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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第二章 シェラタンの外へ
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039 兄妹の奇策

 役所の前の広場には既に表に市民の姿はない。クルサの兵士がしきりに走り回って港への避難誘導に当たっている。

 冒険者や傭兵は指示された通り役所の裏へと回ったようだ。


 ライアスはマグダレーナを引き連れ、受付役らしい傭兵のもとへと駆け寄る。ちょうど志願兵の募集とその手続きが終わって立ち入り禁止のロープが張られるところだった。


「なに? 今から志願か⁉ 遅すぎるぞ」


 慌てて志願するライアスに対し、兵士は眉を吊り上げた。

 ライアスがやや白々しくも両手を合わせて謝罪する。


「すまねえ、船に乗り遅れた。役所で退屈するくらいなら一緒に戦う」

「はあ……。呑気なことを。……身体を見せろ。スパイじゃないか調べる」

「後ろの女性の方、こちらへ」


 兵士たちはため息を吐いて言うと、ライアスとマグダレーナを調べはじめた。

 二人の首元を目視で確認した後、すべての所持品を確かめる。それからジロリとライアスを見下ろした。


「エラセドの紋章、短剣、なし。問題なしだ。こいつが志願兵の証。点呼に使うから落とすな。詳しくは奥で聞け。早く行くのだ!」


 証明書の札を兵士から手渡され、言われるがままに検問所を通り過ぎる。戦闘の準備はその先で行われているらしい。


「よーし、傭兵証がもらえたな」


 思い通りに事が運びライアスはしめしめという感じだが、マグダレーナは大いに戸惑っていた。


「ライアスさん? 何のつもり? 私は何も戦うつもりなんて……!」

「誰が戦えって? 病院を守る傭兵となればいいじゃないか」

「……は?」


 ライアスの言葉にマグダレーナがポカンと口を開ける。

 だが、説明する間もなく志願兵たちの集合場所にたどり着き、一行は様子を窺った。


 まだ戦闘命令を下されずに待機している者が大半のようで、ひどく緊張して落ち着きのない者、まだかまだかと騒ぎ立てる者たちで騒然としている。

 司令官の前で行列を作る冒険者たちに倣い、ライアスとマグダレーナも列の最後尾についた。


「マグダレーナ、何番だ?」


 検問所を通る際、番号が記された札を渡されている。

 マグダレーナがその番号を確認して答える。


「えっと……二百八十四番」

「んー……。俺が二百八十三番。追番だな」


 ライアスが言い、憑依しているフライアもうんと頷いた。

 少しして、マグダレーナがハッとして目を(みは)る。


「え、じゃあ傭兵になったのはこのため?」

「ああ、これで自由に街を歩けるだろ? 病院に入ったってそれ見せて、堂々と『傭兵だ、防衛しに来た。白魔法が使える』ってくらい言えば少なくとも不審者にはならないだろ?」


 ライアスのその言葉にマグダレーナは目からうろこが落ちたような顔をして、しかしすぐに首を傾げた。


「でも、本当にそんな隙があるかしら。傭兵になったら、命令の通りに動かなきゃいけないんでしょう? 札持っていたって、私が持ち場にいなくなっていたら……」


 種明かしに一度は納得したものの、慣れない戦場に駆り出されることになったマグダレーナはそわそわと辺りを見回している。

 しかしライアスは落ち着いた様子で返事をした。


「だから、三人で来て、二人しか登録しなかっただろ?」

「……あっ!」


 マグダレーナが再びハッとする。

 ライアスは周囲の冒険者たちの様子をまた窺いながら言葉を続けた。


「見てのところ、パーティ、っていう数人のかたまりで行動できるっぽいよな。二人でできるだけの役目を受けて、適当なタイミングを見て叔母さんのところに走ればいい。あとはフライアとなんとかするからさ」


 マグダレーナはライアスを見つめ、傭兵証の札をギュッと握りしめた。


「ライアスさん……」

「それまでは辛抱しろよ。もっとも、ここで何事も起こらないのが一番平和なんだけどな」


 後はどんな役割が回ってくるか、だ。




 出番はなかなか回ってこない。正面にある門もまだ開かない。

 有事が起きた時はあそこから出動するのだろうが、行列の最後尾について以降、かれこれ数十分の時間が過ぎた。ライアスよりも前にいる冒険者たちが不満の声を上げはじめる。


「今どんな状態なんだろうな」

「……わからない。でもさっきからモーランさんが話し合いを続けてるって噂してるわ」


 ライアスの問いかけにマグダレーナは神妙な面持ちで呟いた。


 モーランは「まだ開戦すると決まってはいない」と言っていた。この事態にあってなお、市長は戦いを避けるべく奔走しているのだろう。


「ふーん、やっぱり、嘘つく人じゃなかったんだな。戦いにならないなら、それが一番いいんだけど……」


 そう呟いたその時だった。




 ――ドンッ!


 どこかで重たい発砲音が鳴り響き、ややあって怒号に悲鳴、そして慌ただしい物音が聞こえてきた。

 周囲の冒険者たちがざわざわと騒ぎはじめる。


「んー? 今度はなんだ?」


 ライアスのいる位置からは状況が掴めない。集合場所から離れた地点で何かがあったらしかった。


「ちょ、ちょっと静かに!」


 マグダレーナに言われ、兄妹も周囲のざわめきに注意を向ける。すると穏やかではない言葉が次々と耳に入ってきた。


「撃たれた? 市長が撃たれたらしいぞ!」

「襲撃されたって……! おいっ、出番来るぞ!」

「なんだって……?」


 その内容にライアスが苦々しげに呟く。


「撃たれ、た……? なら、さっきの音……!」


 にわかに緊張が走る。マグダレーナもモーランに起きた出来事に声が震えさせたが、志願兵の冒険者たちは一斉に出撃の準備をはじめていく。


 程なくしてモーランの部下と思しき隊員たちから声が上がった。


「傭兵は集まれ! 急ぎ出陣の準備! それぞれ、指定された通りに配置に着け!」


 前方にある門が大きく開かれ、冒険者たちがドッと押し掛けるように門の先へと駆け出していく。

 最後尾の群衆に入り交じりながら、ライアスが我に返ったように口を開いた。


「……あれ? 俺たちの持ち場ってどこだ?」

(もう、決まってたの?)


 憑依しているフライアもキョトンとする。そんな話を聞ける場所があったかと周囲を窺った。


(右の、あそこに、あった……?)

「……えっ?」


 フライアに促されてライアスが右を向くと奥に臨時で設置したとみられる机と兵士の姿がある。あまりに地味で、札も張られていない。


 これから呼ばれるのだろうとばかり思っていた兄妹らはそれに気がつけなかった。


 当然ながら配置も役割も分からない。呆然とする兄妹にマグダレーナも動揺していた。


「ライアス。どうするの?」


 マグダレーナにそう尋ねられたが、もう開き直るしかなかった。


「あー……いいよ。もう街に送り出されるならどこかの冒険者にくっつきながら病院まで走れ。俺たちのことは気にすんな」


 こうなっては役目をこなしつつタイミングを見て、などと言ってはいられない。緊急の事態であるし、どさくさに紛れて病院に向かうこともできるはずだ。


 出撃する冒険者の列はどんどん流れ、ライアスたちの順番も間もなくだ。

 出陣の門を目前にして、ライアスはマグダレーナをちらっと見て顎をしゃくった。


「すっとぼけたふりして、俺は持ち場を聞いてくるから。もう行きな!」

「……ありがとう!」


 マグダレーナは礼を述べると、前を行く冒険者に張り付くようにして門をくぐり抜けた。


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