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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第二章 シェラタンの外へ
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040 開戦

 兄妹はマグダレーナを見届けてから憑依を解いた。

 突然姿を現しても人混みと出陣のどさくさに紛れているため誰にも気付かれていない。


 ()()から()()になった兄妹は行列を離れ、指示出しをする隊員に駆け寄った。


「すまねえ! 集合が遅れて持ち場がまだ聞けていない! 俺ら二人だ。どこへ行けばいい?」

「なんだと⁉ 作戦が実行されてから言うな! 馬鹿者!」


 隊員は一喝すると門のすぐ脇を指差す。


「作戦指揮監督はあそこにいる。命令はそこで聞け!」


 怒鳴られた上に馬鹿者扱いされたことを内心不満に思いながら、言われた通りに作戦指揮監督からの指示を仰ぐ。

 兄妹は迎撃砲台の補佐を任じられた。


「お前たちの役目はこの街の外壁に設置されている最大の武器、迎撃砲を最大限活用させられるようにサポートすることだ。

 まずは砲弾運び。力や体力問わず必要な数だけ何十往復としてもらう。

 続いて救護。迎撃砲を操る砲手は同時に相手から最も狙われる的となる。砲手が怪我を負えばそれだけ戦力が落ちる。砲弾を背中に担ぐ鞘と一緒にこの治療キットを常に携帯してもらう。数に限りがある。砲手のためだけに使うのだ。

 最後に護衛だ。前線は他の傭兵たちに依頼しているがそれでも内部に侵入され、砲手が背後から襲われるようなことがあれば戦線は崩壊する。いざとなったときはお前たち冒険者が身体を張って守れ。よいな!」


