタマルク。調停者という名の狂人だ」
「あれはエルと戦ってんのか⁉」
見えたのは大きな山。その近くで争う二つの影。片方は数十mもある巨体。もう片方はボロボロの姿をしたエル。
僕の脳が沸騰寸前となる。
「周りは私等がやってやる。ユーヤ、お前はエルんとこに行け」
行けを言われるが早いか、僕は走り出していた。
待ってろ、エル。今行くからな!




