060 見えない力
「……準備、できました」
「おう」
海に向き合っていたライアスが振り返ると、フライアとイリューアの二人が落ち着かない様子で立っていた。
ただし、その服装はがらりと入れ替わっている。
イリューアはフライアの服とローブを身に纏い、フライアはイリューアの鎧と額当てを身に着けている。
「あー……なるほどな」
笑ってはいけないと思いつつ、ライアスは目を細めながら呟いた。
イリューアは裾が短すぎてお腹が少し見えているし、フライアは鎧全体がずり落ちてしまっている。靴までは入れ替えられず、足元を見てもやはりちぐはぐだ。
「サイズ合ってない……」
「や、やはり、変ですよね? こんな様で歩いていたら怪しまれるのでは?」
イリューアはしきりに自分の腰回りを確認している。
なにしろフライアとイリューアでは身長が十センチほど差がある。こうなるだろうなと、ライアスはある程度予想していた。
「暗い中だったら気にすることもないだろうよ。それに、イリューアはクルサに来たことないんだろ? 知り合いでもいなかったら騎士だとは思わないだろうよ。それに、そのローブはフードもある。うまく隠せないか?」
イリューアは不安そうに眉尻を下げる。
フライアはそんなイリューアの背後におもむろに回り込み、背中に垂れた髪の毛に手を伸ばした。
「うーん、と」
手櫛でイリューアの髪を整え、長い後ろ髪を胸元の方に垂らす。
さらにフードを頭に被せフライアの杖を持たせる。
「うん!」
納得したようにフライアが頷く。いかにもヒーラーといった雰囲気が出て、騎士としての面影は残っていない。
「なんだろうな。神秘さと凛々しさと子どもっぽさが共存しているこれは……」
様変わりしたイリューアの姿にライアスが思わず呟き、フライアがそんな兄の肩をスパンとはたいた。
「何か言いましたか?」
ジロリとライアスを睨みつけるイリューアにライアスは慌てて両手を横に振った。
「なんでもねえよ。じゃ、早く行こうぜ。船に乗り遅れちまう。さっきの干し肉は食いながら行くぞ」
「あ、あ、待って!」
そう言ってライアスが逃げるように先を急ぐ。イリューアはなおも短い裾の腰回りを気にしながら、その後を追っていった。
日が暮れ、夜の帳が辺りを青暗く覆っていく。
ライアスは甲冑を着込んだ妹を憑依させ、ローブを羽織ったエラセドの騎士を伴いながら、クルサに向かって走り出した。




