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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第二章 シェラタンの外へ
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048 兄妹の覚悟

 坂を上り、陸側の玄関口となる門から外に出る。ノースライフ山脈のある北の方角に行くと、すぐ先に土のうと木材で(こしら)えたバリケードがあった。


 様子を窺うようにしている兄妹のもとに、アトリアかクルサかの警備員らしい男が駆け寄ってくる。


「何を見ているのだ。こちらはエラセドの襲撃に備え封鎖中だ。決して回り込んでこれ以上先に進むことはないように!」


 尖り声でそう言われ、ライアスは「やっぱりな」と肩をすくめた。

 町の周囲を調べようにもこれでは進展がない。しかし、せめてキャンプ地までの距離や地形くらいは確認しておきたい。


 兄妹は一旦その場を離れ、他に策がないか考えてみることにした。


「この防壁の一番上には登れないのかな?」


 腕組みをして言うライアスに、フライアもそういえば、と頷いてみせる。

 防衛戦では砲弾を運び何度となく防壁を上った。その日は迎撃砲のある歩廊までだったが、壁の上に出られるなら周囲の様子を広く見渡せそうだ。


 兄妹はもう一度門をくぐって防壁に向かった。入口を見ると見張りの兵がいてギクリとしたが、上り下りは自由らしく、立ち入りを咎められることはなかった。

 階段を上り、歩廊を抜けてさらに上層へと向かう。やがて視界が開け、頭上に青々とした空が広がった。思惑通りに壁の上に出られたのだ。


「はあぁ……。風、気持ちいい」

「ああ」


 フライアは風になびく髪を片手で押さえながら、ライアスは身を乗り出すようにしながら景色を一望する。


 町の北側には草原と森林、その奥の方、北東部には山脈が連なっているのが見える。西の方角を見れば学術の都アトリアのシンボル、アカデミーの尖塔が確認できた。


 ライアスは北東部、ノースライフ山脈の方角を見晴らす。


「ベースキャンプっていうのが、あの山脈の割れ目の(ふもと)に広がる森林地帯の中にあるんだよな。そういえば、アトリアからあそこへ行こうとしていた時もあったよな。その道が……」


 それからアトリア側へ少し視線を滑らせ、地平線近くにある街道を指差す。


「あれか」


 フライアも兄の指差す街道を確認して、そしてそこから手前側へと視線を移していく。

 山の麓にある森林地帯を抜けると先には草原、続いてエラセドの騎士により踏み固められたであろう荒地が広がり、さらに手前に視線を移動させると先日の迎撃砲によりえぐれた大地の跡が見て取れる。


 ライアスはキャンプ地のある森林地帯を遠目に眺め、首をひねった。


「うーん、こんな隠れもできない草原を通って奇襲をかけるってのか? 無理がないか?」


 その言葉にフライアも考え込む。この景色からでは行軍が丸見えだ。とはいえ、他に経路は見当たらない。


「他に方法でもあるの?」

「わからないけど……この辺一帯もアトリアの領地なんだろ?」


 そう言ってライアスは改めて景色を見やる。


「それに、今見回して誰もいないってのもおかしいだろうよ。決行は明日の朝五時だろ? 今ここで何も起こらないのは……」


 呟くように言いながら視線を滑らせる。北東に見える山脈と森林から、さらに東側へ。


 クルサは港から陸地に向かうにつれて標高が高くなり、陸側の玄関口となる防壁付近は高地になっている。港は入り江になっていて、その他の海岸沿いは切り立った崖が続いていた。

 ライアスは顎に手をやり、思い耽るように海岸を眺めていた。


「どうしたの?」


 妹の問いかけに、ライアスは考え込むようにしながらううん、と唸った。


「……なんかあるかな。確かめる価値はあるかもな。この草原を通らずに山脈のふもとまで行くならば……」

「え?」


 そう呟くと思い立ったように階段へと向かう。

 フライアは慌てて兄の後を追った。


「ねえって。どこ行くの?」


 するとライアスは振り返り、落ち着いた声で言った。


「港に行ってみようぜ」


 エラセドからは見えずに、クルサからは見えるもの。

 北東の森林地帯にあるキャンプ地への奇襲。その鍵を求めて、兄妹は港町の坂を下っていく。




 港は避難者も少しずつ戻り、昨日はまだ少なかった露店も活気が出てきていた。船乗りたちの威勢のいい声、屋台で海鮮料理を楽しむ人々の賑わい。盛況の最中、兄妹は何隻もの船が係留される船着き場をひとつひとつ調べていった。


