041 地獄の砲弾運び
戦闘は徐々に激化していき、兄妹の疲労もピークに差し掛かる。
「次は三段目だ! モタモタするな!」
(きぃ~、無茶言いやがる!)
息せき切って砲弾を運ぶライアスに指揮官から檄が飛ばされる。
それと同時に、辺りに伝令の声が響き渡った。
「敵襲! 第二部隊が突破されました!」
砲台のある防御壁にエラセド兵が迫っているらしい。
伝達を受けた冒険者たちは騒然としながら、あらかじめ指示を受けていた戦士たちが戦闘配置についた。
「守れ! 広場から敵がやってくるぞ!」
だが、この号令に勝手に動き出す輩も出始めた。
「待ってたわ! こんな重労働より戦うほうがずっとマシよ!」
指揮官も対応に大わらわだ。
「全員が行くな! 弾の補給と救護を止めるな!」
喧噪を背に受けながら兄妹も必死に走った。
汗水流しながら、運んできた砲弾を砲手に届ける。
「ほおらよ! 追加の弾!」
「OK!」
すると下の階層から叫び声が聞こえてくる。
「弾! 弾が無いぞ!」
弾切れのようだ。迎撃砲が撃てなければエラセド兵は次々に押し寄せてくる。
ライアスは逡巡した末、降ろした砲弾のひとつを持ち上げた。
「……んあーっ! 一発は下に持ってくぞ!」
「だめだ、こっちも弾が切れる! ここに残せ。下のやつに伝えろ。迎撃砲は絞って弾切れの砲手は運び屋に回れと!」
「かーっ、わかったよ!」
言われて弾を下ろし、下の階層に向かう。
するとまた別の砲手が大声を張り上げた。
「おい! 誰が守ってるんだ⁉ 敵が下まで来てるぞ!」
呼応するように他の冒険者が叫ぶ。
「応戦する! 砲弾は誰か、頼む!」
また運び役の冒険者が減ってしまい、フライアはすっかり狼狽えてしまった。
(むり……むり! ちょっと!)
現場の指揮官も当然状況を把握しており、怒号が次々と飛ばされる。
「砲手も、手空きの者が砲弾を運べ! 供給が行き届いていない!」
休む暇などあるはずもない。兄妹は無心に走り、とにかく運んだ。
もはや疲労が麻痺したかのような身体に鞭打ちながら、防御壁と貯蔵庫をひたすらに往復する。
「ぜぇ、ぜぇ……また来たぞ。砲弾!」
「次は一段目。行く前にこれを飲んでけ!」
指揮官は指示を飛ばしながら、見覚えのある液体が入った瓶を兄妹に手渡した。
クエストで蓄積した疲労を取ってくれる回復剤だ。
「お、お、お。クエスタミン……だったか。飲む飲む!」
ライアスはゴクゴク喉を鳴らしながら一気に飲み干し、口元をグイッと腕で拭った。
「……えっと次は、一段目だったか?」
指示を確認しようとフライアを見ると、防御壁の入口を見て目を見開いていた。
「すぐそこで、戦ってる……」
見るとエラセド兵と冒険者が交戦している。
ライアスは抱えた砲弾を睨んで舌打ちをした。息を切らしながら隣にいる妹に視線を送る。
「危なかったら、憑依しろ……! それで、氷の壁張ってくれ。これ……降ろすまで俺戦えねえぞ……!」
しかし冒険者が片手を上げて呼びかけてきた。
「倒したぞ、ほら! 早く! 安全になったから運べ!」
誇らしげにエラセド兵を打ち負かした戦士が叫ぶ。だが、ライアスは再び舌打ちをする。
「……自分の仕事放棄してなにを偉そうに言いやがる!」
この時ばっかりはあからさまに文句を吐いた。
さっき他の冒険者も言っていたが、こんな重労働より戦う方がよっぽどマシだ。
歯がみしながらも砲弾を送り届けたライアスに向けて、再び指揮官から檄が飛ばされる。
「さあ、次だ! もう一度一段目に!」
半ばやけくそになりながら再び貯蔵庫に走り、中へと飛び込む。
まだまだ運ぶことになりそうな砲弾の山を前に、ライアスはふと考え込むように顎に手を当てた。
「はいぃ……お兄ちゃん。背中に……」
疲れ切った声を出しながら、砲弾を両手で担いで鞘に乗せようとする妹を、ふとライアスがジッと睨みつけた。
「なあ、フライア! 思ったんだけどよ……その弾……抱えながら憑依できねえのか⁉」
「えっ……?」
どちらも決定的な主導権を握れない消耗戦となる中、先に勢いを失ったのはエラセドだった。
決定打を得られないようでは攻め手側が厳しい。町の中にまで入り込んだエラセド兵の数は減り、砲撃部隊が急襲されることもほぼなくなった。
ジリ貧となった騎士たちはどんどん勢いを無くしていき、やがて前線にいたクルサの伝令から報せがあった。
エラセドの騎士たちがベースキャンプへと撤退をはじめた、という内容だった。
「入口まで迫ったエラセド軍も完全に押し返しました。今は市街地に潜り込んでいないかを調査中。市長は直前の凶弾によって意識不明。今集中治療を受けています!」
「わかった。ご苦労」
伝令の報告に指揮官が応じるやり取りが、ちょうど貯蔵庫に戻ってきていた兄妹の耳にも入った。
もはや何十往復したか分からない。ふうふう息を切らせながらよたよたと砲弾に手をかけたライアスに指揮官が声をかける。
「冒険者よ。ご苦労だった。もう運ばなくていい。お前たちの活躍でエラセドはノースライフ山脈のふもとまで引き返したようだ」
フライアが顔を上げる。
「え?」
もう砲弾を運ばなくていい。
その言葉をゆっくりと飲み込み、兄妹は二人揃って盛大に安堵のため息を吐いた。
「お、お? ……終わった? ……ああぁ、やっと終わったか……」
「はぁ~~~……」
ばたり、と大の字に倒れ込むライアス。フライアも崩れるようにへたり、と座り込んだ。
憑依を用いた秘策を思いつかなければ、最後まで身体がもたなかったかもしれない。いや、もっと早く気付くことができれば……。
やがて指揮官から正式な勝利宣言があり、辺りでわあっ、と歓声が沸き起こった。
兄妹はホッとしながらも、喜びのハイタッチを交わしはじめた冒険者たちを恨めしげに眺める。
「……なんだよ、あいつら。普通に元気じゃねえかよ。ったく」
「身体が、痛い……」
なんだかんだ、兄妹は冒険者の中でも砲弾を運んで走り回ったほうだろう。
事件の経緯をよそに、救護員や修繕担当者らと入れ替わるようにして冒険者たちは解散し始めた。




