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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第四章 マーシアの西側へ
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081 謎の鎧を求めて

 ウェイの実力が本物であることはわかった。

 だが、そこでライアスはふと首をひねった。


「それにしても……今の投げ技さえ決まればヴェーリングアーマーとか関係ないんじゃないか?」


 ウェイほどの実力があれば、多少性能が良いくらいの防具は問題にならないように思える。

 ライアスの疑問にウェイはふむと頷き、小さく息を吐いた。


「君が言うのももっともなんだが、それでも彼らはすぐに立ち直せる。そうだな……例えるなら衝撃の緩和と光のエレメントによる回復を両立しているような感じだっただろうか」


 エレメント、というフレーズが出たことに兄妹は驚いた。


「光のエレメント? 回復仕込みのアーマーだって?」


 ライアスが問いかける。そんな防具は聞いたことがない。

 ウェイは腕を組み考えに耽っていたが、何かを思い出したかのように顔を上げた。


「……そういえば別の試合だったんだが、私から連続で痛打を受けた選手が随分長く試合中断をとって治療を受けていたことがあったな」


 言いながら顎に手をやる。


「爪が当たった患部を止血する治療だったんだが、その選手は中断後に私の痛打を感じさせない動きを再び見せていたよ。説明が足りなかったが、負傷に伴う闘技の中断時は他者からの魔法による回復は禁止されているんだ。その時はまた返り討ちにしたが、下手をすれば骨折や多量出血になりかねないほどの痛みからどうやって復帰したのかは疑問に思ったものだよ」

「ほう……」


 説明を受け、兄妹は状況を整理してみる。


 ウェイの実力は確かなものだ。Sランクというのも納得がいく。そんな彼が公式戦で何連敗もしたという事実には違和感がある。やはりヴェーリングアーマーと呼ばれるものに何か秘密があるのではないか。


「そのヴェーリングアーマーって簡単に手に入るのか?」


 ライアスが尋ねると、ウェイは緩やかに首を振った。


「いや、市場に出回っているようなものではない。だが、大会に出場する際には身につける装備品も提示する必要がある。その大会規約の中に、施設内で用意したヴェーリングアーマーは限定的に認めると記載がされるようになったのだ」


 フライアが訝しげに眉をひそめた。


「……? よく、わからないけど」


 妹の指摘にライアスも頷く。


「規約に書くには漠然としすぎてないか? 実際、一発のパンチで勝負が決まったりする世界なんだろ?」


 装備品の提示が義務付けられるほど厳格なのに、性能が不透明な装備の着用だけは許されている。それは闘技者のスタイルに応じた公平な規約と言えるだろうか。

 ウェイは困ったように顔を俯けた。


「……ああ、それを言えば甘えになってしまうと思って言葉にはしていなかったが、私も弟子たちも同じことは思っている」


 体術を用いて正面から向き合う彼らからすれば、いかにも不利な規約だ。ライアスはため息交じりに口を開いた。


「なるほどな。でも、それだと結局負ける理由がわからないまま過ぎていくわけだよな」


 ヴェーリングアーマーとやらの正体が分からない限り、対応のとりようもない。兄妹もウェイも黙り込んだ。一通りの話は聞いたものの、活路は見いだせないままだ。




(俺たちも、もう少し調べてみたいところだけどな)


 ウェイが俯いている隙にライアスがチラリとフライアを見やる。

 ある程度の予測はついたものの、闘技場にどういった変化が起きたのかは依然として分からないまま。このままではウェイも面目が立たないだろう。


(でも、どうするの?)


 そう妹に問われ、ライアスは困ったように小首を傾げる。


(……昨日騒動になった連中から聞き出せる気もしないしなあ)


