エルダーリッチのデルガルドと望郷の味、トーストそば⑤
壁も扉も透明な板で造られており、しかも扉の方は自動で開閉までしている。そして、扉は自動で開閉しているというのに、そこに魔力を全く感じないのだ。
多くの者はあれが魔導具だと思っていることだろう。だが、魔導具は魔力で動作するものだが、しかし、あの扉からは一切魔力を感じない。
そして、扉が開く度に外へと洩れ出す濃厚な神気。
「フレンベルグ殿……」
ナダイツジソバの列に並びながら、デルガルドはフレンベルグにそう声をかけた。
「ん?」
「先ほどの言葉を訂正したい」
デルガルドがそう言うと、フレンベルグは何のことだろうと首を傾げる。
「訂正とは、一体……?」
「ここは間違いなくストレンジャーが営む食堂だ。それも、とびきり神の寵愛を受けた者だろう」
フレンベルグもデルガルドが突拍子もないことは言わないと分かっている。彼は訝しむような表情を浮かべたまま口を開いた。
「神の寵愛を? 何故、そう思われる?」
訊かれて、デルガルドは先ほどから客の出入りに合わせて自動で開閉する扉を指差す。
「店から洩れ出てくる神気があまりにも濃い。この身がまだハイエルフであった頃、私の集落にもストレンジャーが住んでいた。だからストレンジャーがどれだけの神気を内包しているかということは知っているつもりだ」
「ほう?」
「だが、この店から漂う神気は並のストレンジャーの倍は濃厚なのだ」
「ふむ、つまり?」
「神が特別に目をかけ、並ならぬギフトを授けたということだろう。或いは転生時に特別頑強な肉体を与えたか。ともかく、神が普通のストレンジャーと比べて倍ほども神気を注ぎ込み、そのストレンジャーを転生させたということに他ならない」
デルガルドと同じ集落に住んでいた、ローマ帝国という場所から来たというストレンジャー。彼もまたアーレスの常識を凌駕するようなギフトを持っていたのだが、そんな彼でもここまで濃厚な神気を漂わせていなかった。並のハイエルフなど比べものにならぬほどの神気を身に帯びていたというのに。
ここまでの神気である、今現在、このアーレスにおいて、彼のストレンジャーは最も神に近い存在と言えるかもしれない。
「そんなストレンジャーが、あえて食堂を……」
何か思うところがあるのだろう、顎に手を当て「ふうむ……」と唸るフレンベルグ。
まあ、彼が考え込むのも無理からぬこと。ここまで強烈な神気の持ち主であれば、その分強力な力を秘めている筈。間違いなく世に革新をもたらす存在ということに他ならない。それが世間に良い影響を与えるのか、それとも悪い影響を与えるのか。どちらにしろ、広がる波紋は小さくないものとなるだろう。
フレンベルグはきっと、悪い影響が出た時のことを考えているに違いない。エルフの勇者、弓聖とまで言われる彼のことだ、いざとなれば自分が動いて事態を治めることも考慮しているものと思われる。
まあ、実際のところはそう悪いことにはならないだろう。
「察するにこの食堂は異世界の食堂をそのまま再現しているのではなかろうか? この明らかに異質な店の見た目も、そうと考えれば得心がいく」
デルガルドの考えるところでは、この食堂はギフトによってこの場に顕現したもの。破壊や破滅、不幸を呼び込む力ならともかく、食堂を召喚して料理を供するだけのギフトであれば世が大きく乱れるということもあるまい。まあ、アーレスの食文化に多少の影響はあるかもしれないが。
デルガルドの考えを聞き、フレンベルグは「なるほど」と頷いた。
「ということは、この食堂で供されるのは異世界の料理ということか……」
「で、あろうな。いやはや、とんでもない食堂に来てしまったものだ……」
異世界というものはひとつではない。天界には数多の神々がおり、その神の柱数だけ世界が存在しているのだという。この食堂を営むストレンジャーが何処の世界から来た者かは分からないが、この店構えでアーレスの料理を出すということはあるまい。
