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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第三章 覚悟を決めた先で
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055 見習い騎士イリューアとの共闘

 それから一行は無言のまま、水の流れに沿ってしばらく進む。


 呻き声は断続的に聞こえていて、岩壁に反響して不気味に響いている。その声に呼応するかのように、やがて川面で水が跳ねるような音が聞こえはじめた。


「気をつけて、水の中にも何かいます」


 緊張した声音でイリューアが言い、ライアスが川面に目を向ける。


「……ん?」


 すると水面がゆらりと揺れ、次の瞬間、水飛沫と共に何かが飛び出してきた。


 人の形をしているが頭部は魚そのもの、短い手足は鱗に覆われている。そんな奇怪な姿をした怪物が二体、一行の前に立ちはだかった。

 兄妹とイリューアが反射的に武器を構える。


「サハギン! この辺りではよく見かける種族です。盾はおまかせを」


 言いながらイリューアが足を一歩前に踏み出す。


「なんか注意点とかある?」


 ライアスが問うと、イリューアは半魚人の手元を睨みつけた。短い手には尖端が三叉状のいびつな武器が握られている。


「手に持っているモリにご注意を。何の変哲も無く見えますが人に対して神経麻痺を引き起こします」

「お、おう」


 にわかに緊張を覚えながら、半魚人のモンスターであるサハギンと向き合う。

 サハギンがびちゃびちゃ音を立てながら歩み寄り、おもむろにモリを振り上げる。その刹那、イリューアが剣を高く掲げた。


「フラッシュガードッ‼」


 その叫び声と共にイリューアの前方にオーロラのような光の壁が現れる。サハギンのモリがその壁を突き抜けると極端に勢いが衰え、イリューアの剣に軽々と払い除けられた。


 大勢を崩したサハギンから飛び退くと、イリューアはもう一体のサハギンを挑発するように剣をモリへと打ち込んだ。鈍い金属音が鳴り響き、半魚人が怒り狂うように唸り、彼女へと襲い掛かる。しかしまたもや光の壁が現れ、それに阻まれるようにモリはたやすく弾かれた。


 その半魚人の肩越し、いつの間にか背後に回っていたライアスが剣を突き入れる。しかしサハギンは咄嗟に身を翻すと水の中に飛び込んでしまった。舌打ちをしてもう一体のサハギンに打ち込もうとするも、その個体も水中に入ってしまう。


 それと入れ替わるように先程の個体がまた別の水面から飛び出し、ライアスにモリを突き入れる。しかし光の壁が現れその勢いを殺すと、イリューアが剣でモリを撥ね上げた。


「このっ……!」


 怯んだところにライアスが剣を叩き付ける。ところがサハギンはたちまち水の中に飛び込んでしまう。


「……ッ! また水に!」


 イリューアが忌々しげに呟いた。


 二体のサハギンが水中に潜ってしまい、一行は恐々と水面を注視する。またどこから半魚人が飛び出してくるか分からない。


「ライアス、ここは分が悪い。場所を……!」

「もう面倒だ!」


 やや焦るように言うイリューアの傍らで、ライアスは水面に向けて手をかざした。


 次の瞬間、水面に電流が迸った。電光がまばらに水面を走り、悲痛な呻き声と共に二体のサハギンが飛び出してくる。


 ライアスはすぐに剣を打ち込もうとするが、慣れない雷魔法が思いのほか上手くいったことに気を取られて出足が遅れ、刃先が鱗を掠めただけだった。慌てて水中に飛び込もうとするサハギンだが、その頭部に氷塊が叩き込まれる。


 フライアが放った氷魔法だ。その影響で僅かに水面が凍り付き、サハギンは狼狽えるように飛び退った。


 もう一体のサハギンはイリューアと交戦している。先程までと同様にモリを弾かれると、反撃を食らうまいと水中に飛び込む。そこへライアスが再度稲妻をお見舞い。すぐさま電流の川から飛び出す半魚人に追い打ちをかけるように、フライアの氷塊が襲い掛かる。