「えーと、船の乗り降りができるところは四つあって、ひとつがアルニラム、もうひとつが……あっ。シェラタンとも繋がってるんだな。もう二つが予備と緊急用の船着き場、と」

「今止まってる船はアルニラム行きみたい。他はなさそう」


 港にある船は一隻のみ。他に船は見当たらず、港自体に不審なところも見受けられない。

 しかしふと、ライアスが港の端の方を眺めるようにして口を開いた。


「あの、崖沿いの桟橋はどうなんだ?」


 視線の先、今確認した四つの船着き場とは別に、桟橋が見える。

 入り江になっている港の脇にある断崖絶壁、その崖沿いに突き出した小さな桟橋。すぐ傍には船乗りの恰好をした、見張り役のような男の姿もあった。


 怪しむように男を眺めるライアスに対し、フライアの方は首を傾げる。


「……管理の人のじゃないの?」


 おそらくは港を管理するために設けられた付属的な桟橋なのだろう。


「そうだけどさ。調べられねえかな」


 ライアスは一旦視線を外し、男に勘付かれないよう遠回りをして桟橋に向かった。フライアも後をついていく。


 港の中心部から端の方へと進み、崖に近付くにつれて日陰が多くなり薄暗くなっていく。比例するように緊張感が高まり、兄妹は息を潜めて桟橋に歩み寄った。


 だが、その時だった。


「見事だぜ。よく見つけた」

「……ッ⁉⁉」


 背後から突然声をかけられた兄妹は驚きのあまり跳びあがった。

 バクバクと高鳴る心臓を落ち着かせながら、それが聞き覚えのある声だったことに気が付く。


「ドリュー!」


 振り返るとドリューが笑みを浮かべながら兄妹を見つめていた。


「へへっ、あきらめの悪い奴らだ。嬉しいぜ」


 ライアスはホッと胸をなでおろす。


「脅かすなよ。ってか、お前がここに来たってことは?」

「アジトの中からちょっと見えてな。何かを探すように随分と目を凝らしていたみたいだったから様子を見ていた」


 どうやら兄妹が港に来た時点で気付かれていたらしい。ドリューのその言葉にライアスが首をひねった。


「アジト? じゃあ、例の作戦の?」


 詳細を尋ねようとするライアスだが、その口にサッと手が当てられる。

 見るとドリューが人差し指を口の前に立てていた。


「それを話す前に聞いておくことがある。お前たちは、どうしたいんだ?」


 その口調から兄妹の覚悟を試していることがわかる。

 エラセドへの奇襲はアトリアにとっては機密情報だ。部外者に情報を漏らすわけにはいかないだろう。


 ライアスは妹と向き合い、もう一度意思を確認しあった。それから改めてドリューの方に向き直る。


「お前が言ってた、作戦に参加したい」

「……どうしてだ? お前らがこんな深く関わる必要なんてない話だってのに」


 表情を変えないまま言葉を返してくるドリューにライアスが毅然と思いを伝える。


「そりゃあ迷ったさ。でも、俺たちにはそれ以外に行く当てもない。ここで逃げたところで、たぶん手ぶらで王都へ帰るだけだ。……だったら、せっかく関わったこの問題を最後まで見届けてみたいって思った。ドリューの覚悟とか、市長の事件とか、きっと最後まで見続けないとわからない」


 見届けることで、得られる何かがある。そういう気がする。

 ドリューはすぐには返事をせず、兄妹の考えについて思いを巡らせているようだった。やがて顔を上げると、


「お前らは決して戦いたいわけではない、復讐のためとかでもない。アトリアのためでもない。これははっきり言って犠牲も付きまとう作戦だ。それなのにお前らは、そんな理由で命を賭けられるのか?」


 言い含めるように話し、「命」という言葉と共に片手を突き出す。

 しかしライアスは視線を逸らさない。


「《そんな理由》か?」

「…………」


 黙り込むドリューに対し、言葉を続ける。


「昨日の晩は覚悟できなかった。今はフライアと覚悟ができた。俺たちは、このままじゃ帰ったって居場所がないんだ」


 この旅は、《独りの兄妹》の居場所を見つけるための旅だ。

 ありのままの自分であるために。他の皆と一緒であるために。


 その思いのすべてを伝えることはできないかもしれない。それでも自分たちが決めたことを素直に伝える。それが兄妹にできることだった。


 ドリューはしばらく黙り込んでいたが、やがて兄妹と視線を交わし、こくりと頷いた。


「来い。運命を共にする有志として迎えるぜ」


 そう言って突き出していた手を手招きに変えた。

 身体を反転させたドリューに、兄妹は意を決して後に続く。


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