願わくばあのローマ帝国から来たストレンジャーと同じ世界から来た者で、噂の白いパンに加えてガルムで味付けされた料理なども出してくれれば最高なのだが、まあ、それは流石に高望みが過ぎるだろう。まず同じ世界から来たストレンジャーではないだろうし、仮に同じ世界の出身だったとて彼とは生きた時代が違う。時代が違えば食文化も大きく違うもの。今日のところは白いパンだけでも食べられれば御の字だ。
デルガルドたちがああでもない、こうでもないと、そんな取り留めもない話をしていると、いつの間にか列が進み、自分たちの番が回ってきた。
あの扉がやはりひとりでに開き2名の客が退店。それに続くよう少女、それも魔族の給仕が半身だけ扉から出し、デルガルドたちに対応する。
「……ッ! 次のお客様、2名様ですね? お席が空きましたので、どうぞ」
デルガルドの風体にほんの一瞬だけ驚いてから、彼女はデルガルドたちを店内に呼び込む。
彼女が驚いたのと同じように、デルガルドも内心では驚いていた。
普段は魔族であると自身の身の上を偽っているデルガルドである。まさかヒューマンが主な住人を構成する国で魔族に出会うとは思っていなかったし、魔族に出会うこと自体が1000年以上ぶりだ。
見たところ、彼女は龍人族の魔族。同じ魔族であっても、死霊族とアンデッドの魔物を見分けるのは難しい筈。多少楽観的ではあるかもしれないが、デルガルドが実は魔族ではなく魔物であるということはバレてはいまい。彼女が驚いたのも、南部ではない異国の地で同胞らしき者に出会ったからだろう。
「魔族だったな、デルガルド殿。まさかこのカテドラル王国で魔族を見るとは……」
そう言うフレンベルグも、デルガルドが魔族ではないと彼女に見抜かれたのではないかとヒヤヒヤしている様子だが、まあ、そこは心配あるまい。デルガルドの知る限り、魔族に同族を見分ける特別な能力などはない筈である。
「恐らくだが、彼女は市井で修行中の王族だろう。私の記憶が確かならば、三爪王国の王族には、他国でしばし修行を積まねばならぬという風習があった筈なのだ」
デルガルドがハイエルフだった頃から存在する魔族の国家、三爪王国。約500年前にアーレスを破壊して回った炎の巨人スルトの攻撃にも耐え抜き、今なお続くかの国では、建国当初から続く王族の掟、外界での100年間の修行というものがあった。これは建国当初から続く掟で、三爪王国から滅多に出ることがない王族が強制的に他国で暮さなければならない珍しい期間でもある。故に、ヒューマンの国家で働く魔族の王族という、希少極まる状況が発生する訳だ。
「ほう、三爪王国にはそのような風習があったか。私も同じ南部の出身だが、知らなかったなあ」
フレンベルグが感心したように頷くので、デルガルドはそれに対して苦笑してしまった。
「まさか、まだそのような掟を忠実に守っているとは思わなかったが、私が生きていた時分から今も続いていることがあるというのは感慨深い。私ばかりが時代に置いて行かれたわけではないという気にさせてくれる」
デルガルドがこの世に生れ落ちてより、もう2000年の長い時間が流れている。2000年もあれば世の在り様も変質しようというもの。現に、デルガルドがダンジョンから解放された時、世界は様変わりしていた。デルガルドの時代にあったものがほとんど残っておらず、歴史や文化ですらも時の彼方に消え去るか、或いは破壊されていたのだ。まあ、その喪失の大部分はスルトのせいなのだが、それは言うだけ詮無いこと。
だが、そんな中でも三爪王国という未だ続く国があるというのは、デルガルドにしてみれば心強いことであった。自分は全く知らない異世界に迷い込んでしまったのではなく、連綿と続くアーレスの歴史、その未来に降り立ったのだ、と。
「デルガルド殿からしてみれば、今のアーレスは未来の世界にも等しいものだからな。貴方がそう思われるのもさもありなんというところか」
デルガルドの境遇については思うところがあるようで、感慨深げにそう言うフレンベルグ。
彼には気を遣わせてしまったかな、と、デルガルドは思わず苦笑してしまった。
「ははは。柄にもない爺の感傷だ。忘れてくれ」
「まあ、そう言われるのなら……」
このようなミイラ顔でも多少は感慨を抱いていることが分かるのだろう、フレンベルグが気遣わしげな顔のまま頷く。
ともかく、この場でいつまでも喋り続けている訳にもいかない。
