069 張り詰めた空気から解放されて
無事に面会を終えた兄妹とイリューアは、広間を後にして宮殿の出入り口に向かった。
アウラからは部屋の準備に数日待って欲しいと言われ、望みが受け入れられたことに兄妹は心から安堵していた。
「とりあえずこんなところか、面倒なやり取りだったけどな」
満足げに話すライアスとは対照的に、イリューアはやや複雑な表情をしている。
「あの、ライアスさん。この案はいつから考えていたのでしょうか?」
その問いかけにライアスは「ん?」と呟き、それから小さくため息を吐く。
「まあ、行く先々フライアと話しててな。ただの傭兵にならないようにしながらどうやって最低限の生活を確保しようかって。なにしろ俺たちは二人で一人前。《独り》だけじゃ下っ端の傭兵の役すら務まらない。他とは何か違うことができなきゃならなかったんだ」
イリューアがにわかに足を止める。意外、という顔をしていた。
すぐに歩き出し、また兄妹の横に並ぶ。
「それは、コンプレックス、ということですか?」
ネガティブとも受け取れるライアスの言葉はイリューアにとって意外だったらしい。騎士の目には、兄妹は常に前向きに見えていたのだろう。
その反応にフライアが苦笑いを浮かべる。ライアスは両手を頭の後ろで組み、あっけらかんと質問に応じた。
「そうだよ。この力が自慢だとでも思ったか? シェラタンで過ごしてた時も同じ。互いに生活で必要な能力が欠けてるからひと時も離れられやしない。別々にやれることは限られてるからできる仕事は結局ほぼ一人分。なのに少ない報酬と飯を二人で分け合わなきゃいけなかった。俺はお前のみたいにきれいな鎧は買えないし、フライアはいつも洋服屋を見ては同じものを作れねえかと家で試行錯誤してた」
「……っ!」
最後の服の話にフライアが頬を赤く染め、「余計なこと!」と杖でライアスの頭を叩く。
イリューアはその様子を眺めながら呟く。
「……すいません。そんなに窮屈な思いのまま過ごされていたとはつゆ知らず」
貧しい兄妹の生活がすぐに思い浮かんだようだった。
ライアスが首を横に振る。
「いいって。それに、そのおかげでちょっとばかり無茶しようって思えた。普通の人の、本当の『独り』じゃできないことをやってみようと思った。《独りの兄妹》として、どこまでやれるかって」
そう言って妹に目を向ける。
「フライアに憑依してもらいながらいろんな戦い方してきたけど、それらもシェラタンにいるだけじゃ気付かなかった。危ない目にもあったけど、ただの傭兵にならずにさっきみたいな形で王都に関われるようになったのは正直ほっとしてる」
「そうでしたか……」
するとイリューアは再び足を止めた。
立ち尽くしたまま、拳をギュッと握りこんでいる。
「どうした?」
ライアスが振り返り問いかける。
イリューアは拳に力を入れたまま、悔しそうに思いを口にした。
「……あの時、教えに従って死を選べばそんなことにも気付けなかったと。今思えばものすごく恐ろしい判断をしていたと。都一つに留まることがこれほど人の視野を狭くすることかと、今更ながら気付きました」
ライアスはキョトンとして、それから少し嬉しそうに、「そうか」と呟いた。
イリューアがバッ、と顔を上げる。
「ライアスさん……いやリーダー!」
「お、お?」
その剣幕にライアスは思わず後ずさるが、イリューアはそれでもずんと歩み寄る。
「今後とも、よろしくお願いいたします!」
叫ぶように言って敬意を表するようにひざまずいた。
ライアスが気恥ずかしそうに手を振り、フライアが嬉しそうに笑ってみせる。
「やめい、やめい! 堅いことはやめろ。調子が狂う!」
「……よろしくね」
イリューアがすっきりとした表情で顔を上げた。




