ひりひり国とぴりぴり国
ひりひりとぴりぴりは、びりびりと相性が良いようで。
おや?
眠れないのかい?
こんなひりひりした空気の夜には、ホットミルクでもいれてあげようか?
ねこのぬいぐるみのひげを引っ張るのはおよし。ひげがぴりぴりしているよ。
なんだい。ねこの絵本を読んでくれって?
あいにくばあばの家には、1冊も絵本がないんだよ。
じゃぁ、お話を聞きたいって?
しかたないねぇ。とっておきの話をしてあげるよ。
でも、お話を聞いたら、すぐ寝るんだよ。
むかし、むかし、あるところに、仲の悪い国が隣り合ってありました。
北をひりひり国、南をぴりぴり国と言いました。
ある時、ひりひり国の王様は、「いつまでもお隣の国と仲が悪いのは我が国にとってよくないことだ」とぴりぴり国に「仲よくしよう」と遣いを送りました。
ぴりぴり国の王様も「たしかにそうだ、隣の国と仲良くなれば、たくさんよいことがある」とそれに応えました。
ひりひり国には、とても美しいお姫様がいました。雪のような白い肌に、さらさらの銀色の髪、そして瞳はひりひり国にある深い深い湖を表したように青く、唇はそこだけ血が通っているかのように赤いのでした。
ぴりぴり国には、美丈夫な王子様がいました。体は程よくしまっており、浅黒い肌は男らしく、すらりと伸びた鼻や整った位置にあるきりりとした目や口は、王者の風格を備えていました。
王様たちは、仲良くする証として、自分のところのお姫様と王子様を結婚させようと約束しました。
約束通り、それからしばらくたって、お姫様はぴりぴり国に挨拶にいきました。
ところが、ぴりぴり国の王様やお妃さまや王子さまがいくら待っても待っても、お姫様は白い大理石でできた美しい宮殿には現れません。
「どうしたことか?」と知らせを待っていると、ひりひり国から伝書鳩が飛ばされてきたのです。
「わたくしには、ぴりぴり国に滞在するのは無理です。だって、強い日の光で、肌が真っ赤になってしまったのですもの。肌がひりひりして、今も辛いですわ」とのことでした。
ぴりぴり国の王様は残念がりましたが、次の手を打ち、今度は王子様をひりひり国に行かせることにしました。
ところが、王子様も、王様とお妃さまとお姫様がいくら待っても待っても、暖かい色の煉瓦でできたひりひり国の宮殿にはやってきません。
「どうしたことか?」と知らせを待っていると、ぴりぴり国から伝書鳩が飛ばされてきたのです。
「道が悪い所を馬車で移動している内に、時間がたって冬になってしまった。ぴりぴり国の馬車では、冬のひりひり国には入れない。寒さでぴりぴりして、川が凍り、橋がつるつるで、危険で渡れなかったので」とのことでした。
お姫様と王子が会えないことで、おこったのは国民でした。
もともと口が悪いので、何かあるとすぐケンカになります。
「お肌におしろいでもぬってくりゃいいんだ!かよわけりゃ、なんでも許されると思うな!」
「凍った川一つ渡れないなんて、弱虫もいい所だわねぇ」
「それに、滑り止めがついていない馬車しかないなんて、技術が遅れているよな」
「あちらのお姫様、最初から来る気がなかったんじゃない?」
「なんだと!それはこちらのセリフだ!」
これらばかりではありません。
伝書鳩でお互いのことを悪く言う悪口合戦の始まりです。
「だいたいいつもぴりぴりして怒っていて、あんたちのことは好かない」
「こちらだって、いつもひりひりと神経がたっていて、一緒にいると落ち着かない」
「それはあんたたちだろう?いつもぴりぴり神経が過敏で、ささいなことでもきんちょうして。そんなことだと長生きできんぞ」
「なにを、平均寿命はぴりぴり国の方が長いぞ」
「ひりひり国の人間は、陽気に歌を歌って、のどがひりひりするまで声をだせるほど、丈夫なんだ」
「いつもけがして風が吹くと、ひりひりして辛いって泣いているくせに!」
「そっちはけがが治ったあとも、ぴりぴり古傷が痛むそうじゃないか!」
「ふん!」
「ふん!」
それに心を痛めたのは、その原因を作ったお姫様と王子さまでした。
お姫様は、王子様に伝書鳩を飛ばしました。
「何か争いをおさめる良い方法はないでしょうか?」
王子様も伝書鳩で答えました。
「我が国とひりひり国は、色々なものが違う。共通のものが見つかれば、それを機に仲良くなれるやも」
それだ!と思ったお姫様は、宮殿の図書館に行って、調べに調べました。
はじめは何もかも違って、何も見つかりませんでした。
ところが、古い文献に『びりびり草』と言う植物が載っていました。
びりびり草は、強い植物で、寒いひりひり国にも暑いぴりぴり国にも生えているという事でした。
それを王子様に伝えると、「私に良い考えがあります」と返ってきました。
王子様は宮廷料理人を集めて、びりびり草で料理を作りました。
口の中がびりびりするほど、辛い料理です。
そんな辛い料理を誰が食べるかって?
心配いらないよ。
だって辛い料理を食べる時、のどがひりひり、舌がぴりぴりするだろう?
ふふふ、やっとわかったようだね。
そのびりびり料理で、ひりひり国とぴりぴり国は仲良くなったのさ。
おいしいと感じるものを食べると、いさかいなんてどうでもよくなっちまう。
そして、それが自分の所のお姫様と王子様の努力の結晶だと知ったら、うれしくってありがたくって、仲が悪いどころか、一番の友好を結んだ国、つまり大親友の国になったそうだよ。
ひりひり国の国民もぴりぴり国の国民も、口の中をびりびりさせながら、お互い笑い合ったのさ。
さ ぁさぁ、もう寝な。
まだ?じゃぁ、本当にこれでしまいだよ。
お姫様と王子様は、それから結婚して、北と南のちょうど中間にびりびり国っていう国を建てたんだとさ。
さあねぇ。その国がどこにあるのかまでは知らないよ。
びりびり料理を食べてみたいって?
こどもにはまだ早いから、やめておくんだね。
さぁ。寝る時間だ。
そのぴりぴりしたお目目を早く閉じないと、明日の朝、目をひりひりこすることになっちまうよ。
ねこのぬいぐるみも、おや?マーヤってつけたのかい。
マーヤもしっぱをぴりぴりしながら、ぼうやが寒さでひりひりしないように側にいるよっていってるさね。
だから、安心してぐっすり眠るんだよ、良い夢を。
おやすみ、ぼうや。
おしまい
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