異世界に行き損ねた話
読み専だったが初めて書いてみたので、せっかくなので投稿してみました。
小説書くのって難しいですね。
読んでくれると嬉しいです。
「ハァッ、ハァッ、ハアッ、ハァッ!」
十二時二十五分
改札を出るとぶつからない程度に速歩、人の少ないところではダッシュする。
「はい、今日の昼に取りに伺います! ありがとうございます!!」
スイーツ! 本場ウィーンのホテルザッハーのザッハートルテ!!
二年前、乞食速報に載っていた、一万円以上で全世界どこでも送料無料! でホールケーキを二台購入した、あのザッハートルテが、再び俺の手中に収まろうとしている!
もちろん、今度はただじゃなく空輸料金が上乗せされている、それでも、本場のザッハートルテを食べてしまった今の俺には全くそんなことは気にならない、いや気にならないと言ったらウソだ、だが流石にケーキと同値段の空輸料金をはるかに下回る限定輸入三百台のザッハートルテは、個人輸入なんぞとは比べ物にならないくらいに良心的料金だ!
「ザッハー! ザッハートルテ!!」
つい口をついで出てしまう。早歩きで息を切らし鬼気迫る俺と相まって、通りすがった人が迷惑気に振り返る。だがそんな視線は気にならない、何故なら自慢だからだ。そう、十分後には俺はウィーンのホテル、ザッハートルテを手に入れている!
交差点に差し掛かる。向かう先は点滅した信号。ダッシュは掛けない。そう、店舗まであと二十メートルもないからだ。
そしてここからはその店舗帰りだろうザッハートルテの入っているだろうホテルザッハー特製の紙袋(上品なエンジ色の紙袋に、金色の筆記体でホテルザッハーと入っている、多分、視力両目で一未満だから字までは読めん)を手に得意げで幸せそうな人々、勝ち組の姿を複数人観測する。そして五分もしないうちに俺もあの全き幸福な勝ち組に仲間入りするのだ。
――この信号の待ち時間も、来るべきザッハートルテを手にする瞬間へとほどよい緊張へと高めてくれる。そら、反対側の信号が点滅しだした。これは俺の勝利へのドラムロールに他ならない。
逸る心につま先は正直に、たまらずじりじりと点字ブロックへと伸びていく。あと少し、そらもう目の前だ。
俺の目は再び店舗へと延びる栄光の道へと向かう。
その意識を途切ぎったのは、急ブレーキからのタイヤが道路を噛みつく汚い高音だった。
四トントラックが、同じように痺れを切らしたランドセルの女児を捕らえていた。
――ウソだろ!? 交通道徳を学校で学ばなかったのかよ!!
と同時に、
――死ぬときって、世界がスローモーションになるって本当なんだ。
ということを俺は知った。
女児は俺に突き飛ばされて、無事に歩道へと吹っ飛んだ。そして俺は、体全体に四トントラックの衝撃を受けた。
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「こんにちは、私が見えますか?」
淡いオレンジの空を背景に、栗毛を緩く巻いた鼻筋の通った西洋美人が見える。
「あら嬉しい、美人だなんて。」
「美人が俺の心を読んだ。」
「ええ、私、キミ達の言うエンマ大王だから。そしてここは、キミ達の言うところの、ア・ノ・世。そして、裁きの庭よ。」
「あの世……あの世!?」
がばりと上半身を跳ね起こす。そうだ、俺はトラックに轢かれ、」
「そう。今どき殊勝な青年ね。子供をかばって自分が死ぬなんて。」
「死……。」
「そうよ。でもあなたの寿命、まだまだたぁっぷりあるの。だから、その分を、」
「異世界転生か?」
エンマ大王は目を見開いてわかりやすく驚く。
「最近ここの来たヒトたちみんなソレを口にするんだけど、流行ってるの? 流行ってるのね?」
ずいと顔を寄せてくる。美人に顔を寄せられて、思わず少し離す。
「キミは何が望みなの? あなたたちのが詳しいから、私にリクエストして頂戴よ。全くその通りにして上げられるから。」
――いいいいいいいいやああああああああああっったあああああああああああ!!!!!!!!!!!
