094 疾風魔術師メフェル
一緒に倒れ込んだメフェルを相手に、本当にもう力を抜いてよいのか。
ライアスがそれを確認しようと、降参を意味するスカーフの軌道をもう一度辿った。
やはりその先にはメフェルのメンター、アーリーが睨んでいた。
「ストップ!」
フライアが声を張り上げ、兄を止める。
「そこまで! 勝者、ライアス」
すぐ後に審判が試合終了を告げた。ライアスは振り上げていた拳を下げ、馬乗りになっていたメフェルから降りる。
すぐにフライアの声が聞こえ、そしてアーリーが駆けつけてくるのが視界に入り、ライアスはふらりとメフェルから離れた。
アーリーの介抱によりメフェルは次第に意識を取り戻し、やがて「もう大丈夫」というふうに片手を上げるとそのまま立ち上がった。
覚束ない足取りでライアスへと歩み寄る。そして憮然とした表情を浮かべるアーリーとは対照的な笑顔で握手を求めた。ライアスがそれに応じる。
「ありがとう、ナイスゲームだった。途中までは君を抑えられてたけど、最後は突破されちまった」
ライアスは照れを隠すように頭を掻く。
「いや、そっちも……。あの瞬間詠唱ってやつか? すげえ能力を持ってたんだな」
ライアスの率直な感想にメフェルが頷く。
「ああ。たまたま、手にした特技だったんだけどね。あれが取り柄でどこまでやれるかって思ったんだけど、いろんな奴がいるみたいでさ。今回は実力負けだったけど、平気で突破してくる奴もいたし、チートみたいなことする奴もいたし」
「チート?」
「ほんっとよ! メフェルの出鼻をくじいた奴がいたのっ!」
後ろからそう捲し立てるアーリーにライアスが首をひねる。メフェルのその特技もそれに近いと思ったが彼にもそうした相手がいたようだ。
「少し前に気づいたけど、君がボコボコにしてくれた奴らだよ。あいつらと一戦目で当たってさ。何なんだこいつら、って思ったよ」
「ああ……!」
どうやらフェイタムのことらしい。彼が装備する装甲にはメフェルも苦しんだようだった。
「そうだったのか……」
選手の状態を確認し、審判が退場を促した。それを受けメフェルが別れの挨拶をする。
「お疲れさん。これで四敗目じゃ、俺は今回もお預けだな」
するとアーリーがくわっとメフェルに詰め寄った。
「メフェル! 弱音なんて吐かないで! あなたのスキルは他に誰も持ってないんだから!」
メフェルは小さくため息を吐く。
「……ったく。魔力ももう限界だったんだぞ。すぐ白旗上げたり、何連戦もさせてさ……。ソフトにドSなこと言いやがって」
「え! 何⁉」
「声がでかいっての!」
賑やかに話す二人を見て兄妹はその経緯を辿る。
(そういえばあいつ、俺より二戦多く戦ってるんだっけ?)
(アーリーのせい?)
兄妹でそっと呟いた。
確かにメンターが降参を告げるタイミングはいつでもできたのだから、強敵が相手なら避けることができたのかもしれない。
兄妹の頭の中にはなかった作戦だ。
その間も、兄妹そっちのけでまだやいやい言い合う二人に、ライアスが言い添えた。
「いや、でもたいしたもんだよ。あんなに乱射できるならもうちょっと何か工夫すればどうとでも立ち回れたと思うぞ」
するとメフェルはひと息ついてから「そうか」と呟き、片手を上げた。
「ありがとな。またな」
「次こそは借りを返すわよ、メフェル!」
「まったく……」
そう言うとアーリーの肩を借り試合場を後にした。それを見送り、兄妹は揃って安堵のため息を吐く。
(頑張れよ、旋風……、いや、疾風魔術師)
ライアスがひっそりとそう呟く。二戦目までと違う互角の勝負にどこか満足げだった。
「これで二勝一敗ね」
「ああ。でも、そろそろ身体がきついぞ……。まだあるのか?」
焼け焦げた両腕を見て、ライアスはまたひとつため息を吐いた。




