046 与えられた自由の中で
ドリューが去ってドアが静かに閉まり、兄妹は顔を見合わせた。
そして、力なく互いのベッドに座り込む。
「……で、どうするよ」
「それ、お兄ちゃんが言うの?」
結局は断るようなかたちになったものの兄妹はまだ悩んでいた。
「結局これなんだよな。誰かのためにっていう動機が無かったら、俺たちはまともに動けないんだよな」
ライアスはどこか気まずそうに言った。
ドリューは自身の行動に踏ん切りがついたようだが、兄妹はまだ自分たちの進むべき道が分からない。
これまでは生活さえできればいいと思っていた。シェラタンにいられた時も、今も、最低限生きていける分を稼げればよくて、生活水準を上げようとも思わなかった。
ところが今は自由の中にありながら拠り所がなく、向かうところを定められずにいると思い知らされている。
「おかしなもんだな。野盗に怯えながら生きるのが嫌で、王都で傭兵として縛られることも嫌で、本当に何の縛りもない中にいるのに俺たちはまだ迷ってる」
「……わがまま、だよね」
ただ自分のあるがままに生きたい。ただ他の人と同じでありたい。そう願い、居場所を求めて旅をしてきた。
しかしまだ何処にもたどり着けていないことに気付き、兄妹は焦りを覚えた。
ふと、部屋に飾られた大陸地図を見やる。クルサから先に進むとなると、戦いの渦中にある騎士の都エラセドに向かうか、海に囲まれた魔法の都アルニラムに船で渡るか。
「……このままじゃ、何も得られないままぐるっと一回りして終わっちまうんじゃないか?」
「何か、欲しいよね」
旅をした成果として何かもっと、得るものが欲しい。
各地を巡行して冒険者としての経験を積み、ただ故郷に戻るだけでは足りない。自分たちなりの答えを見つけ出したかった。
それが旅をはじめた意味になる、そういう気がする。
「ああ、見つけたいんだよな。別に宝探しじゃなくてさ。何か、確信持って『これだ!』っていう、《信念》みたいなものが」
フライアがうん、と首を縦に振る。
答えのない迷路の出口が見えて心が晴れたような、そういう顔をしていた。
「さっきみたいの、王都でもあったよね」
「ん?」
妹の言いたいことが分からずに首をひねる。ライアスは王都の記憶をなかなか呼び起こせない。
「アヴァランと」
その名前の響きに、あの勇者の顔が思い浮かんだ。
「アヴァラン……? ああ、ドリューと似たようなこと言われたっけ」
自分のことをもっと知ったほうがいいと話し、唐突に戦いをけしかけてきた勇者。兄妹のことを、常識に囚われず飾ることなく突き進んでいると評価していた。
「……俺たちがこんな無愛想にしているのに、ドリューもアヴァランも、もっと重い重圧の中で節介焼いてくれたんだよな」
兄妹は今まで他人にあまり深入りしないように過ごしてきた。
しかし彼らと関わるうちに、自分たちの道が薄っすらとだが見えてきたような気がする。
自由すぎるが故に見失ってしまった行く先を、彼らは示してくれているのかもしれない。
「逃げちゃ、いけないかな」
「かもな。頼りにしてるって言ってくれたんだよな。ドリューだって、俺らとは比較にならないほどの重圧を受けてるだろうってのに。俺たちはみすみす逃げようとして、なんか、かっこ悪いよな」
ライアスは妹の目をじっと見据えるように見た。
「……《信念》を見つけられるまで、もう少しドリューについていってみるか?」
それは自分たちにとって不要な戦いかもしれない。しかし、あるいは立ち向かうことで得られる何かがあるのかもしれない。
ふたつにひとつの選択だ。兄の妹に対する、「心の準備はできたか?」という問いかけだ。
「…………最後まで、やってみる」
兄妹は顔を見合わせ、こくりと頷きを交わした。