「死んでラッキー1!! 寿命が鬼のように残っているうちに死んで良かった!!!」
「本当に、最近ソレばっかりだわ、さ、早くオーダーして頂戴。」
「はい、俺、……いざ現実になると難しいな、なんのスキルにしよう、これはセンスが試されるぞ。あっレベル、レベルチートにしてもらおう。秒で上がるような意のままの、」
「レベルチートね、わかったわ。世界は、どこに転生する?」
「俺tueeeeeee!! を体感するには、やっぱり中世ヨーロッパだな、いや、中世ヨーロッパ風だ、風です、お願いします!」
「欧州、風ね、わかったわ。お安い御用よ。……欧州といっても広いんだけれど、どこら辺にする? やっぱりイタリア風? それともフランス風?」
「いや、俺はマイナーだがウィーン……、」
そこで再び、死んだこと以上のことに気が付いた。
「ウィーン? スキルは悩んだけれど、国は名指しだなんて、相当思い入れがあるのね。思い出の土地なの?」
「いいや、全然行ったことも見たこともなければ場所もよくわからない。けど、そこで一番有名なケーキの味を、俺は知ってるんだ。」
「そう。じゃあ、転生先の異世界でキミがその味を再現して、異世界で一番有名なケーキ屋さんになるのね。」
「いいや違う! あくまで俺は一般消費者だ! いや、俺がその異世界の勝者となってザッハートルテを食べるのもいいな。いや、異世界はザッハートルテがないんだから、まずホテルザッハーを作るところから??? えっホテルを作るのは流石に面倒だし時間がかかりすぎるぞ?!」
「そんなこと私に言われても。キミのレベルチートの力でホテル建設を頑張ったらいいわ。簡単よ。きっと。」
「いやいや時間が掛かり過ぎる! ホテル作ってからのケーキってどれだけ時間がかかるんだよ! そもそも俺はあと十分もしないうちにそのホテルザッハーのケーキが食べられたんだよ!!!」
「いや、涙を流さないでよ、死んだんだから。じゃあ子供を助けなきゃ良かったの?」
「それは助けてよかったよ!!」
「じゃあいいじゃない。その善行とあと九十年の寿命を使って異世界で楽しみなさいな。」
「九十年?! 俺九十年も寿命あったの!?」
「だからチート具合も好きにさせてあげられるのよ。」
「九十年は生きすぎだろ俺……さすがにそんないらねぇわぁ……。」
「贅沢言うわねぇ、みんな生きたくて仕方がないっていうのに。でも、その九十年の寿命を全て数値に置き換えられるわよ。」
――二十五の若さで死んで正解だったかもしんないな。
「ん!? 今何か見えたぞ!? エンマ様の背後に、死ぬ前に見た紙袋が、ザッハートルテのえんじ色の紙袋が!!」
「え? ああ、あなたの遺体に駆け寄ってる女性がその紙袋を持ってるのね。」
その言葉に驚きエンマ様の裏をのぞき込めば、道路に仰向けに倒れる俺を、助けた女児と共にくだんの女性、恐らくその子の母親が、今話題のザッハートルテの紙袋を腕に下げて俺へ泣きながら感謝を詫びを告げていた!!!
「子供から目を離してザッハートルテ受け取りに行ってんじゃねーよ!!!!!」
俺の、文字通り魂からの叫びは肉体からも飛び出ていた!
「ひゃっ、生き返った!?!?!」
「お兄ちゃーん!!!」
くらとひどい貧血に再び倒れそうになるが、女性はとっさに俺の後頭部を支えた。そして近づく救急車のサイレン。
女性の背後に、エンマ様が手をひらひらと振っているのが見えた。“バイバイ”と。
――あれ、異世界でチート俺つええ計画……。
「被害者、意識あり!」
「お名前が言えますか?!」
「……ザッハートルテ。」
「あなたのお名前です。」
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俺は今、病室の個室でホテルザッハーのトルテを食べている。
うまい。やはりホテルザッハーのザッハトルテはうまい。デメルのザッハトルテもいいが、やはり俺は元祖たるホテルザッハーのトルテが一番好きだ。
ノックの音が響く。
「どうぞ。」
申し訳なさそうな顔をした女性と女児、そして男性が姿を現す。そして男性の手にはえんじ色の紙袋だ。
「この度は本当に申し訳ありませんでした。そしてありがとうございます、うちの娘を助けていただいて。」
男性は今日もその紙袋を俺に手渡す。
「いいえ、お父さんもケーキ職人として忙しい中、ありがとうございます。」
「お命に別条がなくて、本当に良かった……」
「寿命を二十年ほど使いましたから。」
「えっ寿命!?」
「いいえ! 当時は寿命が二十年は縮んだ思いをしたという独り言です! 縮んだとしても俺は残り七十年は生きられますから生きますから!」
はははと笑えば著名なパティシエもはははと笑う。
それでからがばりと上半身を二つに折り曲げた。
「治りましたら、本場ウィーンのホテルザッハーへご招待させていただきます!」
「そうですね、ホテルの内装を知られれば魔法で作られるかもしれませんから。」
俺は今度は小声でひとりごちる。
「魔法?」
女児が小さく呟き返す。俺がかばった、五体満足な女児だ。
――この子が無事で本当に良かったと、今なら思える
練習&テスト的に作成したものです。
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