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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第四章 マーシアの西側へ
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080 師範代ウェイの実力

 兄妹は裏庭にある稽古場へと案内された。


 闘技場では自身の防具は審査の上で持ち込みできるが、武器は制限があるという。

 公式戦に(なら)い、ライアスはラム・ガルムが所有する武器を選ぶことになった。


「なるほど、金属の武器だと青銅製だけなのか。……死んじまったら見てられねえもんな」


 防具に対し、武器を弱くする仕組みのようだ。


 ライアスは普段使う剣と使い勝手が変わらないブロンズソードを取り、ウェイと対峙した。周囲を見ればフライア他、数人の弟子たちが見守っている。


「これが闘技のルールか。魔法とかも何使ってもいいと」


 言いながらライアスは改めてウェイの姿を確認する。


「……あんたは本当にそれが公式で出るスタイルなのか」


 ウェイは拳法着を身に纏い、武器はセスタスと呼ばれるナックルダスターをはめているだけ。曲がりなりにも剣と鎧を装備するライアスと比べてかなりの軽装だ。


「さよう。これが我らラム・ガルムの流儀。その技をお見せしよう」


 そう言うとウェイは構えを取り、正面からライアスを見据えた。

 その鋭い眼光に、ライアスは思わず一歩引き下がる。


「お、おい。闘技場に観客として一回しか入ったことのない奴にまさか全力で来るんじゃないよな?」


 するとウェイは臨戦態勢のまま僅かに口の端を上げた。


「どうかな。君次第だな。だが、君は全力で来てもらってかまわない」


 本気かよ、とライアスが小さく息を吐く。妹を見るといかにも不安そうにこちらを見つめていた。


「……無茶はしないでね」


 妹の言葉を受け、ライアスも剣を構えた。




「では、始め‼」


 審判を担当するウェイの弟子の声が稽古場に響いた。


(どう見ても肉弾戦の人だよな。多少距離とりながら魔法とかで牽制しながら捌けば……)


 ウェイの姿を確認しながら戦略を練る。セスタスをはじめとする格闘武器は身軽さゆえのスピードが長所だが、その分リーチは短い。さらに魔法が使えないとなれば、レンジ──攻撃が相手に届く範囲──の面では明らかに不利となる。


 ならば、とライアスは剣を構え、眉一つ動かさず詠唱をはじめる。このアドバンテージを活かさない手はない。


「よっ、と!」


 不意に放った基本の雷魔法(ライトニングボルト)がウェイのもとへと迸る。


「……むっ⁉」


 無表情なことがより上手く意表を突けたようで、雷は難なくヒットした。ライアスは魔法の修練が浅く、その威力はどうしても弱くなるが、それは想定の内だ。


 見ればウェイは身体の自由を奪われている。雷には多少の麻痺効果があるのだ。


(そうして、動きを止めながら……投げて、戻して……!)


 ライアスはすぐさま剣を構え、それを投擲する。ウェイは上半身を傾け間一髪でそれをかわした。

 ところがさらに、


(昨日見たっ、錨のような感じでっ! ほうらっ!)


 地面に転がったはずの剣が宙に浮き、吸い込まれるようにライアスの手元へと戻る。吸引効果を持つ雷のエレメントの応用だ。


「ほう! なるほど!」


 思わず感嘆の声を漏らすウェイに、ライアスは次弾の雷魔法(ライトニングボルト)を放つ。それを腕で防がれると同時に、上体を前傾させた剣による突き技を加える。しかしウェイは下半身を巧みに使い、麻痺した腕を庇った華麗なステップで攻撃をかわす。


(さあ、まだだ! 電衝撃……!)


 間合いが開いたところで、ライアスは剣に雷のエレメントを付加する。刀身を雷光が纏う。

 今度はエラセドの怪物、オアイーターを倒したときの技。攻撃が当たれば相手の身体に電撃が走り、確実なダメージを与えられる。


「そらぁっ!」


 横へ一文字に剣を振るう。だが、これも空を切った。

 気が付くと振り払った場所にもうウェイが迫ってきている。


「……っ! あぶねえ!」


 咄嗟の判断で地面に転がりながら退く。立ち直った時、ウェイは満足げにライアスを見つめていた。


 それからも、剣に雷を纏わせて牽制しながら、ライアスは相手の中距離から隙を窺う。


 だが、いくら雷魔法が着弾しても剣撃を食らわせるまでに至らない。ウェイの動きが速すぎるのだ。隙を突こうにも至近距離まで詰められず、逆にウェイがカウンターを狙っているようにも見える。


(ぐぐ……フライアの手が欲しい)


 ライアスが頭の中で呻く。攻めの姿勢を見せながらも決め手に欠ける兄の戦いを、フライアはもどかしいような表情で見守っている。


(いつもなら、そこに私入るのに……)


 兄が思い切って攻める時は同時に妹が守りを張っていた。今、それができない心許なさが兄の後ろ姿からでもよくわかる。


 するとやがてライアスの詠唱にウェイが気付きはじめたようだ。無表情のままふっ、と立ち止まっていたところにウェイが急襲しはじめるようになると、いよいよライアスに余裕がなくなった。ウェイが徐々に間合いを詰め、ついにその拳がライアスの身体に届くところにまで来た。


(……がっ! こうなったら……!)

