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大剣豪『修羅』のデューク・ササキと基本のもりそば②

 ブラックドラゴンを斬って以来、デュークは満たされぬ餓えに取り付かれていた。

 どいつもこいつも弱すぎる。もっと強者と戦いたい。己の全てをかけねば倒せぬような相手を倒したい。

 だが、もう、そんな者は何処にもいない。デュークは強くなり過ぎた。今のこの時代にデュークより強い者はいない。だが、デュークは飽くことなく強者を求める。

 デュークは自覚なき孤高の存在になっていた。その二つ名の示す通り、強者に餓える修羅と化していた。


 魔物最強の一角、ブラックドラゴンを倒してから、デュークは再び各地の強者を求めて旅に出た。満たされぬ餓えを満たす為に。


 今回訪れたのは旧王都と呼ばれる街、アルベイル。

 ふらりと王都に寄った時、風の噂で聞いたのだ、アルベイルのダンジョン探索者ギルドに『剣王』のギフトを持つ女剣士がいると。

 剣技に関連するギフトで最強とも言われる伝説のギフト『剣王』。

 このギフトの持ち主が最後に確認されたのは数百年前だったと聞いている。


 立ち合ってみたい。


 戦いの本能がムラムラと欲求を訴えてくる。

 デュークは旧王都に到着するや、真っ直ぐにダンジョン探索者ギルドを訪れた。

 旧王都に来るのは20年ぶりだが、心の中には何の感傷もない。ただただ、妄執とも言える強さへの激情に突き動かされていた。

 デュークはギルドに入るなり開口一番、


「この街にルテリア・セレノというダンジョン探索者の剣士がいると聞いた!」


 と大きな声を出した。

 その声を受けて、ざわざわと喧騒に満たされていたギルド内部がシンと静まり返った。


「我が名はデューク・ササキ! ルテリア・セレノ殿にお会いしたい!」


 世界最強とも言われる剣豪、デューク・ササキ。荒くれ者が多いダンジョン探索者だ、普通はただの騙りだろと笑われるところだが、しかしデュークから濃厚に漂う尋常ならざる修羅の気を前に誰もが気圧され口を噤んでいた。下手に声などかければそれだけで斬られる。そんな殺伐とした気を敏感に感じているのだ。


 ここで、長い沈黙を破り、1人の若い女性が恐る恐る口を開いた。ギルドの受付嬢だ。


「………………あのう?」


「何だ? ルテリア・セレノの居場所を知っているのか?」


 デュークが顔を向けると、彼女は一瞬「ひっ」と小さく悲鳴を上げたが、それでも勇気を振り絞った様子で応えた。


「彼女、もうダンジョン探索者辞めましたよ?」


「な……なんと!?」


 ここで、デュークは初めて動揺を見せる。ルテリア・セレノという剣士の名を聞くようになったのは、ここ1、2年のこと。王都で彼女の話をしていた男はそう言っていた。だからてっきり、デュークはルテリアがこの数年で台頭してきた新人だと思っていた。その新人がこんなに早く辞めるものだろうかと驚いてしまったのだ。しかも『剣王』というとんでもない能力を秘めた者が。

 デュークが唖然としていると、受付嬢は言葉を続けた。


「大怪我で引退とかしたわけじゃないんで、正確には探索者としての資格は返上していませんけど、もう活動は行っていません。所謂セミリタイアというやつですかね?」


 戦えなくなるような大怪我で引退したというのならまだ分かるが、五体満足な状態で活動を止めたとはどういうことなのか。まさか若くして、そして『剣王』などという恵まれたギフトを持ちながら、自ら望んで剣を置いたとでもいうのか。

 荒ぶる若武者との血湧き肉躍る立ち合いを期待していた。それが何たる肩透かしだろうか。デュークは一気に気が抜け、放心したような顔を受付嬢に向けた。


「そんな……。では、今は何処に?」


「まだ旧王都にいる筈ですよ? 確か、今は何処かの食堂で働いてるんじゃなかったかな?」


「しょ、食堂だと……?」


「食堂ですね」


「食堂……」


 最初の覇気が嘘のように、デュークはがっくりと肩を落とした。

 ルテリア・セレノ。彼女は本当に剣を置いたらしい。そして戦いの場からも離れ、市井に溶け込んだ。ダンジョン探索者は別にやくざ者ではないが、堅気の道に戻ったのだ。

 いくらデュークが強者との立ち合いを求める修羅だとしても、もう剣を置いた者に無理矢理剣を握らせて強引に戦わせることなど出来はしない。そんなことをしても真の意味で戦いにはならないし、何より空虚なだけだ。中身のないものになってしまう。


「………………邪魔をした。もう帰る」


 シンと静まり返ったギルドの中、デュークは明らかに気落ちした声でポツリと呟き、その場を後にした。

 もうここにいる意味はない。求める強者はここにもいない。ならば一体、何に刃を向ければいいというのか。


「…………今日はもう寝よう。宿でも探すか」


 言いながら、デュークはとぼとぼと歩き始めた。その背に覇気はなく、年齢通りのくたびれた中年に見えた。


※西村西からのお願い※


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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