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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
8.レ・ミュー
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12.不意を突かれるケイ

 手首が痛い。いや、右腕全体が痛い。筋肉が張ってしまっている。

 可愛らしい僕の腕がカチカチの筋肉質になってしまう。いや、その前に僕の腕が死んでしまう。明日は筋肉痛が発症して、何もできなくなるな。

 僕は左利きじゃないし、左手で物を持つ練習をしていない。左手でご飯は食べられないから、誰かに食べさせてもらわないといけないな。


「はい、これを5番に」

「ハ、ハイ!」


 伝令の一人が天幕を飛び出していく。

 僕は彼等への伝達を極力減らすため、地図の各エリアに番号を振った。それぞれの場所の仮拠点の名前が少し長いため、番号の方が早い。今は番号が5番まである。

 ちなみにエルがいる場所は4番だ。


 えっと、エルは今、どういう状況なのか? お? サワタマルクじゃん。

 サワタマルクのランクは神話級下位。その中でも中堅くらいだ。

 エルのランクは神話級中位。その中でも最上位くらいだ。

 エルが本気を出せばサワタマルクに勝てる。これは間違いない。但し、大きな被害が出るだろうし、時間がかかってしまう。

 なるべくガンドスとの戦争はこれっきりにしたい。ここからまた侵略されてしまっては、戦争が長引いてしまう。僕は早く終わらせたいし、早く帰りたい。


 僕の魔眼だって万能ではない。未来を視ると言っても見える範囲はせいぜい数日程度。数か月どころか数十日など決して無理だ。魔力が足らない。咄嗟に使ったとしたら、長くても3秒しかない。次の行動しか決められない。それよりも先の策まで練られていたならば、僕は対応しきれずに死ぬ。


「これ、2番に」

「ハイ!」


 伝令が一人、また走り出ていく。残りの伝令は一人。蜥蜴獣人族の青年が自分の番を待っている。

 他の伝令はまだ帰ってきていない。こいつには他の天幕で待機している伝令に応援を呼ばせに活かせた方がいいのか?

 いや、次の伝令で一旦、落ち着きを見せることになる。ぶっちゃけ1時間くらいの落ち着きだが、それまでに伝令は帰ってくるだろう。


 よし、次の伝令も走らせてしまおう。


「よし、これは4番に頼んだ」

「はい!」


 青年が走っている。


 僕は椅子に腰かける。そして、地図を横目に、今の戦況を魔眼を見つめた。


 1番は海上。ガンドス側には巨大なガレオン船やガレー船が30を超えている。1つ辺りに100人以上が乗っており、中には数人の魚人族がいる。

 一方こちらのマレットス側は100人程度の魚人族。

 人数差がかなりある。そうだというのに、なぜかこちらが勝っている。まぁ、海上の戦いは陸上での戦いと大きく違う。


 魚人族が向こうにもいるとはいえ、船ごと相手を鎮め、岸に上がれないようにという戦術を徹底している。さらに相手の魚人族に対しては人数差で取り囲んで殺害。

 隊長のユジメジにも伝えてあることだし何も問題ないな。


 そもそもこの戦術が強すぎる。マレットス建国よりも歴史が長く、約600年間破られていない。過去に、雷を落とせばいいではないかと提案した者がいたが雷向こうのアミュレットを標準装備していたため、作戦は成功しなかった。

 当たり前だ。明確な弱点を残しておくはずがない。

 魚人族の大多数が味方でよかった。終わったら新鮮な野菜や果物を持っていこう。


 5番のアズリィボ漁港も同様だ。魚人族が100人以上いる限り、破られることはない。

 陸上を行こうにも海へ落とす方向へ魔法を使われる。慈悲はない。


 2番はピレッツァ山。山は基本、高所を取った方が有利だ。マレットス兵は後手を取ったせいで、高所を取られてしまっている。

 これまでは、その状況でも膠着状態であったが、サワタマルクが動き出したことで混乱に陥っている。

 マレットス側を率いている巨人族のバンバロックスを無視することができない。そのため、ガンドス兵は迂闊に動くことができない。

 数百人でもそこに縫い留めらるのは大きい。そのままで頼むぞ、バンバロックス。チェリーパイを贈ってやろう。


 3番はタイバル平原。ここも膠着状態だ。平原ということもあり、互いの様子がそこそこ分かってしまう。両者の間に流れる国境を示すイシクメ河で睨み合っている。

 相手が動いてから動こうという魂胆だ。このままだと『食事する哲学者の問題』となってしまいそうだが、ありがとう、チャテェヴォリュートゥ。縫い留めてくれて、本当にありがとう。

 後で菓子折りでも持っていきましょう。


 最後に4番。エルのところは大変だ。サワタマルクとの戦闘が勃発してしまった。

 もう砦は崩壊してしまっている。

 でも、大丈夫。今、アイツが向かってくれている。


 僕は魔力を節約するために魔眼を切り、力を抜いた。


 ……ユーヤに何と言い訳をしよう。四の五の言わずに謝罪だが、それで許してもらえるだろうか。ユーヤだけでなく、マレットスの方も。


「処刑が妥当だもんな、この失態」


 僕は何も考えずに立ち上がり、手持ち無沙汰となって地図の前に立つ。


「どうすっかなぁ」


 足音はない。風による葉擦れ、自然の音しかない。それでも気配が近づいている。

 誰だ? 伝令? いや、それはない。足音を鳴らさない意味がない。

 思い浮かぶのは獣人族。その中でも猫獣人族は隠密に優れている。マレットスとガンドスとの国境付近に領土を持つ、ガンドス兵のヒューイエンか。

 奇襲? 当然だな。これだけ戦況を変える知将がいれば、先に殺す。僕だって同じ立場ならそうする。


 一つ芝居をしてやろう。

 バサリと天幕が開いた。やはり猫獣人族。やはりヒューイエン。


 じゃあ、目ぇ見張ってやろう。

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