13.一気に劣勢となるエル
「ゴッポォ」
血が流れ出る。いや、漏れているという表現の方が正しいか。
サワタマルクはまだ押し込んでくる。肋骨は折れ、背骨は砕け、内臓は弾けた。すでにいくつかの瓦礫が体に刺さってしまっており、このままでは貫通したり、もっと刺さったりしてしまう。
私は龍の鼻を掴み、助走なしで下顎を蹴飛ばした。少し空いた隙間に腕を入れ押し上げ、思い切り殴り飛ばす。
拳の皮が破けた。下顎を強化しやがったな?
瓦礫から体を剥がし、砦の中を走る。サワタマルクは尾を振り、砦ごと薙ぐ。
私はわざとそれにぶつかり、外へ脱出する。離れる際の血吸いも忘れない。少しだけ回復する。
大きく翼を広げて空中に留まった。
「体がデカけりゃ強い。真理だな」
「だが、私はお前との相性が悪い。細部が落とされる」
「生き残るための工夫だ。これも心理だな」
「エルよ。この争いを止める気はないのか?」
「は? あるさ、当然だろ? 私が楽しんでいるだけじゃない。周りに迷惑がかかるのは駄目だ」
「ならば」
「だけど、姑息は駄目だぜ、サワタマルク」
龍が口を噤んだかと思ったが、会話は続ける。
「しかし、平和が早く訪れるのは善き事」
「平和など所詮戦争と戦争の合間の期間でしかない。そのスパンが短いのは、不安でしかないぞ。平和は嬉しいが、二日三日の平和なんぞ誰も喜ばん」
「なればどうするというのだ? 貴様の惨殺が何になる」
「悪いが私はすべてを救える天才英雄様じゃねぇ。私は自分の手で抱えられる分しか救えない一般凡人様だぞ。左右どちらか二択になっちまったら、どっちかを犠牲にしてもう一方を救う。それしか出来ねぇんだ」
「……そうか」
重々しく一言を吐き、今度こそ龍は押し黙った。
「済まない、エル」
「あん?」
「貴様の考えは理解できる。しかし、私は調停者。どちらかが亡くなるのは看過できない」
「チッ! 頭でっかちな野郎だ。名が名がと成ったか」
龍が炎を吐いてくる。私は大きく体を捻って躱した。龍はそこを狙い、尾を振ってくる。
私は受け止めようとしたが、弾かれて地面と激突した。
何だ? おかしい。体が重い。何でだ? ステップが遅いし、腕が重い。そもそも体全体が重い。
闇属性魔法か。左側を半円状に見渡す。居ない。それらしい魔法使いはどこにもいない。では、右側か?
しかし、その前に上から龍が下りてくる。
「やはりエルは危険だ。混沌の元となる」
おそらく龍はこの状況に気付いていない。奇しくもガンドス側に与することになってしまっている。
血を熱くする。もはや沸騰の域までやってきた。
翼を溜め、少しジャンプした瞬間に解放する。サワタマルクの腹に突入する。
サワタマルクは苦悶の表情をしながら爪を振るった。爪が私の頬に引っかかり、ベリベリと剥がされる。引っ張られる形で歯茎が傾き、歯も斜めとなる。頬がなくなってしまったため、歯が寒い。唇は亡びてないのに。
これはもう短期決戦しかない。あぁ、明日は筋肉痛。動けなくなりそうだ。
龍が炎を吐く。私は上側に回避しながら接近する。
ガクンと体が落ちそうになる。
「あ」
闇属性魔法め。ここまで気付かせずに実行し続けるなんて、凄い技術だ。
私の動きが変わっていることに気付いていない龍は、私のことを圧倒できていると勘違いしている。サワタマルクは爪を振り下ろし、私を叩き落とした。
違うな。これは強力な闇属性魔法じゃない。複数人による闇属性魔法の重ね掛けだ。それを別の魔法使いがカモフラージュしているだけなんだ。
「あ」
小さな声が出る。腕がない。私の右腕が千切れている。爪が激突か、原因は何か分からないが、右腕を失った。
私は吸血鬼だ。雑にくっつけて、血を飲んだりぶっかけたりすれば治る程度の怪我だ。
但し、私は負けず嫌いである。ここで素直に終わらせるわけがない。
私は倒れたまま、左手の人差し指と中指に血をつけ、森に向かって振る。血の刃を飛ばしたが、手応えはない。まだ体が重い。
ザッと足音が聞こえ、私を影が覆った。ガンドス兵だ。斧を持っている。この首を落とす気か?
もう一度指を振ると、ガンドス兵たちの上下半身が分かれる。
「貴様」
上から龍の声が降ってくる。
「生き汚い。これも生物の真理だろ?」
私はゆったりと起き上がりながら、龍を見上げる。
こちらは手負いの獣。あちらはまだまだ動ける獣。
私はペッと血塊を吐き出しながら、自分の腕を拾い上げた。
さて、どうすっかなぁ。これで五分五分か? いや、こちらが劣勢だろ。
あぁ、いいね。これこそが戦いだ。




