みんな大好きコロッケそばがやって来た!
「ふいいぃぁー、うめぇー……」
風呂上り、1階の店舗から持って来たビールを飲んで一息つく文哉。
そう、前回のレベルアップによってメニューに加わったビールだ。
ビールがメニューに追加されてからというもの、辻そばは怒涛の忙しさに襲われている。流石に朝から酒を飲む者はあまりいないが、それでも夜勤明けの兵士などが朝から1杯ひっかけていくし、昼になると誘惑に耐え切れずビールに手を出す客がちらほらと現れ始める。そして夜になるとビールを求める客で店内がごった返す。今までは昼の時間帯が最も忙しかったのに、ビール登場からは夜の時間帯が最も忙しい戦場になった。
異世界の人たちの酒にかける情熱というか、執念は凄いと思い知らされた。テレビも携帯電話もパソコンもないこの世界だ、夜の楽しみといえばメシか酒くらいのもの。1日の終わり、仕事でくたくたに疲れたその最後の最後に美味い料理と美味い酒でその日を締めたいという欲求。もしかすると、そこにかける執着心は異世界の人たちの方が強いのではないだろうか。
ビールに合わせる料理としては、やはりカレーライスが最もよく出る。その次が天ぷらそばといったところか。これら2品は、ビールを求める客にとって酒の肴としての側面が強いようだ。夜によく出るのは今のところこの2品だが、ギフトがレベルアップしてメニューが追加されれば他の料理も出るようになるだろう。
それに今日は丁度ギフトのレベルがアップし、ビールにも合う非常にタイムリーなメニュー、コロッケそばが追加された。
単品でも美味いアツアツサクサクのポテトコロッケが乗った、温かいそば。そばつゆが染みて少ししんなりとしたコロッケを齧り、一緒にそばつゆも飲むと渾然一体となってとても美味い。そして、そのコロッケの余韻が消えぬうちにビールを流し込むのだ。これがまた、たまらなく美味い。これはきっと異世界でも受けるだろう。
コロッケそばとビール。この組み合わせを求めて異世界の人たちが殺到することは間違いない。今はまだ3人でどうにか回せているが、これからもっと忙しくなるだろう。ほんの少し前にチャップを雇ったばかりだが、もう1人か2人、従業員を増やす必要がある。そうしないと休日もないブラック企業一直線になってしまう。文哉が何より唾棄すべきものとして認識しているブラック企業に。それだけは何としても避けなければならない。
ともかくギフトのレベルが上がり、ステータス表示にも多少の変化があった。今現在のステータスは以下の通り。
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ギフト:名代辻そば異世界店レベル8の詳細
名代辻そばの店舗を召喚するギフト。店舗の造形は夏川文哉が勤めていた店舗に準拠する。
店内は聖域化され、夏川文哉に対し敵意や悪意を抱く者は入ることが出来ない。
食材や備品は店内に常に補充され、尽きることはない。
最初は基本メニューであるかけそばともりそばの食材しかない。
来客が増えるごとにギフトのレベルが上がり、提供可能なメニューが増えていく。
神の厚意によって2階が追加されており、居住スペースとなっている。
心の中でギフト名を唱えることで店舗が召喚される。
召喚した店舗を撤去する場合もギフト名を唱える。
次のレベルアップ:来客6000人(現在来客321人達成)
次のレベルアップで追加されるメニュー:肉辻そば、冷し肉辻そば
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ギフトのレベルが8になったことでコロッケそばが追加され、次のレベルアップで追加されるメニューも開示された。温かいそばのカテゴリーから肉辻そばと、冷たいそばのカテゴリーから冷し肉辻そばの2品だ。
いずれも甘辛く味付けした豚肉と温泉玉子、そしてのり1枚がトッピングされたそばだ。冷し肉辻そばの方には、これに加えて真っ赤な豆板醤も乗っている。
辻そばのメニューとしては珍しい、がっつり肉が使われたそばだ。今の季節は暑い夏。スタミナの欲しい働き盛りの若者たちが特に好むそばではなかろうか。それに酒の肴としての活躍も大いに期待出来る万能選手だ。文哉もブラック企業時代、夏には随分と冷し肉辻そばのお世話になったものだ。
名代辻そば異世界店のメニューはどんどん磐石に近付いているが、まだまだ足りないものも多い。ご飯ものにはかつ丼という大物が控えているし、文哉が辻そばのメニューの中でも特に好きな紅生姜天そばもまだ姿を見せていない。それにアルコール類もビールだけとはいかない、まだ2大巨頭の片翼、ハイボールが残っている。更には店舗限定メニューの数々。例を挙げればキリがない。
ともかく、名代辻そば異世界店にはまだまだレベルアップの余地がある。
当初の、かけそばともりそばしかメニューがなかった状態から比べれば雲泥の差だが、こんなもので満足してはいけない。文哉も辻そばもまだまだこれから。もっとレベルを上げて、異世界の人たちにもっと辻そばの美味しいそばを楽しんでもらいたい。今はまだまだ道半ば。日々の疲れにも負けず、文哉の野心はギラギラと燃えている。
※西村西からのお願い※
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