043 久しぶりの休日
翌日。
兄妹の身体は予想した通りの状態になっていた。
ひどい筋肉痛。全身がみしみしと軋み、節々が悲鳴をあげるように動くことを拒絶する。兄妹は重苦しい身体をどうにか起こし、朝食をとるべく外出の準備をはじめた。
「いててて……。で、外は昨日の状態からどこまで回復したんだろうな?」
ライアスが振り返ると、妹は何やら壁に掛けてある衣服に顔を当てている。
「……どうした?」
「うーん……湿っぽい」
昨晩洗濯した服に触れつつ、フライアは少し不満げに言った。
兄妹には肌着以外に着替えのストックがない。ライアスは革と金属でできた鎧を毎日洗い落としてやりくりするが、フライアは服とローブを着続けている。
憑依して汚れることを極力抑えつつ、洗濯は他の冒険者同様、街のクリーニング施設を利用するが、昨日の砲弾運びで大汗をかき、砲弾の埃も被ってしまった。
さすがにこれはと、兄を巻き込んで昨晩手洗いを強行したのだが、風のエレメントを利用して乾燥を早めるクリーニング施設とは違い、自然乾燥ではやはり時間がかかる。
「な? やっぱり一晩じゃ乾かねえだろ? ドリューがここを連泊にしてくれて助かったな」
そう言うと既にいつもの鎧姿になったライアスが妹を手招きする。フライアが小さくため息を吐き、寝間着のまま兄の身体に憑依した。
「今日中には乾くだろ。とりあえず飯を調達しに行くぞ」
(……あんまり揺らさないでね)
憑依していれば姿格好を周囲に見られることもない。そうして兄妹は宿を出た。
町中をぐるりと回って様子を確認してみる。町の入口となる防壁の門扉で修繕作業が行われていたが、それ以外に戦争の傷跡はあまり見受けられない。
特に港側はまったくと言っていいほど影響がないようだ。
「夜はわからなかったけど、こうしてみると本当にうまく食い止められたんだな」
(いつもと変わらない感じ。病院は? 大丈夫、かな)
フライアは兄の頭上に浮きながら、心配そうな面持ちで町の中心地を見やった。
「ああ、そっか。マグダレーナが昨日行った……はずだよな。あと、市長か。同じ病院にいるのか?」
何気ない会話から、マグダレーナとモーランのことが気にかかる。
兄妹は役所に行って町の地図を確認した。クルサには医療施設が二カ所あるらしく、どちらもそれほど遠くはない。
だが、いざ近くまで行ってみると既にどちらも負傷兵が外にまであふれている有様で、とても部外者が立ち入れるような雰囲気ではなかった。
「これじゃ、入るだけ邪魔になっちまうな」
仕方がなく引き返し、屋台で軽食を購入して宿に戻る。
それから朝昼兼用の食事を取り、ライアスの鎧を二人で磨き、少し部屋でのんびりしているうちに……快適な空間とベッドに再び眠気が押し寄せてくる。
「う~ん……」
昨日の疲れが一晩で癒えるはずもなく、兄妹は睡魔に抗うことなく布団を被った。
……目を覚ました時には午後の四時になろうとしていた。
「すっかり寝ちゃったね」
「ああ……ボケ上がるくらい、ゆっくりとできたのも久しぶりだな」
目をこしこしと擦るフライアの横で、ライアスがううんと唸って伸びをする。
そう言い合ってベッドから立つと、部屋のドアがノックされた。
「来たか? ドリューか?」
フライアと顔を見合わせる。ドリューはエラセドとの争いについて今後どうするかを話すと言っていた。
出入り口まで向かい、ドアを開くと兄妹の予想通りだった。




