11.見つけ出すヒューイエン
僕は特別自分が知略に優れているとは思っていない。
ひたすらにリスクを削り、当然を突き詰めた結果、思いつく抜け穴を全部潰し、取りうる手段は可能な限り網羅し、出来るだけ物事を悲観的に考えて失策を減らしていく。
それをとことん徹底している。
それで思い浮かばない作戦や行動、奥の手が準備されていた時、僕は手も足も出ないだろう。
その程度が僕のできる範囲、能力だと弁えている。
幸い、それが起こることはこれまでになかった。あるいは出会っていても決定的な敵対を避けることができていた。だからこそ、国王様より領地を賜るに至り、またこうして今まで生き残ることができたのだ。
ただし―――、
「戦況が変わったな」
―――今回はどうやらそうはいかないかもしれない。
僕は最近の戦場の空気にそう嘆く。
キャプリシア砦が奪還された。あそこはクルセンが奪い守っていたはずだ。
僕は特別強いわけではない。しかし、クルセンは強い。戦いを好み、強きを良しとするガンドスの中でもトップクラスに強い。伝説級に到達しているのはその証左であり、このガンドス内でも稀な才能である。
ガンドスでも指折りの強さを持つ狼獣人族クルセンが負けた? 五本指に入るクルセンが裏切りでもしたというのか? それとも部下に裏切られたか?
……指の付く慣用句って多いな。一番身近だからか?
これに関しては後でいい。今はキャプリシア砦のことだ。あそこはかなり重要な位置にある砦だ。絶対に取り返したいところ。
しかし、すぐに行動してはいけない。僕は頭を働かせなければ勝てないからだ。
戦況が自然に変わることはない。変わるには要因が二つある。環境要因と人的要因。噴火や地震、雨嵐の情報は入ってきていない。環境要因ではないとすれば人的要因だ。
マレットスにいる異常者エルか? ケイか? どちらかではなく、両方が参加したか? 他の可能性はない。クルセンを対処し得るほどの人的要因など、その二人以外はないと断言してもいい。それに他の可能性を考えられるほどの時間はない。
エルは前線へ参加するタイプだ。僕なんかが相手したら1秒も経たずしてバラバラにされてしまうだろう。
ケイは逆に天幕にいるタイプだ。彼女は前線に出ず、後ろから指示を飛ばす参謀。戦争において参謀を殺せば前線は混乱し崩壊する。
まずはケイを潰す。
僕は望遠鏡を持ち出し、天幕の数を確認する。全部で五個。どれかにケイがいると仮定しておこう。
それぞれの天幕には距離がある。一つの天幕の襲撃に失敗すれば他の天幕に伝わり、こちらの負けが濃厚になる。いや、その前に襲撃があった時点で他の天幕が感知する可能性が高いか。
問題はいいろいろとあるが、一番の問題はケイが魔眼族であるということだ。
襲撃がバレている可能性が高い。望遠鏡を覗きながら天幕を考える。
普通なら真ん中だ。全体が見えるからだ。
しかし、相手は賢者だ。僕程度が考え付くことなんか、賢者が思いつかないはずがない。
「ム?」
ここから奥側の天幕の一つが慌ただしい。あそこが何かあるな。ケイか?
僕達が行けばバレる。知らないやつを送った方がいいか?
いや、ここは僕の勘が言っている。髭がピクピクと反応している。この考えは間違っているのか。
一気に行った方がいいということか。
バレるかもしれない。しかし、僕の髭が間違ったことはない。
「お前等、静かに急いで行くぞ」
「承知」
僕の領地は、僕が猫獣人族ということもあり、兵にも猫獣人族が多い。足音を出さずに歩くことができる。
精鋭の九人とともに奥から二番目の天幕を目指す。
とにかく静かに。とにかくスピーディに。
相手に気付かれないように。相手が気付かないうちに。
ハンドサインのみで部下に指示を出し、散開させる。部下九人を三人三組に分け、二組を左右に、一組を先行させた。
包囲して殺害する。四方を囲んで逃避できないようにする。
それが僕の役目。
僕は足を止める。あそこの天幕にいる可能性が高い。
もう目と鼻の先だ。一気に片を付ける。
ハンドサインを出し、四方から速攻で突入する。
三方は天幕の中に入る者と入らずに張り付く者に別れた。中には人間族の子供のような背格好をした女の子。
分かる。あの少女がケイだ。
少女は目を丸くしている。よし、奇襲はバレていなかった。
僕は懐からナイフを取り出し、ケイに襲い掛かる。
ケイは目を丸くしたまま、体をユラユラと揺らし始めた。




