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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第四章 マーシアの西側へ
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095 闘技試験の結果は

 三戦目を終えた兄妹は待機スペースに戻るやいなや治療に入った。


 ライアスの熱傷は思いのほか深刻で、腕に装着しているセスタスや腕輪まで黒く焼け焦げている。

 駄目元で近くにいた運営者に相談すると、冷やすようにと選手が使ってよいとされる水場を案内してくれた。


 近くにあったバケツに水を張り、それにライアスが両腕を浸す。


「んが~っ! いってえ……。握られた一瞬でこんなに焼いちまうのかよ、あいつは」


 ライアスは嘆くように言った。フライアがバケツを覗き込む。

 ライアスの両腕は表皮が焼けただれ、肘から手首にかけて真っ赤に染まっている。


「痛そう……。間に合う?」


 眉をひそめて言うフライアに兄は唸るばかりだ。


 熱傷だけでなく風の刃による傷もあるし、メフェルが最後に放った炎の膜による全身のダメージもある。

 両腕を冷やしつつ他の傷も治療してはいるが、用意していた傷薬もほぼ尽きてしまった。




 ──こんな状態で次の一戦を戦えるだろうか。


 そんな不安を兄妹が抱いたとき、不意にウェイの姿が目に入った。その姿に二人揃って「あれ?」と目を(みは)る。


 ウェイは会場内をきょろきょろと歩き、やがて兄妹に目を留めると満足そうな笑みを浮かべた。おもむろに歩み寄り、親指を立ててみせる。


「聞いたかい? おめでとう! 君たちは合格だ。二勝一敗。しかも強豪ポルックスの選手に勝ったという快挙だ」


 ライアスはきょとん、と口を開く。


「え? 二勝、でよかったんだっけ?」


 ライアスがそう呟く。フライアが記憶しているのは確か三勝だった。


「ああ。三勝、と言ったがそれは目安だ。いい戦いをした者はそれだけ早く結果も出る」


 そう言ってウェイは会場に視線をやる。


「それに、今回は随分離脱者も多いようでな。それだけ早く繰り上がりの合格が出たようだぞ」


 兄妹は揃って首を動かし、顔を見合わせる。それから改めてウェイを見やった。


「俺たち、その離脱者を出しちまったけど、よかったのか?」


 後ろめたそうに言うライアスに、ウェイが笑顔を返す。


「ははっ、そこがメンターの手腕というものだ。それに、闘技場で戦う以上一定の怪我は避けられないことさ。実際、一日に何戦も闘技を詰め込まれるこの試験が最も厳しいとも言われている。選手になればある程度参加は自由になるが、今回は強制だからな。君は今回、それに耐えきったということだ」


 称賛と励ましが込められた口調に兄妹はホッとため息を吐く。試験に合格したことより、もう戦わなくていいという安堵感が大きかった。


「耐えきった、か。ああ、ほんとそうだったな。この空気からやっと解放されるのか」


 ライアスが肩の力を抜いた。ウェイが頷く。


「そうだ。もうすぐ運営管理者から直々に合格証を渡される。それを持って上の案内所に行けばヴィクターがいるはずだ。合格証を渡し、彼から選手登録を受ければ完了だ。終わり次第、宿で会おう」


