066 再び王都へ、そして……
兄妹は王都にたどり着いてすぐ宮殿を訪れることにした。その目的は一つ、神官アウラと話をするためだ。
継承の力を引き継ぐ彼女は、神官として王都を取り仕切る役目を担っている。旅の報告と共に、アウラに話したいことがあった。
一方、宮殿の前に着いたところでウォルフは守衛の兵士と話をして一行に告げる。
「さーて、カムトのやつを探さねえとな。俺はここからは別行動させてもらうぜ」
そう言って大広間へと続く通路から外れた。以前兄妹が訪れた際にいた英知の力を継ぐ神官は今はアウラのもとにいないらしく、ウォルフはそのカムトに用事があるとのことだった。
程なくして兄妹らは大広間に入る。するとアウラが明るい笑顔で一行を出迎えてくれた。
「あ! ようこそ! ライアスさん、フライアさん。お久しぶりです」
その傍らには眼光鋭い長躯の男性が控えている。以前、宮殿の前で歓声に迎えられる勇者アヴァランを見た時、その隣を歩いていた男性だ。
白い甲冑を身に纏い、荘厳な刺繍が施されたマントを背中に垂らしたその男。彼は神官の長男にして退魔の力を継ぐ神官・フェルディナントだということを、兄妹はこの日はじめて知った。
「あー、覚えてくれてたのか」
「光栄です」
ライアスが晴れやかに言う。アウラが兄妹を覚えていて、その名を呼んでくれたことが素直に嬉しい。
フライアも嬉しそうに、丁寧に頭を下げた。
アウラは朗らかに笑ってみせる。天使を思わせるような無垢な笑顔は変わらない。
「ええ、そうですね。他の冒険者とは少し風格が違っていたので気になっておりました。それで、冒険のほうはいかがだったでしょうか」
ライアスがこくりと頷く。
「ああ、学術と魔法の都を巡って、緑の都に船で戻ってきた。初めてのわりに随分とハードだった気がする。波風立てずに立ちまわったつもりだったけど、まぁいろいろあったな」
「そうでしたか。確かに、鎧を見ると以前にも増して経験を積んでいらっしゃるのは一目でわかります」
そう言ってアウラは目を細めた。
その傍ら、フェルディナントは無表情のまま兄妹の後ろに視線を送る。
「それで、後ろに控える女性騎士は」
抑揚のない声だった。
イリューアがおずおずと顔を上げる。
「ああ、イリューア。旅の途中で会ってな。ちょっとここまで同行することになった」
ライアスがはっきりそう言うと、アウラは微笑みを湛えたままこくりと頷き「そうですか」と言った。
しかし隣にいたフェルディナントは眉一つ動かさない。
「いや、それだけではないだろう。そなた、その鎧と紋章は」
先程よりやや険のある声で言った。
イリューアの身体がびくり、と揺れる。その様子を見てライアスが声を上げた。
「エラセドだからどうだって? 王都まで対立してたんだっけ?」
対抗するようにそう答えると今度はアウラが応じた。
「い、いえ。エラセドとは中立の関係です」
その回答にライアスが頷く。
「そうか……。いや、傭兵の受け入れに問題が無ければいいと思ったんだけど?」
傭兵、という言葉に神官二人は驚いたように目を瞠る。イリューアもハッとしてライアスに顔を向けた。
アウラが確認するように口を開く。
「それでは、皆さんで傭兵を志願してくださるのですか?」
王都アウストラリスでは所属がない者たちの庇護も兼ねて、勇者アヴァランが率いる王都の部隊に冒険者を招き入れている。
兄妹は一度、その一員となることを断っていた。
そこへ、フェルディナントがイリューアを見据えたまま、無表情に告げた。
「受け入れは問題ないが、身分はしっかりと登録してもらう。登録者に不正があれば、こちらも相応の措置を取らなければならない」
空気がぴんと張り詰める。イリューアがエラセドの騎士として王都の傭兵に名前を登録すれば、その情報は遅かれ早かれ騎士の都にも届いてしまうかもしれない。
しばしの無言が続いた後、ライアスがついに本題を切り出した。
「んー……、そこなんだよな。いろいろと考えてみたんだけど、ちょっと提案がある」
その言葉に今度は神官二人が「ん?」と目を瞠った。
普段は強がっても、すぐにぼろが出て言葉が詰まるライアスだが、この時ばかりはしっかり伝わるように声を張る。フライアも、兄の様子に固唾を呑んで見守る。
(しっかり、言って)
ちらりと妹見てからライアスが大きく息を吸う。
イリューアから、神官たちから、全員の注目が集まっていた。