 誰かに聞いたところで判然とする事柄でもなさそうだ。ひとまずは既知の情報から手繰る以外はない。兄妹はもう少しウェイに頼ってみた。


「もう少し、ヴェーリングアーマーとか他の道場のことを調べられないかな?」


 するとウェイは正面からライアスを見据え、口を開いた。


「ふむ、それなんだが。実は私からも相談がある」


 相談とは何かと聞き返す間もなく、ウェイは思いがけないことを口にする。


「闘技場についてさらに知りたければ、やはり闘技の選手となるのが一番早いだろう」


 兄妹は思わず顔を見合わせた。ウェイが言葉を続ける。


「選手となるには闘技場公認の育成施設や道場に所属し、選手としての実力や見込みを公式に示さなければならない。そこで、なんだが……我が道場に入門しないか?」

「「え?」」


 声を揃えて疑問符を口にする兄妹を、ウェイは真剣な眼差しで見つめている。どうやら冗談ではなさそうだ。


 唐突な提案に兄妹は戸惑った。ところが周りのラム・ガルムの選手たちを見れば、誰もが納得しているように頷いている。


「おいおいおい。俺たち、ろくに体術なんて学んだことないぞ? こんなちっこい身体だぞ。千年、とか言ってたよな? そんな伝統武術をやるって言うのか?」


 慌てるようにライアスが言うと、ウェイは朗らかに笑ってみせた。


「ははっ。その通りだ!」


 フライアは怯えるように杖を抱え、ぴくぴくと頬を引きつらせている。あんな格闘術を学ぶだなんて、あまりにもお門違いだ。

 そんなフライアをなだめるように、ウェイが両手を広げて口を開く。


「まあまあ、二人とも落ち着いて考えてみてくれ。ライアス君。君の戦い方を見て面白いと思ったのだ。剣に魔法、そして投擲に、その腕輪も少し改造しているのだろう?」


 そう言ってライアスの手元を見やる。


 それはかつて故郷で家を襲われたときに活用した、仕込み刃入りの腕輪だった。粗末な品だが剣を手放してしまった際などの急場しのぎで使った。

 ライアスは思い出したかのように腕輪を見つめた。


「あ……そうだった。剣が手元にない時でも戦えるようにって随分前に取り付けて、最近は存在を忘れてたな」


 その当時、襲ってきた野盗を打ち倒して以来使った記憶がない。

 ウェイが頷く。


「そうだろう? 様々な戦況に対応できるように策を忍ばせている。我々も同じさ。身体を武器とする体術を軸としながらあらゆる戦局にも備えるように日々精進しているのだ」


 そう言って改めて兄妹を見据える。


「こう考えてはどうかね? 戦いに身を置いているなら、一つでも多くの護身術を持っていた方が良いと思わないか?」


 ライアスは顔を上げた。


「え? 教えてくれるのか?」


 するとウェイは力強く頷いた。


「もちろんだ! その剣や杖を捨てろ、などとは言わない。互いに技を磨き合わないか、という話だ」


 フライアがぽかん、と口を開く。

「……私も、なの?」


 ウェイの説明には杖という言葉がしれっと加えられている。フライアは聞いてないよ、と言いたげに兄に視線を送る。

 ところが……


「それはまぁ、ストーカーとか痴漢対策にはいいんじゃないか?」


 兄の返答にフライアは思わずため息を吐いた。助けを求めたのに、ウェイの意見を後押ししている。


「ふふ、そうだな。希望であれば手ほどきはしよう」


 ウェイが満足げに頷いた。




 兄妹は揃って腕を組み、「うーん」と唸りはじめる。確かに調査にはいいかもしれないが、選手として目立つことは避けたい。


「……あくまで主目的は調査にあってのめり込むわけじゃないと思うけど、それでいいのか?」


 そうライアスが尋ねると、ウェイは「そうであろうな」と肯定しながらも言葉を続けた。


「だが、成果が出せていない今、この道場の門を叩く者もこの一年、めっきりいなくなってしまった。財政上こちらもあまり大きな支援はできないが、この際だ。もし君たちが求めるなら、我々の技は惜しみなく伝授しよう」


 それから「その代わりに」、とばかりに兄妹の顔を見やる。


「そして、気が向いたらでかまわない。大会に参加した時には、その懸賞金の半分をこの道場に寄与してほしい。どうかね?」


 その提案を受け、ライアスはぽりぽりと頭をかいた。


「懸賞金かあ。そんなものが手に入るほどの力になれるかなぁ」


 するとウェイは方眉を上げ、不思議そうな顔で言った。


「自信ないか? さっきの君の動きには可能性を感じたぞ。私は闘技の規則を知り、何百人という数を相手に経験を積んできた。君が私にさっき負けたのは、何より闘技をまだ知らない経験不足によるものだ。ヴェーリングアーマーなどという物に頼らず、見せてくれた力を鍛え上げれば、君はもっと強くなれる。私が保証するよ」


 ウェイはどうやら、ライアスの力を認めているようだ。


「うーん……」


 それは誇らしいことだが、ライアスは褒められることには慣れていない。どう返していいか分からず、フライアの方に顔を向ける。するとやはり妹も困ったように微笑み、次第に納得したように口を開いた。


「い、いいんじゃない?」


 その言葉を受け、ライアスも意を決したように顔を上げる。


「わ、わかったよ。入門するよ。言っておくけど、ルールも知らないからな」


 するとウェイはさも嬉しそうな笑顔を見せた。


「ああ、わかった。ありがとう。歓迎するぞ」




 ──それから数日、兄妹はマーシュの宿に泊まって闘技の規則と階級制度を学びながら、ウェイからラム・ガルム流の護身術の指南を受けるようになる。


 剣で戦うライアスに対し、ウェイは「両手で剣を持っていても扱えるように」と、左腕だけにセスタスを巻くように提案した。


 小さな鉤爪が左手の甲に来るようにして肘までを覆う。見た目には飾りのついた革の小手にしか見えない。

 これだけで刀剣を受け流すというのだから不安もよぎる。


 それでも、ウェイはライアスの戦い方や癖を掴んでは剣と拳の両方がこなせるように技を教えていく。ある時は自らの身で技の威力を計り、軽い傷もいとわないほど熱心だった。


 こうしてライアスは技の習得に励み、昼は稽古にあけくれ、夜は休息がてらにシェラタンからの旅の経緯を語らう日々を過ごした。

 一方、フライアは途中までは一緒に護身術を学んでいたものの、やはり体術は身に馴染まず、結局はサポート役に落ち着くこととなった。


「……別に俺、こんな人前に出るような剣闘士になるつもりじゃなかったのに……」


 ──そんな戸惑いの声を上げながら、兄妹の調査任務、という名の稽古は続いた。


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