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新たな酒、レモンサワー!

 季節は晩秋を迎えていた。もう、冬の足音が間近に聞こえている。体感として、あと10日もすれば本格的に冬が訪れるのではなかろうか。


 夏頃にギフトのレベルが上がり、新メニューが加わってからというもの、随分と経つ。

 結論から言うと、文哉が期間限定で出したオリジナルメニュー、照り焼きチキンそばピザは大好評だった。

 先着2名のみということもあり、連日朝イチからいつもの倍以上のお客がそばピザを求めて押し寄せたほどだ。正直、文哉の想像を超える好評ぶりであった。まさかそば屋の作るピザが、こんなにも人々の心を掴むとは。

 そばピザの提供は惜しまれつつも1ヶ月で終わったのだが、多くの常連たちから、早くも次の限定メニューを求める声が出た。彼らの期待に応える為にも、文哉はまた、今度は別の料理で何か期間限定メニューを出すつもりである。


 加えて、暑い夏の間だけでなく、秋になってもアイスは売れた。特に女性や親子連れには随分と喜ばれたものだ。

 一流レストランに勤めていたアレクサンドルによると、この世界の氷菓子というのは砕いた氷に蜜をかけたものか、フルーツを凍らせたものくらいしかないらしい。しかも、そんなものですら基本的には貴族や豪商のような裕福な者しか口に出来ないらしく、それらを遥かに凌駕する美味さのアイスクリームが売れない筈はないとのことだった。

 店の女性陣もアイスが随分と気に入ったようで、3人ともほぼ毎日紅生姜アイスかクールッシュを食べている。ただし、クールッシュ冷やしたぬきそばを食べているのはルテリアだけだが。それはさておきアンナ曰く、仕事で疲れているところに濃厚な甘味を入れると、身体の奥から活力が湧いてくるのだそうだ。

 常連の中には、飲みのシメにアイスを食べる者たちもちらほらと現れた。甘味の登場により、お客の食事スタイルにも多様性が生まれてきたのだろう。


 文哉のオリジナルメニューに、アイスクリーム。このふたつがメニューに加わったことにより、最近とみに来客人数が必要になってきたギフト『名代辻そば異世界店』のレベルが上がった。

 その詳細は以下の通り。






***********************************


ギフト:名代辻そば異世界店レベル16の詳細


名代辻そばの店舗を召喚するギフト。

店舗の造形は夏川文哉が勤めていた店舗に準拠する。

店内は聖域化され、夏川文哉に対し敵意や悪意を抱く者は入ることが出来ない。

食材や備品は店内に常に補充され、尽きることはない。

最初は基本メニューであるかけそばともりそばの食材しかない。

来客が増えるごとにギフトのレベルが上がり、提供可能なメニューが増えていく。

神の厚意によって2階が追加されており、居住スペースとなっている。

心の中でギフト名を唱えることで店舗が召喚される。

召喚した店舗を撤去する場合もギフト名を唱える。


今回のレベルアップで追加されたメニュー:レモンサワー


次のレベルアップ:来客23000人(現在来客15人達成)

次のレベルアップで追加されるメニュー:静岡おでんそば


************************************






 そう、遂に新たなアルコールメニュー、それも初の果汁を使った酒、レモンサワーが追加されたのだ。


 レモンサワー。

 所謂、チューハイにレモン果汁を加えたものである。ちなみに、焼酎に炭酸を加えたものをチューハイと言う。

 ビールにしろハイボールにしろ、名代辻そばで提供する場合はグラスに注いで出しているのだが、このレモンサワーに限っては缶の状態で提供している。無論、他の酒同様キンキンに冷えた状態で提供されていることは言うまでもない。

 定番の味を謳う、某老舗有名メーカーの大人気レモンサワーである。

 アルコール度数は7パーセント。

 レモン果実を丸ごと漬け込み、独自の黄金比率でブレンドした原料酒を使い、レモンの味わいを最大限引き出しているのだそうだ。

 果実の甘味よりも酸味によるキレが強く、かつシュワシュワとした炭酸で爽快感が強い味わい。そして飲み干した後、口内にレモンの皮由来であろう、ほのかな苦味を残してゆく。

