065 傭兵ウォルフとの再会
「お! 久しぶりじゃねえか。ここにまた来たってことは、リタイアか、あるいは傭兵としての派遣か?」
兄妹の顔を見るや否や、ウォルフが驚いたように声を張り上げる。
ライアスたち一行はシェラタンに到着したその足で自警団本部を訪れていた。久々となる緑の都は相変わらず長閑な空気が流れていて、兄妹は何とも安心した心地になる。
それと同時に、これまで見て回ってきた都のことを思い起こしもした。同じ大陸にありながら、それぞれ多種多様な文化形態があることを改めて思う。
「んー、どっちも違うな。王都の傭兵にもなっていない身だ。学術と魔法の都をぐるりと回ってきた」
ライアスの返答にウォルフがほうほう、と顎に手をやり頷いてみせる。
「ほぉー、冒険者として回ってたのか。正直、そんな器用なマネができるとは思っていなかったが」
それから兄妹の後ろに控えるイリューアへと視線を移した。
「……で、後ろにいる女の子は……あ?」
言いかけながら、「うそだろ?」とでも言いたげな驚きの表情を浮かべる。
「そのなりは、お前……もしかしてエラセドの……?」
「ウォルフ!」
ライアスが慌てて言葉を制する。
ウォルフもハッとして口を噤み、それからキョロキョロと辺りを見回した。こちらに注目する人物がいないことを確認すると、ライアスの腕を引いてその耳元で小声で囁く。
「……今ここなら大丈夫だろうけどよ。お前なに厄介な奴連れてきてんだ? エラセドって言ったら、いまアトリアと交戦中だって話じゃねえか。その騎士をなんでここに連れてきた?」
ライアスは仕方ないだろ、と両手を広げてみせる。
「旅の成り行きでな。互いに死ねない中で共闘して戻ってきたんだ」
しかしウォルフはライアスを睨みながら、咎めるように囁きを続ける。
「だからって、騎士の連中って言ったらよぉ、掟がどうとか面倒な奴らじゃねえか」
「それを本人の前で言っちまうのかよ」
ライアスはわざと大きな声で言い返した。ウォルフと揃って振り向くと、イリューアとフライアはむっつりとした顔でやり取りを見ていた。
ライアスはコソコソと話すことをせず、後ろの二人にも聞こえるよう説明をした。
「掟に背いてでも生きたいと、このまま終わりたくないと、イリューアだって迷いながら、藁を掴むような思いでついてきてくれたんだ。何かできることはないかって思ってるんだ」
するとウォルフはやれやれと大きくため息を吐いた。
「……おめえも、大胆というか世間知らずというか。わかった、悪かったよ。好きにしろ。物騒なことを聞いてたから先入観で話しちまった。だが、俺にできることは何もねえぞ。俺も今日を持ってこの都を離れるんだ」
そう言ってふん、と鼻を鳴らす。
「お? 任務終了か?」
ライアスの問いかけに、ウォルフは腕組みをして満足げに頷いた。
「ああ、散々延長されたが今日で最後だ。もう言いなりになる理由なんかない。これから王都に向かうところだった。これでまたここに戻れって言われたら王都の傭兵認定証を叩き返してやるさ」
どうやらギリギリの再会だったらしい。
すれ違いにならなかったことに安堵しながら、ライアスはふと思いつきを口にした。
「そうか、なら俺たちも王都に行くかな」
そう言うとウォルフが不安そうに眉をひそめる。
「……お、おい、俺を巻き込むなよ? 確かにここで共闘した間柄ではあるがいつまでもお前らの面倒を見る義理はないからな!」
慌てるようにそう言った。ようやく田舎の任務から解放されるというタイミングで面倒事を背負いこみたくはないのだろう。
ライアスがはいはい、と両手を広げてみせる。
「わかってるって、俺たちも神官に用がある。同じタイミングで行くってだけだ」
訝しむような視線を向けるウォルフをよそに、ライアスはフライア、イリューアとこれからについて話しはじめる。
程なくして、ウォルフを加えた一行は王都アウストラリスへと向かった。
兄妹にとっては二度目の王都。さまざまな思いを巡らせながら、また一歩ずつ、その歩みを進めていく。