 説明に納得しながら、最後の言葉にライアスが小首を傾げる。


「ん? ウェイさん。まだここに残るのか?」


 てっきり一緒に帰るものだと思っていた。ウェイは「ああ」と応じて腕を組んだ。


「まだ弟子が一人選手の側として参加していてな。私は弟子と一緒に引き上げる」


 そう言ってライアスの腕に視線を移した。


「腕は大丈夫かい? ここでの治療も限定的だろう。妻に言ってくれればしっかりとした治療を受けられるぞ」


 ライアスが頷く。ウェイの言う通り、両腕は早めに治療したほうがよさそうだ。


「そっか。わかった」




 そうしてウェイが観覧席に戻るのを見届けしばらくすると、伝え聞いた通り、運営の担当者が合格証を手に兄妹の待機スペースを訪れた。


 すっかり緊張の糸が切れ、ぐったりとしていた兄妹はハッとして立ち上がる。


「ライアス殿。本日の戦い、ご苦労様でした。貴殿の戦いぶりを見て、合格といたします」


 言葉を受け、兄妹が会釈を返す。合格証を手渡されホッと表情を緩めるフライアだが、担当の男はさらに言葉を続けた。


「ですが、これは貴殿の今後のアドバイスとしてお伝えしておく。そなたの独特の戦い方は評価できるが、技の芸術性という点では著しく劣る」


 合格を言い渡された兄妹は、その評価に対し首をひねる。


「……? 芸術性?」


 訝しげに呟くライアスを見据え、男が頷く。


「さよう。この闘技場では何千何万という観客の前で闘技を行う。選手は彼らに素晴らしい興奮を与えられるようにしなければならない。勝利に固執した、手段を選ばない見苦しい戦法は好まないのだ」


 男は視線を鋭くし、咳払いをひとつした。


「そなたは途中、相手選手の身体に乗り、両腕を引っ張り上げて勝利した一戦があった。あれはルール上では合法だが、階級が上がった後であのような勝利をするのは極めて禁じ手に近い」


 兄妹はうっ、と言葉を詰まらせる。やはりそのことか、とライアスは憮然と口を開く。


「でも、あれはヴェーリン……」

(だめっ……)


 フライアが慌てて兄を小突いた。それが熱傷を負った腕に当たって、ライアスはひっ、と息を止める。


「はい、なんでもないです……」


 痛む腕をさすりながら呟いた。運営の男が言葉を続ける。


「ふむ、まだ入門者であること、何よりあの一戦は選手を救う義務を果たさなかったメンターこそ悪質だということを踏まえ、今回は合格とする。しかし、階級が上がるにつれて勝利数だけでなく勝ち方も含めて昇格の判定を行うようになる。あくまで娯楽の要素を含んだ闘技であり、今後貴殿には観客を魅了する側の立場に立つことを強く意識してもらいたい。以上だ」

「「はい……」」


 有無を言わさぬ厳格な物言いだったが、兄妹は揃って返事をする。

 運営側も、フェイタムに降参をさせなかったメンターを問題視していたことに内心ほっとした。




 それから運営の人間は合格証を手渡すと、一度会釈を交わして立ち去っていった。

 兄妹はその後ろ姿が見えなくなるまで見届け、顔を見合わせると深々とため息を吐く。


「そんなこと言ってもなぁ。ああでもしないとくたばらない相手をどうにかしろって話だよなぁ」


 フライアが苦笑して頷いた。兄の言葉に全面的に同意しながら、でも、と顔を伏せる。


「でも、見苦しかった」


 ぽつりとそう呟いた。ライアスがぽりぽりと頭を掻く。


「そりゃ、わかってるよ。やってるほうだってえぐかったんだぞ、あれ。最後はびんびんと腕から震えが伝わってきたんだからさぁ」


 フライアはうわ、と身震いして、生々しく語る兄を睨みつける。


「っ! もうっ!」


 ぱしん、と腕を叩かれたライアスが「だあっ!」と悲鳴を上げた。


「だーから腕はやめろって!」


 言いながら、ふと首を傾げる。


「……で? あれ? 名前も忘れたけどあいつはまだ寝そべってるのか?」


 兄妹は一人すすり泣いていたフェイタムを思い起こす。その待機スペースに目をやると、既に仕切り板ごとスペースが取り払われていた。もちろんフェイタムの姿もない。


「……引き上げるか」


 ライアスは静かに言った。


 会場を見渡せば人影がさらに減っている。試合中の選手もいるにはいるが、試合場のいくつかは空いていて、もう午前中のような賑わいはない。


 兄妹は荷物を片付け、合格証を手にして地上へ出られる通路に向かった。


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