049 奇襲作戦前の一夜
故郷シェラタンを出て、アウストラリスとアトリアという都を巡った兄妹ライアスとフライア。
日々の糧を得るために、ミッションを受けてはモンスターと戦い、時には騎士とも戦った。
だが、依然として彼らが望むような“何か”は見つからない。
このままじゃ、帰れない―――
アトリアとエラセドの一触即発の事態が迫る中、居場所を求めて止まない二人はこの戦の行く末を最後まで見届けることを選ぶ。
たとえそれが、自分たちに不要で無謀なことだったとしても……。
兄妹の覚悟を見届け、ドリューは桟橋を見張っていた船乗りのもとへ行き、二、三言葉を交わした。そうしてまた兄妹を手招きする。
招き入れられるままに崖沿いを進むと、一つの扉にたどり着いた。外側からは陰になり決して見えないような場所だ。
扉の先には木の板が敷かれていて、その上をさらに進んでいくと、やがて足場がゆらゆらと揺れていることに気が付いた。
「あれ? この揺れ?」
「水の音か? あれ? 今この場所って……?」
揃って疑問を口にする兄妹にドリューが歩きながら答えた。
「ああ、もう船の上だぜ。こいつに乗ってキャンプ地近くの海岸まで移動し、奇襲作戦が始まる。もう偵察隊も先に出動し、配置場所まで設定済みだ」
それはライアスが睨んだ通りの作戦だった。
「やっぱり。船を使うわけだ」
「これを見つけるために、今日はこのクルサをうろつき回っていたわけだよな。大したもんだぜ」
「まあな……」
ライアスはやや照れくさく思いながら、感心するドリューについて奥へと進む。やがて兵の待機所らしい場にたどり着いた。
鋭い目つきで刀剣を整備している者。引き締まった顔で作戦を確認している者。一昨日の防衛戦と比べ、明らかに戦いの熟練者らしき冒険者が多い。
ドリュー他、クルサの幹部と思しき人物も何人か見受けられる。
やがてドリューと同じく作戦を指揮する責任者数人の男たちが声を荒げ、冒険者たちの士気を高める。
エラセドの一方的な侵略を許してはいけない。クルサを侵略者の脅威から守るため共に戦おう。そんな言葉が飛び交う中、兄妹は集団の一番後ろに腰を下ろし、その様子を窺っていた。
(敵陣で戦うとなるとやっぱり人が変わるな。顔に傷を負ってる人とか、ワケありっぽい人もいそうだな)
(でも、やっぱり戦うためなの?)
殺伐とした雰囲気にフライアは少し気後れしているようだ。
(みんな揃って血の気が多いんだな。そんな戦いたくなるもんかねえ)
戦争が激化していく有様を目の当たりにしていることに気付かされる。
あくまでドリューのため、この戦いを見届けるため、と決意して作戦の参加を決めた兄妹だったがこの様相には戸惑った。敵を叩きのめしてやろうと士気を高め、目をぎらつかせ興奮する冒険者や傭兵たちに対して違和感を覚える。
(不思議なもんだよな。なんだっけ? 『軍事は本来望まない最終手段だ』とか。そんなことを教えられたドリューが苦い顔しながらこの作戦を決行して、そこに参加する冒険者たちが『成果を試す時だ!』とかって喜びながらここにいる)
(これ、ドリューの言ってた、《すれ違い》?)
(あー……、立場も環境も違うから、って言ってたか。迷うのも無理ないよな)
環境も思想も違えば、必然的にその覚悟も異なる。その差を埋める方法は判然とせず、すれ違いが原因で衝突が起きることもある。
兄妹は顔を見合わせた。
その《すれ違い》に今なお振り回されるドリューのために、できるだけのことはやろう。自分たちに感謝の念を示してくれた彼のために。
程なくして指揮官より作戦が告げられた。各個人の部隊配属先と共に、奇襲作戦に参戦する者に対する意思の確認が行われていく。
夕方になり、一時休憩となったが、当然ながら既に船の外へ出ることは許されなかった。
兄妹は船の隅で静かに夕食を取り、浅い眠りにつきながら出発の時間を待った。
そして、夜。
奇襲部隊を乗せた船が静かにクルサを出発した。
ここからは陸地から死角となる崖沿いを進み、ノースライフ山脈が目の前というところから上陸する。そこからキャンプ地近くに広がる森林地帯へ、戦士たちが黙って連なる。
いつにない緊張に包まれながら、兄妹は決意を胸に戦いへと臨む。配属された部隊はドリューとは異なる第二部隊だった。