「ホウッ‼」


 刹那、ウェイが鋭い突きを放つ。


「ぐうっ! おらぁ!」


 ライアスは急所を逃れるよう身体を捻り、電を帯びた剣で相手の攻撃を薙ぎ払う。

 剣戟(けんげき)音が鳴り響いた。突き入れられたウェイのセスタスを、ライアスの剣がしっかりと捉えていた。


(当たったか……!)


 手応えあり……そう思ったのも束の間だった。

 ライアスは自身の足が地面に触れていないことに気付いた。


「ええっ⁉」

「な、な⁉」


 ライアスの身体が軽々と宙を舞い、兄妹は揃って驚きの声を上げる。




 次の瞬間、鈍い音と共に背中が地面に打ちつけられた。その衝撃で呼吸が止まり、ライアスは大の字に倒れたまま苦しそうに喘いだ。フライアが慌てて駆けつける。


「だ、大丈夫? 意識、ある?」


 ライアスは呼吸を必死に整えながら、何が起こったのか考えを巡らせる。


「いててて……。な、何があったんだ?」


 ウェイがゆっくりと歩み寄る。勝負判定は出ていないが、フライアが駆け寄ったせいか既に構えを解いていた。


「大丈夫かい? すまない。きれいなまでに投げ技が入ってしまった」


 ライアスは上半身を起こして咳き込み、やがて落ち着くと、納得がいかないように頭をガシガシとかいた。


「……今のが技? しっかり当てたと思ったけどな」


 雷を付加させた剣撃ならウェイにもダメージがあったはずだ。ライアスからすれば何故自分だけ倒れているのか分からない。


 するとウェイは苦笑ぎみに言った。


「ああ、最後のはかなりきたな」


 そしてライアスに見せるように腕を上げる。


「あの斬撃に耐え、この籠手に付けられた鉤爪で受け流しながら武器もろとも背負い投げる。これが『刀剣返し』だ。我々が武器を持った相手と互角に戦うためにまず習う基本の技だ」


 その説明にライアスはギョッとした。


「い、今のが基本技かよ!」

「ははっ、君は少し不運だった。君ぐらいの身長が投げを決めるにはちょうど良くてな。投げ技にまで繋げることはあまり多くない」


 大柄で筋肉質のウェイに比べ、ライアスは一回りも二回りも身体が小さい。ライアスはつい憮然とする。戦士にしては身長が低いことは自覚していた。


 思わず顔を逸らすライアスだが、そのときウェイのセスタスが目に入った。よく見ると小さな鉤爪が並んでいる。


「この鉤爪でさっき剣を止めてたのか? こんなちっちゃい爪で?」


 幅広の刀身でなければ確かに引っ掛かりそうだが、そんなに上手くいくとも思えない。

 するとウェイはこくりと頷いた。


「さよう。衝撃を受け流しながら受け止めるのは訓練が必要だ。だが、この腕にひっかけることができればその武器の挙動はこちらのものだ。君は剣を握りしめていたからこそそのまま腕を持っていかれ、空中で一回転してしまった。投げ技にまで持ち込まなくても、武器を不意に引き込まれれば体勢は崩れる。私は今回、その隙を狙っていた」


 説明を受け、ライアスは小さくため息を吐く。こうも呆気なく負けるとは思わなかった。

 ライアスは憮然と立ち上がり、土で汚れた尻をはたく。その姿を見てウェイは満足げな笑みを浮かべた。


「だがな、君も頭が良い」


 思いがけずに褒められ、ライアスが顔を上げる。ウェイはその顔を真正面から見据え、言葉を続けた。


「君を剣士と見て構えていたが、始めにとっていた魔法や投擲。あれでは反撃ができない。あのような時も隙を見て間合いを詰めるものなのだが、無表情のまま詠唱したり、魔法と組み合わせて剣を投げた後の隙を塞いで戦うやり方はなかなか斬新だった。最近は横文字で名付けた大技をよく受けるが、型に嵌らない君の技は受けていても面白かったな」


 ライアスは顎に手をやる。


「んー。といっても、あれが当たらないと成り立たない攻撃だからなぁ。そこはあんたの身の軽さに負けたな」


 認めてもらったところで負けは負けだ。ウェイの格闘術は想像以上のものだった。


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