わし、織田信長。雪だるまに転生した。
我ながら――励んだ方である。
わしは紅蓮に燃え盛る炎を見つめている。
雪だるま。
ただの雪の塊に目鼻をつけただけの児戯の産物である。
かようなたわけたものに転生したにしては――存分に励んだ。
生まれてすぐに夏の暑熱に溶けて死んでいてもおかしくはなかった。
空間を冷却する能力を有していたため、何とか身を保つことができたのだ。
桶狭間にあっては、豪雨に降られ全身穴だらけになった。
金ヶ崎にあっては、狙撃を受けて体の上半分が丸ごと吹っ飛んだ。
雪の塊であるからして。
それでも天下布武まであと僅かという所までもち直した。
が――。
やはりここまでか。
やはりこの本能寺が我が終焉の地なのか。
十兵衛め。
最後に会うた時の言葉が謀反の理由であろう。
――仕えるべき相手が雪の塊であることに、どうしても腹落ちしかねる。
それはそうだろう。いまさら言うことか。
逆にそれでよく十年近くも仕えられたものよ。
迫る業火に、空間を冷却する能力ももはや用をなさぬようだ。
視界が、溶けて流れていく――。
「……是非もなし」
*
気がつくと、わしは漆黒の空間にいた。
目の前に、ほのかな光をまとう娘が立っている。
「今回も駄目でしたか」
娘は悲し気な顔をしてそう言った。
「むしろ、うぬがいけると考えていたことにわしは度肝を抜かれておる」
雪の塊に天下一統をさすな。
娘は人差し指を立てた。
「信長様は、猫とか美少女とか魔族とか、とにかく色んな存在に転生しまくってて――NGなしの若手芸人みたいな所あるでしょう」
「ないわ」
「いまだかつてない可能性に転生すれば――本能寺の日を越えることができるかも知れない。わたしはそこに期待しているのです」
「……何ゆえ、そこまでわしにこだわるのか」
娘はうっすらと笑みを浮かべた。
「……欲界の最高位にして魔縁の王、第六天魔王波旬――信長様はその器として、尽未来際、時空を超えた三千世界へ覇を唱えるにふさわしい。けれどだからこそ本能寺ごときの焔に焼かれる程度では、困るのですよ……」
その両眼が、赤く光を宿す。
「そうか、うぬは……うぬこそが――」
わしは口の端を歪めて笑った。
「面白い。なればとことんまでうぬに付き合うてやろうぞ」
「それでこそ信長様! さ~て、それじゃあ次の転生先は~?」
娘は何やら箱を取り出して手を突っ込むと、じゃん、と口で言って中から紙片を引き抜いた。
「何と! 味噌煮込みうどんで~す!」
わしは思わず虚空を仰いだ。
「……で、あるか」
なろうラジオ大賞3 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:雪だるま
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