「ここで話していても後ろに迷惑がかかる。とりあえず入ろうぞ」
「うむ。そうだな」
デルガルドはフレンベルグを促し、2人で店内に足を踏み入れた。
その瞬間である。
「……ッ!!」
まるで蒸し風呂の扉を開けて熱風を受けた時のように、濃厚極まる神気がデルガルドの全身を包んだ。
穏やかな風が優しく撫でてゆくような感じではない、突風がぶつかってくるような衝撃を身体の正面からもろに受けた。
濃い。何という濃厚な神気だろうか。比喩ではない、本当に蒸し風呂に漂う熱い蒸気のように神気が充満している。むせ返るようだ。あまりにも濃すぎて、一体誰がこの神気の元、ストレンジャーなのかということすら分からない。例えるのなら、きつく塩漬けされた干し肉を齧った後に、適切に塩味を足したスープを飲んだ時の感じとでも言えばいいだろうか、あまりに濃厚な神気を受けてしまったので正常に神気を感じ取る感覚が麻痺してしまっている。
外で待っている時にも濃厚な神気だと思っていたが、店内で直にそれを浴びるとやはり違うものだ。
想定以上に濃厚な神気に驚き、言葉が出ないデルガルド。
そんなデルガルドの様子に気付くことなく、先ほどの少女の給仕が入店した2人に対してペコリと頭を下げた。
「いらっしゃいませ。ナダイツジソバへようこそ。こちらのお席が空いておりますのでどうぞ」
そう言って、珍しいU字の形をしたテーブルの中ほど、2席空いている場所を指す給仕の少女。
「うむ、ありがとう」
神気を感じ取る力がないので、さして驚く様子もなく頷き、席に着くフレンベルグ。
だが、デルガルドはまだ衝撃覚めやらず、上手く声も出せぬままよろよろとフレンベルグの隣の席に着く。
「……デルガルド殿、どうされた?」
デルガルドが席に着くなり、そう声をかけてくるフレンベルグ。きっと、デルガルドの呆然とした様子が気になったのだろう。
深呼吸して気分を落ち着かせ、どうにか思考力を回復させてから、デルガルドはまたしても苦笑しながら口を開いた。
「………………いや、なに、あまりの濃密な神気に驚いてしまってな。思わず息を呑んでしまったのよ」
「ふむ、そうか……」
デルガルドはハイエルフであった時の名残りからまだ神気を感じ取る能力を持っているが、しかしフレンベルグは世代を経てその能力を喪失したエルフである。神気というものについてデルガルドから説明を受けて知ってはいるものの、やはり感覚までは理解出来るものではない。
いまいちすっきりしない様子で頷くフレンベルグに、デルガルドは気にするなとばかりに頷いて見せる。
「まあ、別に身体に悪いものでもない。少し驚いてしまっただけなので、気にせんでくれ」
「うむ……」
その説明で納得した訳でもないのだろうが、フレンベルグもそれ以上はしつこく訊いてきたりはせず、卓上のメニューを手に取り熟読し始めた。
デルガルドはもう、先のダンジョン探索者たちから聞いたトーストソバなるものを注文すると決めているのだが、異世界の料理が如何なるものか興味があるので、やはりメニューを手に取り目を通してみる。
あらかじめ聞いていた通り、やはりソバというのは麺料理らしい。それも、明らかに小麦とは思えない灰色の麺。更に言えば、麺がスープの具になっている奇妙な料理だ。冷たいソバの項目にあるモリソバ、トクモリソバというものだけは麺のみが器に盛られているようだが、これもやはり別の器に注がれたスープに浸して食べるらしい。
温かいソバの基本はカケソバというものらしいが、これの上に更に具を追加することでバリエーションが増えていくもののようだ。テンプラ、コロッケなど、見たことも聞いたこともないものも多いが、肉を炒めたものや茹でたサヴォイなど見慣れたものもある。
だが、そんな中でも一際目を引くのは、やはりトーストソバであった。
カケソバの上に載る、こんがりと表面を炙られた1枚の白い山型パン。パンの形を見るに、どうも型に入れて焼成したものらしいが、間違いない、デルガルドも知る、白い小麦を惜しげもなく使って作られたホワイトローフだ。
何と懐かしい。
メニューに記載されている絵を見ただけだが、しかし妙に写実的なそれを見た瞬間、デルガルドは内心でそう唸った。
