表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第三章 覚悟を決めた先で
56/385

053 『変わっている』こと

 見かけは二人きりの、兄妹とエラセドの女騎士。

 行く手に現れるモンスターを兄妹で倒し、また退けつつ、僅かに差し込む陽の光を頼りに道を進む。


「日が落ちちまうと地獄だな。なんとか人の気があるところまで出られればいいんだが」


 言いながらライアスが振り返り、後ろを歩く女騎士と目を合わせた。


「お前、何か道しるべとか知らないか?」


 すると女騎士はやや不服そうな顔をしつつも応じた。


「炭鉱夫がいるならばかがり火が所々あるはず。でも、この辺りはそういったものが無い」

「炭鉱夫もうろつかない場所だってか」


 ライアスがやれやれと両手を頭の後ろに回す。


「ノースライフ山脈は騎士の都にとって命そのもの。剣や鎧に使う金属は全てこの鉱山から賄い、都の発展を支えている。今もまだ、その全貌は明らかになっていないという話です」


 女騎士の説明にライアスはなるほど、と思った。

 兄妹の故郷であるシェラタンは穀倉地帯だったが、それぞれの都毎に特色が違うことに気付かされる。


「ふーん、緑の都と発展がまるで変わるわけだ。……おおっと?」


 感慨深げに呟くと、一行の前にまたモンスターが現れた。

 コウモリの姿によく似た小型のモンスターだが、かなりの数が群れている。剣を構えるライアスに並ぶように、女騎士が歩み出た。

 参戦する気らしい女騎士にライアスが声をかける。


「いけるのか? 無茶すんなよ!」

「もうお荷物ではいられない!」


 言うや否や女騎士は剣を構え、勢いよく地面を蹴った。


「……! やるじゃねえか。そっちを頼む!」

(援護するね)


 正面に散らばるコウモリに、兄妹も女騎士と共闘で捌いていく。程なくして群れが散り散りになり、一行は再び狭い岩石の隙間を進んでいく。


「さっきまで歩けなかった奴が、大したもんだぜ」


 ライアスが言うと、女騎士はツンとしてそれには応じず、別の質問を返してきた。


「それはともかく、あなたたちは緑の都から来たというの?」

「ああ、って、まだ何も自己紹介してなかったんだっけ? 俺はライアス、中にいるのがフライアだ」


 女騎士は呟くように兄妹の名を繰り返した。


「……ライアスに、フライア」

「お前は?」


 ライアスが問いかけると、女騎士は逡巡(しゅんじゅん)するようにしてから、やがて口を開いた。


「……イリューア。あまり、他言しないでほしい」


 不愛想な物言いにライアスが肩をすくめてみせる。


「はいはい」


 女騎士イリューアはその背中を見つめたまま、やがて呟くように名前を呼んだ。


「あの、ライアス?」

「ん?」


 少し躊躇するようにしながら、問いかける。


「あなたは、その……変わっているとは言われないの?」

「え、……え?」


 その意図が分からない兄妹にイリューアが痺れを切らしたように声を上げた。


「だ、だからっ! 何を企んでいるのです⁉︎ 敵同士で討ち合ったことも忘れたと! しかもこんな……! 情けをかける真似までして、何をするつもりです⁉︎」


 ……怒られてしまい、ライアスが軽く仰け反った。

 だがこう怒鳴られたところで、結局兄妹にはこの『変わっている』ところが本当に分からないのだ。


(どう説明すればいいの?)


 頭の中でフライアがそう呟く。

 たが、いつまでも黙っているわけにもいかない。

 こういう時は正直に言うしかないと、ライアスが頭を掻きながら答えた。


「……何も、企んでねえよ。本当に覚えられないんだ。情けなんてかけたつもりもない。真似でもない。ただ……、とにかく今を生き延びたいだけなんだ」

「なっ……?」


 全否定されたイリューアはまだ納得いかないようだ。

 それを見て、憑依中のフライアが兄に進言する。


(……いいよ。言って)

(……ああ)


 そして、躊躇していたライアスが今度はイリューアを真っ直ぐ見つめ直した。


「確かに、俺たちはお前が言ってるように変わった奴だよ。俺の中にフライアがいるってこと、憑依ができるってこと、お前が言うその『変わってる』って感覚は無関係じゃない」


 それは兄妹にとって重要なことで、幾度となく思い悩んできたことだ。


「どういうこと?」


 イリューアが首をひねる。

 それにライアスは「歩きながら話そう」と身体を反転させた。


「俺たちからも。これは他言しないでほしいんだが、俺たち、理性が一人分しかないんだ。今俺はこうやって平然と歩いているつもりだけど、中にいるフライアはさっきからずーっと身体をあちこちねじらせてはお前と、この周りを気にしてる。つまり、心の中じゃ心配で心配で仕方ないんだ」


 イリューアはその意味を読みとろうとしながら、しかし判然としない様子で訊きかえしてきた。


「よ、よくわからないのですが、理性が一人分で、あなたの中にはもう一人の、その……」


 ライアスが頷く。


「そうだ、自分自身だ。説明が面倒だから周りには『妹』って言ってるけど、フライアは文字通り俺の半身なんだ」


 イリューアは腕を組み顎に手を当て、意味を理解しようと必死に考えを巡らせているようだ。


「自分がもう一人いる、ということ……駄目です。想像がついていけません」


 首を横に振るイリューアに対しライアスが説明を続ける。


「んー、フライアがどう例えるかわからないけど、俺にとってみればフライアは心。フライアの表情を見れば自分の本心がわかるってなもので……だっ!」

(なんでそこまで言っちゃうの⁉)


 その途中、憑依中のフライアが兄の頭をバシンと叩いた。

 ライアスが突然頭を抱え、イリューアの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。


「?? ……な?」


 相当に脳内からきつくはたかれ、ライアスはしばらく頭を抱えた。


「……俺が余計なことまでしでかした時に止めるのがフライアの役目。俺が忘れることを覚えておくのもフライア。だけど、フライアは喋れない。言い表せない。だから伝えたいことを俺が言う。……俺たちはそうやって成り立ってる」


 イリューアは考えるように額に手を添える。


「はあ……わかったような、わからないような……」


 そう困ったようにライアスの顔を見やる。

 応えるようにライアスもイリューアの目を見据えた。


「一応、おかしいなりに理解してもらおうと説明したつもりだ」


 しっかりと目を見ていうと、イリューアの表情が少しだけ和らいだ。


「……まだ、信じたわけではありません。けど少し、少しだけ安心しました」

「イリューア?」


 何に安心したというのだろう。

 しかし問うようなライアスの視線に対し、イリューアは首を横に振った。


「日没まであまり時間がありません。先を急ぎましょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