 食事に合わせてゴクゴクいける気軽で舌に馴染む酒。ビール、ハイボール同様、これぞ大衆の酒といった逸品だ。

 夜に来るお客たちは、高確率で酒を頼む。気軽に1、2杯飲んでいくお客にとっても、本格的にがっつりと飲んでいくお客にとっても、このレモンサワーはきっと好まれることだろう。何とも心強い味方である。


 そして次に追加されるメニュー、静岡おでんそばについてだ。

 簡単に言ってしまえば、かけそばの上におでんが載ったものなのだが、これが通常のおでん、所謂関東炊きのおでんではなく、独自色の強いローカルおでん、静岡おでんが使われているのだ。名前の通り、静岡県の郷土料理である。

 大根、玉子、牛スジ、こんにゃく等のお馴染みの具材に加え、静岡独自の黒はんぺんを、これまた黒く色の濃い出汁で煮込み、上からたっぷりと魚粉を散らしたものが静岡おでん。魚粉とは、煮干しを砕いた粉末に青海苔を混ぜたものだ。

 静岡おでんとかけそば。この組み合わせがまた絶妙に合う。

 元々、そばと練り物は相性がすこぶる良い。多くの立ち喰いそば屋において、ちくわ天のトッピングが採用されているのがその証拠だ。まだギフト『名代辻そば異世界店』のメニューには追加されていないが、辻そばのグランドメニューの中には、カニカマを使ったものも存在する。

 そばつゆに使われる出汁よりも更に濃い出汁で煮込まれたおでんと香り高い魚粉が、かけそばに対して良いパンチを生んでくれるのだ。

 おでんの出汁と魚粉が混ざり合った熱々のそばつゆを啜ると、得も言われぬ複雑玄妙な美味となる。

 しかもこのメニュー、別皿で頼めばおでんとかけそば、別々に食べることも出来るのだ。酒の肴としておでんを食べたい者は、むしろ別皿の方がありがたいだろう。しかもシメにそばが食べられるのだから、至れり尽くせりである。


 この静岡おでんそばについて、文哉には覚えがあるのだ。

 言ってしまえばこのメニューも珍そばの一種なのだが、実はこれについては文哉も、そして悪友堂本修司も一切関与していなかった。

 辻そばの珍そばイコール堂本と考えがちだが、当時、商品開発室において堂本は異端の一匹狼であり、メインストリームの開発チームとは別で動いていたのだ。

 静岡おでんそばは、そのメインストリームの開発チームが完成させたものである。

 わざわざ静岡県に繰り返し出張って現地でその味を研究し、室長を唸らせる珍そばを開発したチームの面々。

 あの時、文哉しか味方のいなかった堂本は随分と悔しがっていたものだ。まさか俺が珍そば開発で連中の後塵を拝することになるとは、と。

 その後、堂本は数々の珍そばを開発室から送り出したのだが、それはまた別の話である。


 酒の次に肴になりそうなメニューが追加されるとは、何とも都合の良いものだ。しかも、寒い季節に温かいもの。これは文哉の幸運が引き寄せたものか、それとも神様の作為が働いたものか。

 どちらにせよ、文哉の名代辻そばにとっては心強いものである。

 名代辻そば異世界店のパワーアップは留まるところを知らないらしい。きっと、文哉が生きて商売を続ける限り、そして日本に名代辻そばある限り、これからもずっとパワーアップは続くのだろう。


 この先に待つ静岡おでんそばを思いながら、文哉は風呂上りにレモンサワーの缶を開けるのだった。


本日8月4日はコミカライズ版『名代辻そば異世界店』の更新日となっております。

今回からイシュタカのテオ編が始まります。


大食いエルフとしてお馴染み、辻そばの常連、茨森のテッサリア。

彼女の従兄であり、婚約者でもあるイシュタカのテオ。

ある日、イシュタカ山脈に暮らすテオの元に、叔母であるテッサリアの母から手紙が届く。叔母の頼みにより、実家に帰ってこないテッサリアの様子を見る為、テオは王都へ行くことになり……。


読者の皆様におかれましては、今回から始まる新エピソードを是非ともお楽しみください。

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