魔王、入学
暖かな陽射しが新たな季節の訪れを感じさせる、四月の上旬。
俺は今日からここ、彩壬学園へと通うこととなった。
二年前に出来た私立の新設校であり、
設備も新しく充実しているし、学園祭や体育祭などのイベントにも熱が入っているという。
中学時代からの友人が一人も同じ進路を選ばなかったことに若干の不安を抱えながらも、
それよりも遥かに大きな期待に胸を膨らませ、
「愛内青葉です、一年間よろしくお願いします」
体育館で何やら面倒な式が終わった後の、教室に戻っての自己紹介タイムで。
今まで生きてきた中で一度たりとも出席番号一番を逃したことのない自分の名を紹介する。
こういうのは最初は下手にネタに走らず無難な挨拶に留めておくに限る。
特に俺にはクラス内に知人が居るわけでもなく、早々にハブられでもすれば健全な高校生活への復帰の機会はそうそう与えられないのだから。
「よろしくな愛内ー。じゃあ次ー、出席番号2番、闇野颯真」
担任の学屋勉先生(28歳独身)が、次の名前を読み上げる。
あんのそうま、か。庵野とか安野とでも書くのかな?
「む、我輩の番か。しかし、せっかく我輩に相応しくかつ出席番号1番を取れそうな名にしたというのに、まさか愛内とはな」
あれ?おかしくね?ここ、高校一年生の教室ですよね?
何故俺の背後から、若本則夫ボイスが聞こえてくるというのだろうか?
「我輩の名は闇野颯真、魔王だ」
思わず振り向くと、そこには。
「我輩は、1番が我が手中に納まらねば気が済まん。
1年1組出席番号1番、愛内青葉よ。我輩の下僕となれ」
ゴテゴテの鎧の上に学生服を羽織り角の生えた兜を被った、青い皮膚に阿修羅の形相の、巨漢のオッサンがいた。