 早口で一気に説明される内容をライアスが指折り確認しながら頷く。


「……ああ、わかった」


 作戦指揮監督の男は門の外を指差した。


「よし、既に戦いは始まっている、門を出て右だ! 外壁の手前に砲弾を貯蔵する倉庫がある。そこで指示を受けろ!」


 他の冒険者たちは既に持ち場についたようだ。兄妹も急ぎ門をくぐり、外壁沿いを走って砲弾の貯蔵庫へと向かう。


「聞いてたよな? 護衛と、あと何となんだっけ?」


 ライアスは結局最後のひとつしか思い出せない。フライアは兄の肩に掛けられた砲弾用の鞘をポンと叩いた。


「補給と救護。肩に掛けてるでしょ?」


 兄妹の役目は砲弾運びに砲手の救護、それと砲手を護衛するための戦いだ。

 倉庫に着くなり砲弾を運ぶよう指示を受けた。


「二人一組! 各砲撃場所に滞りなく砲弾を送り届けよ!」


 兄妹からすると二人一組というのはありがたいが、いかんせん、全くやり方がわからない。


 まずはまねようと、他の冒険者を見る。

 砲弾をひとつは両手に抱え、もうひとつをペアの者が鞘に乗せ、一度に二発を運ぶようだ。


 それに倣ってライアスが砲弾をひとつ持ち上げる。そしてもうひとつを、肩にかけられた鞘に担がせるためにフライアも砲弾に手を伸ばす。


「んむぅ……!」


 思わず力む声が上がる。

 砲弾は重く、フライアの力では両手を使ってもかなりキツい。


「お、落とすなよ。それを背中の鞘に……があっ! いてっ!」


 ドスンと勢いよく砲弾が乗せられ、よろめいたライアスは尻餅をついてしまった。


「ゆっくり置けって。こりゃ、重労働だぞ……」


 言いながらふらふらと立ち上がる兄にフライアが「頑張って」とエールを送る。重すぎてゆっくり置くほどの余裕はない。

 一方でフライアは救急キットを持ち運び治療をする救護役だ。


 その後どうにか砲弾を携えて、兄妹は砲台のある防壁に向かう。

 様子を見れば、砲手も狙撃役と装填役の二人一組だ。予備の砲弾のストックを確認しあいながら、弾が不足する砲台に向かうよう、指揮官から運び役に指示が飛び交っている。


 兄妹が指示されたのは防御壁の最上段にある砲台で、かなりの高さまで階段を上る必要があった。


「くう……。十キロくらいのをふたつ抱えて階段往復か……」


 階段を見上げ、うんざりしたように呟くライアス。役所などの建物で例えると三階くらいの高さだろうか。


 緊迫した状況の最中、ライアスは愚痴をこぼしながら階段を駆け上り、落とすことなく最上段に上がりきった。


 砲手たちがいる場所は防壁内の歩廊になっていて、砲台の傍らにいくつかの砲弾のストックがある。その弾を砲手が惜しみなく砲台へと装填していく。


 ライアスが持ってきた砲弾をストックされた場所に追加すると、砲手が振り向きざまに声を上げた。


「よし、いいぞ! またすぐに尽きる。早く持ってこい!」


 砲弾をここまで運ぶのはかなりの労力を要するが、そんな苦労など他人事のようにあっさりと言ってのける。

 仕方なく兄妹は踵を返し、階段を駆け下りた。


「これが何十往復か……ほんとに続いたら、ぶっ倒れるぞ、これ」




 戦いが早く終わることを願いつつ貯蔵庫へと引き返す。

 そしてまた砲弾を抱え、ひいこら言いながら防御壁に舞い戻る。


「この砲弾を二段目へ! 同じ階で被弾との情報だ! 救護も頼む」

「あいよ!」


 無茶のある重労働に、自然と返事も荒くなる。指示を受けて防壁の二段目へ。すると砲手の一人が砲台の前でうずくまっていた。


「来たか! こっちだ! 装填役がやられた! 弾をこっちに!」


 狙撃役の男が慌てるように言った。


「フライア、手当てしてやれ」

「はいっ」


 負傷した男をライアスが砲台から離し、フライアが救護をはじめる。

 すると狙撃役の男がライアスを指差し怒鳴り声を上げた。


「お前はこっち! このワイヤーを持て! 俺が合図するから、その時にワイヤーを引け!」

「え、え?」


 訳が分からずチンプンカンプンのライアスにさらなる怒号が飛んだ。


「弾を撃つんだ! グズグズするな!」


 その勢いに押されるように砲台のワイヤーを掴む。もちろん迎撃砲など撃ったことがない。


 狙撃役の男は砲台の脇で壁の外側を凝視している。ライアスの前方の壁にも小窓が設けられているが、ひび割れて視野が悪くエラセド兵の位置を上手く把握できない。


 男がライアスに向けて片手を上げ、「待ってろ」と呟く。

 そして、しばしの後に大声を張り上げた。


「撃てぇぇ―――っ‼」

「そうらっ!」


 ライアスが握ったワイヤーを一気に引く。


 その刹那、ドォンという轟音が鳴り響き地響きのような衝撃に身体が揺れた。空気を裂くような音と共に砲弾が勢いよく発射される。


 想像以上の音と衝撃にたじろぐライアスを差し置いて、男は次の砲弾を装填。間を空けることなく次の一発を発射、再び轟音が鳴り響いた。


「どけ! もう一発だ!」


 ライアスが後ずさると、フライアから治療を受けていたもう一人の砲手が駆け寄ってきた。


「君はもういい! 助かった! 復帰する」


 手当てが済んだらしい装填役の男は、新たな砲弾を抱えてライアスに指示を飛ばす。


「予想以上に相手が本気だ! 数が多い! また弾持ってきてくれ!」

「あ、ああ……」


 ライアスは半ば呆然としながら応じる。

 フライアも言葉を失っているようだ。


(ものすごい振動……)

(言われるままに引いたけどよぉ、耳がいってえ……)


 はじめての「戦争」を目の当たりに唖然とする兄妹をよそに、クルサとエラセドの一進一退の攻防は続く。


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