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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第四章 マーシアの西側へ
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077 繋がり合う違和感

 ベラムら一団を追い払うと、店の中は変わってラム・ガルムの選手で集った。

 ライアスの傍までウェイが駆けつけ、大声を上げた。


「マーシュ! 大丈夫か!」


 マーシュは「あぁ、大丈夫さ」と頷くと、ライアスの方に目を向けた。


「全部そこの……あれ? 妹ちゃんはどうしたんだい?」


 そうしてきょろきょろと店内を見渡す。フライアがいないことに気付いたようだ。心配そうに眉をひそめている。

 そんな彼女にライアスは慌てて口を開く。


「あ、ああ……大丈夫、奥のトイレに隠れてる」


 そう伝えて手洗い場へと向かった。そして、誰もいない陰まで移動してからそっと憑依を解いた。


 ホールに戻り「問題ない」と兄妹が揃って手をあげると、ウェイとマーシュは安堵の表情を浮かべた。


 連中と揉めて店を荒らしてしまったが、どうやら悪くは思われていないようで安堵のため息を吐く。

 それどころか、マーシュは称賛の声をかけてきた。


「ふふ、あんた。凄腕の戦士じゃないか? あんな連中をビビらせちゃうなんて」


 兄妹はぴくん、と背筋を立ててから揃って手と首を横に振る。


「いやいやいや、たぶんそうじゃない……」

(たぶん、何か、からくり……)


 もちろん、憑依中に放った氷魔法については誰も気付いていないが、ベラムがあのようになるとは思っていなかった。


 ウェイは兄妹の前に歩み出ると、深々と頭を下げた。


「何度もかたじけない。ここは我々ラム・ガルムにとって心の拠り所。最近は他の施設団の露骨な妨害を受けてばかりだが、決して譲れない場所なのだ。妻とこの店を守ってくれて恩に着る」


 その言葉には切実な響きがあった。思わずライアスが首を傾げる。


「妨害?」


 するとウェイは「ふむ」と頷き、少しの間唸っていた。


「ここで説明するには重い話だ。もし、興味があれば明日話そう。今日はゆっくりとここで休んでいくといい」


 そう言ってウェイは柔和に微笑んだ。


「そうか、すまねえな。けっこう店の中も騒がせちまったし」


 ライアスはぐるりと店内を見回す。椅子やテーブルはもちろん、床にも料理が散乱してしまった。


「いい、いい、かまわない! あいつらに散々食いつぶされるよりよっぽどいいんだから!」


 マーシュは豪快に笑いながら言うと、笑顔のまま「で、おかわりはいいのかい?」とライアスを見やった。


「あ、ああ。もう十分かな。部屋でゆっくりしたい」


 食べている途中ではあったが、荒らされた空間の中でまだ食べたいとは思わなかった。

 そう告げるとマーシュが頷いた。


「そうかい。じゃあ、部屋は二階に上がって突きあたりの部屋だよ」


 それを聞いて兄妹は客室へと向かった。




 兄妹二人でちょうど良い広さの個室。

 部屋に入るや否や、ライアスは深々とため息を吐いた。


「慣れない人ごみを歩き続けると随分疲れるもんだな」

「ね。ここで泊まれて良かった」


 早朝から馬車に揺られてザウラクにたどり着き、観客だらけの闘技場を歩き回った。慣れない観光地で頭を働かせ、ようやく食事にありつけたと思いきやトラブルに巻き込まれた。いつものことながら長い一日だった。




 ひと息ついてから、兄妹は調査内容のおさらいをはじめた。


「それで? 闘技場の調査と言えば、まぁ、普通のDとかCとかのランク帯は見ていて楽しかったと」

「うん」


 ライアスがメモを見ながら確認し、それを受けてフライアが応える。


「で、上位の闘技で妙な試合がありました、と」

「うん」

「その二人と偶然この食堂で会いましたと。なんでも因縁があったようで、そこに俺たちが横槍を入れてしまいました、と。幸い、ベラム、とかいう闘技施設団シリウスの連中は撤退させましたと。その事情を明日ウェイ・ウァンさんに聞きに行きますと」


 指差し確認しながら口にするライアスを見て、フライアが満足げに頷いた。


「うん、メモあれば覚えるね」


 メモはフライアが断片的に書き綴った手記だ。


 記憶はできるフライアだが、ことアウトプットは言葉だけでなく文字起こしも苦手で、表情くらいしかない。

 なんともちぐはぐなやり取りだが、メモを頼りに状況をまとめるのはライアスの役目だ。


「明日の朝にいくつ覚えていられるかね」


 記憶が難しいライアスは、指折り数えながらメモを見返す。


「それにしても、あのベラムとかいう野郎、不思議だったな。ぶっ刺さった感覚は残ってるけどもろに、だぞ? 最初硬い肉を刺したような鈍い手応えからフォークの先がぐぐっと上に……」


 その説明にフライアがぶるっと身を震わせる。

「やめて!」


 わざわざ詳細に状況説明する兄を睨みつけた。そんな妹に対し、ライアスは「悪かった」とため息をついてから考察を続ける。


「……確かAランクかSランクの試合で戦っている奴だろ? そいつが不意打ちとはいえ、あんな簡単にぶっ倒れるものか?」


 これまでの経緯からベラムは闘技場でもトップクラスの選手のはずだ。そんな剣士がいとも簡単に急所を当てられ、一撃で倒れてしまったのだ。


「うん、やっぱりおかしい」

 フライアも頷く。


「ふーん。やっと、お前が抱えてる違和感が掴めてきたよ」


 フライアはさらにこくこくと頷く。ウェイとベラムの闘技に感じた違和感は勘違いではなかった。

 ライアスは考え込むように腕組みをする。


「それで、近年はここの道場が勝てなくなったと。なんか訳がありそうだな」


 ──闘技場における変化の調査。

 フェルディナントから受けたミッション、その解決の糸口になるかもしれない。ウェイから話を聞けば、さらなる手がかりが掴めそうだ。


 兄妹は翌日に備え、寝支度を済ませて眠りについた。


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