異世界のものとはいえ、同じホワイトローフであることには間違いない。デルガルドの知るパンはどれも型など使わず焼いていたものだが、きっと、異世界では箱のような型を使うのが主流なのだろう。
昔から硬いパンはスープなどに浸して食べたものだが、ホワイトローフのように柔らかなパンを最初からスープに突っ込んだ状態で出すのは珍しい。
だが、それでもこれはホワイトローフ。デルガルドが何より欲する懐かしき食物。
しかし、デルガルドがトーストソバへの期待を膨らませている横で、フレンベルグはメニューを睨んだまま難しい顔をしている。恐らくは、全ての料理が見知らぬものばかりだからだろう。いくつかの具材に見覚えがあるというだけで、他は徹頭徹尾分からない状況なのだから無理もない。
「見事に知らん料理ばかりだな。これは本当に……」
そう言いつつも、しかしフレンベルグはその先の言葉を口にしなかった。きっと「異世界の料理なのだな」と、そう言いたかったのだろう。
「うむ、そういうことだろう」
デルガルドがそう頷くのとほぼ同時に、先ほどの少女の給仕が盆に水の入ったコップを2つほど載せて2人の前に来た。
別に水など注文していないのに、と不思議そうに顔を見合わせるデルガルドとフレンベルグ。その不思議そうな顔を2人揃って少女に向けると、彼女は盆の上のコップを手に取り、それを2人の前に置いていった。
水など頼んでいないぞと、そう言おうとしたデルガルドに先んじて、慣れた様子で少女が口を開き、驚くべきことを言い始めた。
「お待たせしました。お水です。こちら、サービスとなっておりますので、おかわりの際はお申し付けください」
その言葉を聞いた途端、デルガルドとフレンベルグは再度、驚きに互いの顔を見合わせる。
デルガルドの時代も飲み水は貴重なもので、飲食店でも有料で提供されていた。どれだけ澄んでいるように見えても生水など飲めるものではなく、最低限煮沸くらいはしなければ腹を壊すし、運が悪いと死に至ることもある。だから手間をかけて飲めるようにしなければならない。要は、料理と同じということだ。その常識がこの時代でも変わっていないことは、フレンベルグとの旅の中で証明されている。
だというのに、だ。何の濁りもない、しかも氷まで浮かんでいる澄んだ水。こんな贅沢なものを、この店はまさか無料で供しているというのか。
「………………」
「これがサービス? 本当に? 随分と気前が良いのだな……」
デルガルドが絶句し、フレンベルグが呆れ半分にそう呟く。
何か特別な器具を使っているのか、それとも便利な魔法でもあるのか、きっと、異世界では安全な飲み水を調達するのも容易なのだろう。
「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
水を前に唖然としている2人を残し、給仕の少女は軽くお辞儀してから他の席へ接客に行ってしまった。
驚き冷めやらぬ様子で水を睨むデルガルドとフレンベルグ。
しかしあの少女、驚いているデルガルドたちを気にも留めていなかった。恐らく、デルガルドたちのような一見の客がこのように驚くのは、彼女らにとって珍しいことではなく日常的なことなのだろう。
恐る恐る、デルガルドはコップを手に取ってみる。
冷たい。この乾いて感覚も鈍いアンデッドの肉体でも感じ取れるほどに冷え切っている。まるで冬の川が如き冷気だ。
ゴクリと、思わず喉が鳴る。この冷えた水を存分に、己の乾いた喉に流し込んでみたい。そうすればどれだけ爽快なことだろうか。
デルガルドがそんなことを考えていると、唐突に隣から、
「おお、美味い!」
と、感嘆の声が上がった。フレンベルグだ。
デルガルドがごちゃごちゃと考えている間に、先んじて出された水を飲んだらしい。
空になり、残った氷だけがカラリと音を立てるコップを握り締めたまま、フレンベルグは満足そうに冷えた息を吐いている。
こんなに贅沢なものを一気に飲んでしまうとは、何たる胆力だろうか。
これはデルガルドも後れを取る訳にいかない。
フレンベルグほど豪胆にはゆかず、ゆっくりとコップを口に運び、ひと口だけ水を口に含むデルガルド。
