よしよし、異世界でも名代辻そばが認知されてきたね
ルテリアという最強の看板娘が加わり、更にはカレーライスという強打者が加わったことで、名代辻そば異世界店は磐石に近付いてきた。
最初のうちは騎士団員やダンジョン探索者をはじめとしたリピーター客が多かったのだが、ここ最近は新規のお客が増えてきた。辻そばの味に感動したお客が知り合いにそのことを話し、興味を引かれた者が来店して同じように味に感動、また別の知り合いにその話を聞かせるという良き口コミ効果が広がったことにより、騎士でも探索者でもない一般客が来るようになったのである。
それに加えて、近頃は食品を扱う商人や他店の料理人などがちらほらと来るようになった。彼らの多くは一見客に留まるのだが、特にカレーライスセットに注文が集中し、まず食べて驚き、次に、
「この料理のレシピを教えてくれ」
「使われている食材を教えてくれ」
「何処に行けば材料が手に入るのか」
といったことを質問してくる。
文哉はギフトの力で無限に素材を入手出来るからいいが、異世界にはそもそも蕎麦の実も米もないし、スパイスも全て揃えられるとは思わない。だから基本的に質問には答えないし、それでも無理に聞き出そうとしてくるお客には帰ってもらうことにしている。ごくたまに、
「俺の後ろ盾がどれだけ凄いか知ってて言っているのか?」
「断れば後悔することになるぞ」
などと脅しをかけてくる者もいるのだが、そういった連中はギフトの力によって強制的に店外に弾き出され、二度と店には入れなくなった。
また、
「質問に答えてくれないのならば、せめて料理を持ち帰らせてくれないか。研究してみたい」
と言う者もいるのだが、文哉はそういう頼みも一貫して断っている。
これは味の秘密を守ったり意地悪で言っているのではなく、辻そばの料理を店外に持ち出すと、その瞬間に蒸発したように消えてなくなってしまうからだ。きっと、ギフトによって現れた料理はギフトの効果が及ぶ範囲内、つまり辻そばの店舗内部でしか存在を維持出来ないということなのだろう。
無論、店内で食べたものが店の外に出たと同時に胃袋の中から消える訳ではない。ちゃんと満腹感は残るし、栄養も摂取される。これは文哉自身の身体で試したことだから間違いない。
文哉自身、ギフトの細かな法則性は手探りで掴んでいる最中である。
ともかく、上記のような出来事は、言ってみればこの異世界にも名代辻そばが認知され、浸透してきたという証拠。文哉が愛して止まない名代辻そばは国境どころか世界の壁をも越えたのだ。流石、辻そば。戦う場所を選ばぬオールラウンダー。
ここ最近の口コミ効果のおかげで来客が増加し、文哉のギフトは開店から僅か1週間でレベル5に到達、またしても新メニューが追加された。
レベルアップしたギフトの詳細は以下の通りである。
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ギフト:名代辻そば異世界店レベル5の詳細
名代辻そばの店舗を召喚するギフト。店舗の造形は夏川文哉が勤めていた店舗に準拠する。
店内は聖域化され、夏川文哉に対し敵意や悪意を抱く者は入ることが出来ない。
食材や備品は店内に常に補充され、尽きることはない。
最初は基本メニューであるかけそばともりそばの食材しかない。
来客が増えるごとにギフトのレベルが上がり、提供可能なメニューが増えていく。
神の厚意によって2階が追加されており、居住スペースとなっている。
心の中でギフト名を唱えることで店舗が召喚される。
召喚した店舗を撤去する場合もギフト名を唱える。
次のレベルアップ:来客1000人(現在来客238人達成)
次のレベルアップで追加されるメニュー:冷しきつねそば
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今回のレベルアップで追加されたメニューは温かいそばのカテゴリーから天ぷらそばだ。
辻そばの天ぷらそばは、大きなエビ天がどーんと1本2本乗っているタイプのものではなく、野菜と小エビのかき揚げが乗ったものだ。そばつゆの染みたかき揚げはサクサクジュワリとした歯応えと美味さがたまらないもので、文哉も大好きな一品である。
店のまかないとしてルテリアにも出してみたのだが、彼女も美味い美味いと言いながら夢中になって食べていた。あの細い身体でおかわりまでして食べたのだから、その味に疑う余地はない。これもまた異世界で戦うにあたり心強い味方となってくれるだろう。
これが追加されたことで辻そばのメニューは更に磐石になった。
そして次に追加されるメニュー、冷しきつねそば。
きつねといえばうどんと言う者もあるだろうが、文哉はそばにも親和性があるものだと思っている。甘辛く煮付けられ、味の染みた油揚げはそばと絡むと実に美味い。辻そばの場合は冷たいそばのカテゴリーに属するものなので、夏場にこれとキンキンに冷えたビールなど合わせれば天国だろう。惜しむらくは今のところ文哉のギフトにアルコールが追加される様子がないことだが、これもギフトのレベルを上げていけば、いずれは獲得出来るかもしれない。辻そばの可能性はまだまだ尽きるものではない。期待してもバチは当たらないだろう。
この先、来客はどんどんと増え、文哉のギフトもガンガン成長していくものと思われる。メニューのコンプリートがいつになるかは分からないが、いずれはその時が訪れる筈だ。
目指すは日本にあった頃の名代辻そば水道橋店と遜色ない店作り。店長として水道橋店から始まる筈だった夢の続きを、この異世界で。
ブラック企業に勤めていた頃のことを戒めとし、これからも身体を壊さない程度にガンガン働き、異世界の人々に辻そばを提供していこうと意気込む文哉。今は自分を合わせて店員が2人しかいないから無理だが、もっと店が軌道に乗れば店員も増やし、いずれは日本にあった頃のように24時間営業の店にもしてみたい。ギフトのレベルがもっと上がれば、支店なども出せたりしないものだろうか。
目標は高く、野望は尽きず、夢想も尽きず。しかしながら無理はせず、そして悪いこともせず真っ当な方法で。
手探りながらも異邦の地で歩み始めた文哉だが、しかし悲嘆には暮れず情熱に燃えている。
※西村西からのお願い※
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