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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第四章 マーシアの西側へ
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084 闘士候補生と命の請負人

 闘技出場への資格試験当日。

 兄妹はウェイと共に闘技場の地下に陣取っていた。


 試験は「闘技の間」ではなく、観客のいない地下で行われる。兄妹は試合を前にウェイから試験内容の説明を受けていた。




 試験には候補生となる選手だけでなく、「メンタ―」と呼ばれるサポート役も併せて登録する必要がある。メンタ―は選手の状態を見守り、試合の継続や降参について判断し、選手の生命を守る責務を負うという。


 そのメンターについて、ウェイは長年メンターの経験がある弟子をライアスにつけることを提案した。

 だが、ライアスは気乗りしない様子で腕組みをする。


「メンターって資格か何かが必要なのか?」


 そう言いながら、隣にいる妹を見やる。


「俺はフライアにやってほしいんだけどな」


 雑音が気になって会場の様子を眺めていたフライアは、「んあ?」と奇声を発した。慌てるような顔でライアスとウェイを交互に見る。

 ウェイがううむ、と唸って見解を述べる。


「特に必要な資格は無いがかなり重要な役割だぞ。対戦中、選手が命の危険に晒された時に咄嗟に止めるのがメンターの務めだ。当然、メンターが試合を止めれば選手は敗北となってしまうが、皆勝つために時には死に物狂いとなることもある」


 そう言いながら彼はライアスを見つめる。


「……無茶をさせて命を落としてしまうことがあれば目も当てられない。これまでもメンターが適切なタイミングで試合を止めなかったばかりに再起不能となった選手は多くいる」


 それから含みありげな視線をフライアへと送る。


「選手の状態と状況を見て冷静に判断を下さなければならないが、できるかね?」


 どう応えるべきか判断がつかずフライアは狼狽えたが、隣にいるライアスが口を開いた。


「んー、それこそフライアにやってほしいんだけどな」

「……えっ?」


 兄の──フライアからすれば《もう一人の自分》──の頼みに、フライアは戸惑いを覚えた。


 兄の気持ちは理解できる。命を託すような重大な役目なら、他ならぬ《自分自身》を頼るのは当然だ。一方、メンターという役割すら知らなかった自分に、その重大な責務を果たせるのだろうか。


 思い悩むフライアだが、ライアスが歩み寄り密かに声をかけた。


(さっきウェイさん言ってなかったっけ? メンター以外すぐ駆けつけられないって)

(う、うん……)


 ライアスが会場の様子を見渡す。


(周り中随分と人いるし、下手に憑依して面倒事起こすのも嫌だしな)

(う~ん……)


 ライアスとフライアは《独りの兄妹》だ。一緒でなければ生活もままならない。そんな二人がこんな薄暗い空間で遠く離れていることはお互い気が気ではない。


 とはいえこれまでに使ってきた憑依の力も、人が騒がしく行き交う試験会場では無暗に解くこともできない。不正行為などと疑われれば面倒だ。


(それに……俺の身体を一番知ってるのはお前だろ? 死に物狂いになったときに止められる奴が誰かってことも。ずっと見てきたことじゃないか)


 飾ることもしない兄の言葉を受け、フライアはかつての戦いを思い起こす。


 兄妹はこれまで多くの戦いを乗り越えてきた。野盗との命懸けの戦い、勇者アヴァランとの勝負、アトリアとエラセドの戦争。

 いつだって傍にいたからこそ助け合い、乗り越えられた。


 フライアは強張った表情を徐々に緩め、やがて顔を上げた。納得した顔で、兄に向かって三回ほど頷く。


 ──このじゃじゃ馬のような兄を守れるのは、自分だけだ。




 フライアは兄の前に一歩踏み出すと、ウェイに向かってお辞儀をした。


「……メンター、やります」


 するとウェイは柔和に微笑んでみせた。


「おお、そうか。そういうのなら止められんな」


 それから表情を引き締め、フライアを見据える。


「いいか、ライアス君の命は君が預かったも同然だ。決して驕らず、油断はしないようにな」

「……はいっ」


 フライアは手に持っていた杖をギュッと握りしめた。


 ウェイはふむ、と頷くと、さらに注意を促す。


「あと、よく君はライアス君が倒れるたびにすぐに駆け寄るが、メンターであれは降参を意味する。競技中は原則椅子に座り、勝っていても負けていても、一歩でも競技エリアに入れば選手が敗北扱いになる規則がある。それと試合中でも待機中でも、闘技会場にいる間はメンターである君の魔法で選手を回復してはいけない。そこは覚えていてくれ」


 フライアは思わず首をすぼめる。


「あ……はい……」


 兄とウェイが戦ったときも、すぐに駆け寄ってしまった。今回はそうはいかない。

 ライアスは安穏と腕を頭の後ろに回しながら言った。


「お前なら自然とやりかねないな。気をつけてくれな」

「そう。だからメンターは責任重大なのだ」


 しかしウェイが忠告を重ね、フライアはますます身を縮こまらせる。


「はい……」


 返答の声がどんどん小さくなっていく。またも自信をなくしはじめた妹に、ライアスはそっと囁きかけた。


(いつものことだって。頼むぞ)


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