 雷と氷の魔法攻勢により逃げ場を失い狼狽えたサハギンは、二体揃って死に物狂いの形相でイリューアに襲い掛かった。慌てて剣を構えるイリューアにライアスが声をかける。


「よーし、そのままだ。ちょっと辛抱してろ!」


 光の壁を出現させて凌ぐイリューアに駆け寄り、ライアスはサハギンの背中に剣を突き入れた。それとほぼ同時に、無数の氷塊がもう一体のサハギンの全身に叩き込まれる。振り向きざまライアスの剣がその個体の首に薙ぎ付けられ、断末魔の呻きが上がった。




 二体の半魚人が地面に倒れ伏し、ライアスはふうと額の汗を拭った。


「……お見事」


 イリューアはどこか複雑な表情でそう言った。ライアスが満足げな顔で振り向き、言葉を返す。


「そっちもな。盾も持たないのに全部剣で捌ききりやがった。さっきからフラッシュなんちゃらって叫んでるのはエラセドの呪文か?」

「フラッシュガードです。光のエレメントと合わせて衝撃を抑える壁を張ります」


 先程の光る壁のことだろう。サハギンのモリは決して軽いものではなかったが、イリューアはその壁を操り敵の攻撃を軽々といなしていた。


「ああ、光属性と合わせてあんなのが打ち出せるのか。それを使ってタンクをこなすのか。本で読んだことはあったが、これが本物ってやつか」


 ライアスが素直に感心して言うと、イリューアは少し顔をほころばせた。


「何を。こんなのはまだ見習いの域です。サハギンに苦戦するようでは騎士など名乗れません」


 誇らしげにそう言ったものの、ライアスはうんうん頷きながら、


「でも今、川と陸を行ったり来たりするサハギンにちょっと苦戦してたろ?」


 と突っ込みを入れた。イリューアがにわかに顔を赤らめた。


「……ッ! それは! 相手の有利となる場所で戦う必要はないという意味で!」

「冗談だ。でも、よかっただろ? 敵の弱さを付け込める手段は多いほどいいだろ?」


 ライアスはその言葉に別の意味も含め持たせていた。

 手段や方法は多い方がいい。そしてそれは戦いに限ったことではない。人間に多様性があるならば、認め合い助け合うことで乗り越えられるものもあるはずだ。


 しかしイリューアは目を逸らしたまま黙り込んでしまった。


(難しいやつだな。……いや、それは俺か?)


 ついまた言葉に出してしまったが、やはり余計なお節介だったようだ。ライアスは何ともいたたまれない気持ちになった。


(かもね)


 そんな兄の頭部を、憑依中のフライアがぐりぐりと小突く。魔力の拳にいじくりまわされたライアスはいたた、と頭を押さえた。

 そんな兄妹を置き去りにイリューアは先を行く。


「先を急ぎましょう」


 ライアスは小さくため息を吐き、その後を追いかけた。




 その後も何度かサハギンが一行の前に立ちはだかるも、先程の戦いで対策を学んだ兄妹とイリューアは徐々に苦もなく打ち倒せるようになった。そして、戦えば戦うほどパーティとしての連携がとれるようになっていく。


 イリューアが敵を引きつけ攻撃をいなし、ライアスが雷を落として水中のサハギンを追い出し、憑依しているフライアが氷撃で攻撃を補助する。

 やはり見えない一手が大きい。相手の次の動きに必ず隙が生まれる。


 それに、多少傷を負ってもフライアの光魔法で治癒ができる。

 いよいよサハギンが現れても慌てない。戦闘が終われば何事もなかったかのように先へと進む。だが、出口にたどり着くような気配はなかなかやってこない。


 兄妹らは会話もないまま淡々と出口を目指した。ライアスは後ろを歩くイリューアを振り返りもしないが、憑依したフライアがこっそりとその様子を窺っている。


(会話しないほうがいいのか? これがエラセドの習慣ってやつか?)

(イリューアはこれでいいみたい)


 黙々と歩く女騎士に対し、兄妹は無理に話しかけることをやめた。


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