058 鉱脈の影を振り切って
息を上げながら、しばらく一行はその場で立ち尽くした。
「た、倒した……。まさか、本当に倒せるとは……」
イリューアは信じられない、という表情で呟いた。
その様子を見たライアスが不思議そうに問いかける。
「え? 勝てないと思って戦ってたのか?」
「それは……そうですよ。熟練の騎士でも討伐のために命懸けになるのに、まさか私のような見習いがこんなことを……」
イリューアはオアイーターを炭鉱夫たちの天敵と言っていた。
それはエラセドにとって主要な産業を脅かす相手ということだ。三人は、騎士団も手を焼くような魔獣を倒したことになる。
「なら、もう熟練ってことじゃないか。胸張れよ」
ライアスが言うと、イリューアはどぎまぎして首を横に振った。
「とんでもない! 私は、だって、もう……」
しかし勢いよく発せられた否定の声は徐々に小さくなり、やがて消え入るように言葉が止まった。
その様子にライアスが首を傾げた矢先、フライアが声をかける。
(急いだほうがいいんじゃない?)
見上げると、陽の光が徐々に西に傾きはじめているのが分かる。
「それもそうだな」
ライアスが応じると、イリューアが「えっ?」と呟き不思議そうな顔をした。
声に出して返事をしてしまったが、妹からの直接の会話は周囲の人間には聞こえないのだった、と気が付く。
「ああ、いや。フライアの忠告。もう日が傾いてる。邪魔はいなくなったし、急ぐぞ。……と、その前に!」
ライアスは足を踏み出そうとして、それから思い出したようにクルリと振り返った。
地面に横たわるオアイーターに駆け寄り、全身を纏う鱗を矯めつ眇めつする。やがてその鱗を剣で剥がしはじめた。
「な、何をしているのです?」
唖然と問いかけるイリューアに対し、ライアスが鱗を剥がしながら応じる。
「……よっと。え? 何って? そりゃあこの硬くて防具にでも使えそうなものを取れるだけ取っておくんじゃないか。これなら持っていっていいだろ? 害獣からの戦利品なら」
イリューアは呆れたように黙り込み、やがて小さく息を吐いて口を開く。
「……どうぞ。急いでください」
「はいはい。あいにく、貧乏性でね」
言いながら剥ぎ取り作業を続ける。しかし硬い鱗は簡単には剥がれず、採集できたのは一辺三十センチ程度の大きさのものが二枚だけ。装備の素材としては心許ない量だ。
ライアスは日の傾き具合を確認すると、それ以上の採集を諦め立ち上がった。
(フライア、ここを覚えといて。何かあった時にまた取りに来れるように)
(狩場にするの……?)
(騎士も恐れる魔獣だろ? 価値ありそうだからな)
一行は道を確認し、再び歩き出した。
出口はまだ見えない。だが川幅が広がり、どことなく海風の匂いは流れてきている。
開けた場所まであと少しのはずだ。