何の雑味もなく、それでいて凍る寸前かの如く冷えた水が、乾いた口内に沁み込み、喉の奥へと流れ落ちてゆく。
震えるほど美味い。
水という、味に何の主張もないものをここまで美味いと感じたことなど、これまでの人生であっただろうか。この身がまだハイエルフであった頃ですらも、このように美味い水はなかったのではなかろうか。まず間違いなく、水の魔法が使える魔法使いですらも、ここまで雑味のない、美味い水を作ることは出来ないだろう。
「何と冷たく澄んだ水だろうか。この乾いた身体によく沁み込む……」
コップから口を離し、しみじみ呟くデルガルド。
異世界の水は驚くほど美味いということは証明された。そして、こんなに美味い水を使って料理を作るのだから、それも美味くない訳がないだろう。
これは否が応にも期待が高まる。
デルガルドはもう1度メニューのトーストソバを見てから、隣のフレンベルグに顔を向けた。
「フレンベルグ殿、私はやはりこのトーストソバなるものを頼もうと思う」
この世界から失われたと思っていた柔らかいパン、ホワイトローフ。
今日は、そのホワイトローフを食べたいが為にこのナダイツジソバなる店に来たのだ。確かに他にも気になる料理はあったものの、やはりホワイトローフを我慢してまで、という気にはなれない。今日はホワイトローフ一択。故にトーストソバを頼む所存。我儘など言える立場ではないことは重々承知しているが、それでもやはり譲れないのだ。
「左様か。では、私はこのカレーライスセットというものにしてみよう。料理が2品もあってお得な感じがするしな」
フレンベルグはデルガルドの我儘に不快感を示すでもなく、さして気にする様子もなく頷いた。
懐が深いというべきか、器が大きいというべきか。デルガルドにとってはありがたいことである。
まあ、ともかく2人とも注文は決まった。
「すまん! 注文よろしいか?」
フレンベルグが注文の為に手を上げて給仕を呼ぶと、あの少女の給仕がポケットからメモとペンを取り出しながら小走りに駆け寄って来た。
「はい、只今!」
「私はこのカレーライスセットというものを……このカケソバで頼む。彼にはこのトーストソバというものを」
メニューの絵を指差しながら、フレンベルグは注文を告げる。
少女はメモにサラサラとペンを走らせてから「かしこまりました」と頷き、厨房の方へ顔を向けた。
「店長! カレーセットカケで1と、トースト1です!」
賑わっている店内でも通る大きな声で、少女が厨房にデルガルドたちの注文を告げる。
すると、打てば響くといった具合に、厨房から威勢の良い男性の声が返ってきた。
「あいよ!!」
デルガルドの注文が通った。つまり、これからトーストソバが、あの渇望して止まなかったホワイトローフが作られるのだ。実に1500年ぶりとなるホワイトローフが。
実際に料理を前にした訳でもない、まだ注文しただけ。
だが、それだけのことにも関わらず、魔石しか埋まっていない筈のデルガルドの胸は、心臓が鼓動を刻むようにドクリと跳ねた。
読者の皆様、お久しぶりでございます。
名代辻そば異世界店、ようやく最新話を更新いたしました。
一応、2月にはスピンオフにあたる名代辻そば鶴川店の3作目を投稿させていただいたのですが、本編の更新は1月以来となります。
お仕事の方の作業がいそがしく、どうしてもなろうの方の更新が滞ってしまい、拙作をお読みくださっている読者の皆様には申し訳な限りでして……。
そして、3月もまた中旬から忙しくなってしまうのですが、それまでにどうにかもう1話更新出来ればな、と思っております。
読者の皆様におかれましては、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、何卒次の更新をお待ちしていただきたく存じます。
また、コミカライズ版名代辻そば異世界店、次の更新は3月4日となっております。
今はヒロインであるルテリア編が佳境に入っておりますので、そちらもご一読いただければ幸いです。
小説もコミカライズも、名代辻そば異世界店を今後ともよろしくお願い申し上げます。




