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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第四章 マーシアの西側へ
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078 歴史を刻む道場ラム・ガルム

「おお、来たかね。昨日は世話になった」


 翌日、道場を訪れた兄妹の姿にウェイは柔和な笑顔を見せた。

 兄妹は軽く頭を下げて挨拶する。まだ日が昇って間もないが、ウェイを含む道場生たちは既に汗をかいている。早朝から鍛錬に励んでいたのだろう。


「勝たねばならない大一番で敗れ、正直なところ落ち込んでいたところでそなたらと会えた。おかげで今は気持ちを入れ直し、弟子たちと次に備えていたところだ」


 言いながらウェイは腰に手を当て、兄妹の顔を見据えた。


「それで妻からは聞いたが、どうやら闘技場を取り巻く変化を調べているようだな」


 ライアスが頷く。


「ああ、あなたがその闘技で近年苦戦しているって話も聞いた。あと、妨害が起きてるって。ちょっと話を聞かせてくれないか?」


 ウェイは頷いて腕を組んだ。


「ああ、これについては我々も少し伏せていたことだ」


 そうして小さくため息を吐く。


「闘技に勝てないことを規則のせいにするのは己への甘えになる。大会で定められた規則に則り、その上で最高の結果を出すために我々は体術を磨き上げてきた。それが伝統的な習慣であるからな」


 やや憂いを含みながらも、毅然とした物言いだった。


「全部体術で解決するってことか?」


 ライアスが問うと、ウェイは「うむ」と頷いた。


「さよう。戦い方は年々刻々と変わっていく。だが、我々には古より伝わる身体を使った護身術がある。その歴史は千年以上にも渡って続いている」

「千年⁉」


 想像以上の年月にフライアが思わず声を上げる。由緒ある道場だとは思っていたが、そこまで歴史が深いとは思わなかった。

 ウェイが説明を続ける。


「そうだ。様々な動乱があったが、ここザウラクが武闘の都として栄える前より脈々と受け継がれてきた。その護身術を世に広めるために建築されたのがこの道場。形式は今と違うと聞くが、当時からここは人々が己の身を守るための術を学ぶ場所だったのだ」


 伝統ある格闘術の由来を聞いた兄妹は、ふと闘技場の光景を思い起こした。戦いを娯楽として楽しむ人々の姿は、今の話と比べてあまりにも落差がある。


「なるほど。だからこんな……年季が入った建物なんだな」


 言葉は濁しつつ、道場を見渡しながらライアスが言うと、ウェイは苦笑めいた表情を浮かべた。


「ふふ、本当は早いところ修繕に入りたいところなんだがな」


 実のところ、兄妹は宿から見えたこの道場のあまりの古さには戸惑った。壁材がところどころ剥がれ落ちているし、ところどころ足を踏み出すたび床が軋む。自分たちが住んでいたシェラタンの小屋といい勝負だ。


「やっぱり、修繕ものなのか?」


 ライアスはそう言って、一部が剥がれて反り返った床板を見やる。するとウェイは苦笑交じりに頷いた。


「最近はできる限り外の稽古場を使っている。中は雨の時に使うが、雨漏りをしているところがいくつもある」


 床板も水濡れによる劣化なのだろう。天井を見ればあちこちに染みがある。ライアスはおずおずとウェイに顔を向けた。


「その修繕費を生み出すのも、やっぱり……」


 ライアスが言いかけた問いにウェイが頷く。


「闘技の賞金さ。年に数回の大きな大会で優勝した時の賞金はそれこそここの修繕費用を一手に賄えるほどの額だ。勝ち続ける闘技施設は発展し、負け続ければ存続を保てない。今は何とか小規模の大会で結果を出して食い繋いでいるが、肝心の修繕には相変わらず手が伸びない状況だ」


 その話に、兄妹は何とも切ない気持ちになった。


「厳しい……」

 フライアが眉尻を下げて呟いた。


「ほんと、勝負の世界ってやつだな」

 ライアスも小さくため息を吐く。


 ウェイは腕組みをすると、毅然とした表情で頷いた。


「いかにも。その中で千年以上続くこの護身術を継承し続けること、それが我々の他には代えられない絶対の使命だ」


 それからハッとして腕組みを解く。


「……すまぬ。話を脱線させてつい熱く語ってしまった。最初の話は闘技についての調査、だったな」


 その真っ当な気づきに兄妹もハッとする。

 不覚にも、自分たちも本来の目的をしばし忘れてしまっていた。


「あ、ああ。じゃあ、その話を頼む」

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