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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
8.レ・ミュー
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13.一気に劣勢となるエル

「ゴッポォ」


 血が流れ出る。いや、漏れているという表現の方が正しいか。

 サワタマルクはまだ押し込んでくる。肋骨は折れ、背骨は砕け、内臓は弾けた。すでにいくつかの瓦礫が体に刺さってしまっており、このままでは貫通したり、もっと刺さったりしてしまう。


 私は龍の鼻を掴み、助走なしで下顎を蹴飛ばした。少し空いた隙間に腕を入れ押し上げ、思い切り殴り飛ばす。

 拳の皮が破けた。下顎を強化しやがったな?


 瓦礫から体を剥がし、砦の中を走る。サワタマルクは尾を振り、砦ごと薙ぐ。

 私はわざとそれにぶつかり、外へ脱出する。離れる際の血吸いも忘れない。少しだけ回復する。

 大きく翼を広げて空中に留まった。


「体がデカけりゃ強い。真理だな」

「だが、私はお前との相性が悪い。細部が落とされる」

「生き残るための工夫だ。これも心理だな」

「エルよ。この争いを止める気はないのか?」

「は? あるさ、当然だろ? 私が楽しんでいるだけじゃない。周りに迷惑がかかるのは駄目だ」

「ならば」

「だけど、姑息は駄目だぜ、サワタマルク」


 龍が口を噤んだかと思ったが、会話は続ける。


「しかし、平和が早く訪れるのは善き事」

「平和など所詮戦争と戦争の合間の期間でしかない。そのスパンが短いのは、不安でしかないぞ。平和は嬉しいが、二日三日の平和なんぞ誰も喜ばん」

「なればどうするというのだ? 貴様の惨殺が何になる」

「悪いが私はすべてを救える天才英雄様じゃねぇ。私は自分の手で抱えられる分しか救えない一般凡人様だぞ。左右どちらか二択になっちまったら、どっちかを犠牲にしてもう一方を救う。それしか出来ねぇんだ」

「……そうか」


 重々しく一言を吐き、今度こそ龍は押し黙った。


「済まない、エル」

「あん?」

「貴様の考えは理解できる。しかし、私は調停者。どちらかが亡くなるのは看過できない」

「チッ! 頭でっかちな野郎だ。名が名がと成ったか」


 龍が炎を吐いてくる。私は大きく体を捻って躱した。龍はそこを狙い、尾を振ってくる。

 私は受け止めようとしたが、弾かれて地面と激突した。


 何だ? おかしい。体が重い。何でだ? ステップが遅いし、腕が重い。そもそも体全体が重い。

 闇属性魔法か。左側を半円状に見渡す。居ない。それらしい魔法使いはどこにもいない。では、右側か?

 しかし、その前に上から龍が下りてくる。


「やはりエルは危険だ。混沌の元となる」


 おそらく龍はこの状況に気付いていない。奇しくもガンドス側に与することになってしまっている。


 血を熱くする。もはや沸騰の域までやってきた。

 翼を溜め、少しジャンプした瞬間に解放する。サワタマルクの腹に突入する。

 サワタマルクは苦悶の表情をしながら爪を振るった。爪が私の頬に引っかかり、ベリベリと剥がされる。引っ張られる形で歯茎が傾き、歯も斜めとなる。頬がなくなってしまったため、歯が寒い。唇は亡びてないのに。


 これはもう短期決戦しかない。あぁ、明日は筋肉痛。動けなくなりそうだ。


 龍が炎を吐く。私は上側に回避しながら接近する。


 ガクンと体が落ちそうになる。


「あ」


 闇属性魔法め。ここまで気付かせずに実行し続けるなんて、凄い技術だ。

 私の動きが変わっていることに気付いていない龍は、私のことを圧倒できていると勘違いしている。サワタマルクは爪を振り下ろし、私を叩き落とした。

 違うな。これは強力な闇属性魔法じゃない。複数人による闇属性魔法の重ね掛けだ。それを別の魔法使いがカモフラージュしているだけなんだ。


「あ」


 小さな声が出る。腕がない。私の右腕が千切れている。爪が激突か、原因は何か分からないが、右腕を失った。

 私は吸血鬼だ。雑にくっつけて、血を飲んだりぶっかけたりすれば治る程度の怪我だ。

 但し、私は負けず嫌いである。ここで素直に終わらせるわけがない。


 私は倒れたまま、左手の人差し指と中指に血をつけ、森に向かって振る。血の刃を飛ばしたが、手応えはない。まだ体が重い。


 ザッと足音が聞こえ、私を影が覆った。ガンドス兵だ。斧を持っている。この首を落とす気か?

 もう一度指を振ると、ガンドス兵たちの上下半身が分かれる。


「貴様」


 上から龍の声が降ってくる。


「生き汚い。これも生物の真理だろ?」


 私はゆったりと起き上がりながら、龍を見上げる。

 こちらは手負いの獣。あちらはまだまだ動ける獣。


 私はペッと血塊を吐き出しながら、自分の腕を拾い上げた。


 さて、どうすっかなぁ。これで五分五分か? いや、こちらが劣勢だろ。


 あぁ、いいね。これこそが戦いだ。

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