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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第四章 マーシアの西側へ
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091 闘士より『重い』鎧

 異様な雰囲気にしばし間を置いた後、審判が改めて口を開いた。


「今の闘技。勝者、ライアス。ポルックスのメンター、選手を退場させなさい!」


 審判が試合の終わりを告げ、退場を促した。しかし相手のメンターは不機嫌そうな顔をするだけで立ち上がろうともしない。

 フェイタムを見ればうつ伏せのまま、すすり泣くような声を発していた。


 埒が明かないな、とライアスは一礼だけして試合場を後にする。


「なんだよ、メンターのあいつ。もう腕もいっちまってるってのに手も貸さないつもりか?」


 呆れたように言うと、フライアが眉をひそめて頷いた。


「メンターなのに」


 やがて痺れを切らした審判がメンターの手を引き、フェイタムを回収させた。メンターは礼をすることなく、フェイタムを引きずり待機スペースへと去っていった。

 それを遠目にライアスはため息を吐く。


「なんて後味が悪い試合なんだ……」


 兄妹は苦々しげに視線を交わした。




 午前の試合が終わり、兄妹は休憩に入るよう指示をされた。


 この二試合で傷を負ったライアスだが、試験中は回復魔法の使用が禁止されている。フライアは傷薬を用いて手当てを行い、ライアスは疲労回復薬のクエスタミンを飲み干す。


 次戦に向けた回復を急ぎながら、兄妹はどうにも気分が晴れずにいる。関節がイカれてしまったであろうに、乱暴に引きずられるフェイタムの姿が脳裏に焼きついていた。


「……あいつに同情するつもりは微塵もないけどな」


 ライアスがため息交じりに呟く。


「でも、あれだって新人だろ? あんな扱いをするポルックスとかいう連中がどんなことしてるのかってのは調べる価値があるかもな」


 兄妹は頷きあう。手当てを終えると、待機スペースの仕切りに隠れてフライアを憑依させた。


 フェイタムらがいた場所はおおよそわかる。昼食を取りに行く傍ら、憑依も駆使して彼らの様子を伺う。


(なんか、趣味悪い……)


 宙に浮いたフライアが顔をしかめて呟いた。調査といっても、覗きを働くようで気分が良くない。


「ポルックスのあいつ以外に興味ないだろ?」


 やがて壁沿いをくるりと半周したところで、他とは様子が異なる待機スペースにたどり着いた。

 仕切り板で入り口がほぼ塞がれ、その内側からスンスン、と鼻をすするような音が聞こえてくる。


「ここか? ……泣いてるのか?」


 ライアスが耳をそばだてる。どうやらすすり泣いているようだが、それを励ますような声はない。ただ泣き声だけが聞こえてくる。


 憑依中のフライアが中を覗き、ライアスも周囲を確認しながら仕切り板の隙間に目をやった。


「……」

(……)


 ……あまり見ないほうが良い光景だった。




 兄妹は何ともいえない気分になり、そっとその場を離れる。そのまま他の選手たちと同じように会場を出て昼食へと向かった。


「……フライア、大丈夫か?」


 ライアスに問われ、フライアはげんなりと眉尻を下げる。


(…………うん。でも、見ちゃった)

「俺が鎧を全部外すとああなるな」


 ──兄妹が見たもの。それはアーマーを剥ぎ取られ、肌着だけでうつ伏せになり、泣き喘いでいるフェイタムの無残な姿だった。


 メンターの姿はなくただ一人で、腕をダラリと放り出し、床に顔を埋めて泣いていた。


(さすがに、ちょっと……)


 フライアが首を垂らす。ライアスも、彼の不甲斐なさのあまり歯切れが悪くなる。


「うーん……、さっきまで散々人を馬鹿にしてたやつだってのに」


 互いにふう、とため息を吐いた。


(それで、アーマーが脱がされたってこと)


 肌着は着ていたものの、フェイタムには上から下まで装甲が剝がされた状態だった。それを受けて今度はライアスが吟味する。


「ああ、あのアーマーにこそ価値があったってことだよな。人が着たアーマーなんて欲しいなんて思わねえもんな」


 言いながら、ライアスは自分の鎧に目をやる。


 シェラタンを出てから修繕を繰り返し、今日まで愛用している鎧──買い替える余裕もなく、汗染みに泥汚れ、戦いの傷跡が蓄積した鎧は、決して価値があるものではない。


 ――ポルックスにとっては、人以上に鎧のほうが重要だ、というわけだ。




 ライアスはひと息おいてから言葉を続ける。


「なるほど、ヴェーリングアーマーね。あれじゃ確かに予備知識なしで戦ってたら攻撃が効いてないんじゃないかって疑心暗鬼になるな」


 ひどく疲れるほど剣を振るい、何度もダウンさせたのに何度も立ち上がってきた。例えは悪いがその再生力はアンデッドと呼ぶに値する。


「……まさかこの闘技試験の時から着てくるところがあるとは思わなかったな」


 頭上のフライアがこくりと頷く。


(ね。でも、よかったんじゃない?)

「まあな。……いや、ほんとよかったよな。上位の階級にまで食い込まないと出てこないって話だったらキリがなかったし。わかりやすい奴が相手で助かったよ」


 言いながら、ライアスは腕を頭の後ろに回す。


「でも、ヴェーリングアーマーを着せて闘技場の中に入れて、ウェイさんのような人を苦しめて、かたや負けた新人をいとも簡単に切り捨てちまうんだろ? この問題、思ったより裏がありそうだな」


 訪れたことのなかった武闘の都、そこで起きている変化を調査する。

 何とはなしに受けたミッションだが、思っていた以上に根が深そうだ。気付けば自分たちもその渦中にいる。


「……まあ、同情するわけじゃねえけど。すすり泣いてる奴がいるぞって受付に言っておくか」

(うん)


 素直には認めないが、結局ライアスも折れて出入り口の近くにいた係員に声をかけた。

 フェイタムのことを間接的に伝え、静かに昼食へ向かう。

 

 当事者のウェイすら気付かなかった「違和感」の正体を、兄妹は肌で感じはじめていた。


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