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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第二章 シェラタンの外へ
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027 アトリアでの冒険者生活

 学術の都アトリアは王都の北側に位置する学園都市。

 西は武闘の都ザウラク、北東は騎士の都エラセドと街道で繋がっている。さらに少し南東に行けば港地区があり、そこからは船で魔法の都アルニラムに渡ることができる。


 アカデミーと呼ばれる教育機関が中心に据えられた都で、剣術や馬術といった武芸、魔法学や経済学といった学問の教育を行っている。学びを得るべく学業に励む若者が多く、大陸の中でも平均年齢の若い都となっている。


 都全体で自由な風潮が強く、学生、冒険者を問わず活気があふれている。情報によればそんな都を束ねるのはアカデミーの創業者で、一部の卒業生が講師として残り、都を支えているようだ。




 アトリアを訪れた兄妹は生計を立てるべく、冒険者向けのミッションをこなしながら日々を過ごしていた。報酬は悪くなく、少しだが数日間で貯金もできた。


 だが、不満がないわけではなかった。


「前回は……蛇だったっけ」


 今日も案内所を訪れたライアスは、掲示されたミッションを眺めつつため息を吐いた。

 フライアがうげ、と顔をしかめる。


「見てて、気持ち悪かった」

「覚えていたくもないけど、あの臭いのせいで覚えちまったな」


 ここに来て以来、兄妹が目にするミッションはいわゆる汚れ仕事ばかりだ。前回受注したのは講堂の軒下に巣食った蛇の群れの駆除だった。

 シェラタンでモンスターの皮処理や血の臭さに慣れていたことはまだ救いだった。


「で、今度は何があるって……貯水池に発生した泥蛙の討伐に、下水道のスライム退治、モンスター化した溝鼠の巣の駆除……」

「どれも、なんか……」

「アカデミーのある都とは思えない泥臭いミッションばかりだよなぁ。なんでだ?」


 ライアスが納得いかない、と言いたげに頭を掻く。


「学生みたいなやつらが都の周りで戦ってる姿は何度も目にしてるってのに」


 案内所の掲示板を見ながらぼやく兄妹のもとに、ちょび髭を生やした恰幅(かっぷく)のいい男が歩み寄ってきた。案内所のマスターである。


「おぉ、兄ちゃんら、また残りもんのミッションを受けてくれるのかい?」

「え? 残り物?」


 疑問符を付けるライアスに、マスターはおやおやと両手を広げた。


「あー、知らなかったかい? アカデミーの連中がギルドとかってのを作って、手当たり次第にいいもん持ってっちまうんだ。本当はここに何十とミッションの札を付けておいてるんだがよ、そいつらのせいで結局は今貼ってるようなゲテモノばかりが残るんだ」


 フライアが小首を傾げる。


「ギルド?」

「そう、学生らが仲間で組んで、ミッションを掲載したタイミング目掛けていつも受注してくるんだ。受注した奴が達成できないミッションでも、それをこなせる奴に任せればいいって、手当たり次第持って行っちまう。ミッションも捗るからそれは構わねんだが……」


 マスターは顎をぽりぽりと掻いた。


「ちょうどそこにある誰もやりたがらねえミッションばかりがいつまでも残り続ける。郊外のモンスター退治なんかは大抵残らねえが、あんたが受けてきたようなやつは数日間掲載してても残り続ける。こっちとしちゃあ、あんたみたいなやつがもっと出てきてくれると嬉しいんだがねえ」


 兄妹は何ともいえない気持ちになった。そういう事情があったのか、と掲示板を改めて確認する。


「ふ~ん……」

「そういえばこの受注済みの張り紙、何人か書いてるけど前も同じ名前だったりしないか? いくつも受注してどんなすげえ奴なんだって思ってた」

「それはなぁ、本名で書いている奴もいるが、大抵はギルド名で書いていくぞ。何しろ、署名をした奴が討伐するのがルールだからな。だが、自分の所属するギルド名で書いておけば、極端な話ここに来た奴が討伐する必要はない。その組織の誰かが倒せばいいわけだ。それに、個人名をここに晒す必要もない」


 フライアが唇を尖らせる。


(ずるい……)

「なるほどな、まぁ生活が懸かってるからやらなきゃなんだけど。でも、例えばだけど、そんなに残り続けるなら……逆に受注できる項目とか数を絞ったほうがいいんじゃないか?」


 受注されるミッションがあまりに偏るようなら対策をした方がいいだろう。

 しかしライアスのその提案に、マスターはがっはっは、と笑ってみせた。


「押してもだめなら引いてみろってか。あいにく、学生共もよっぽどの金詰りじゃなけりゃ手を出さねえんだ。実際、あんたが受けてくれてるミッションの報酬は他と比べて三倍くらいは釣り上げてるんだが、それでも受けてくれねえ。それにあんたらほど、最近の学生は愚直じゃねえんだよ。良く言えば賢いんだろうけど、ほんと自分の手を汚してくれねえ」


 マスターは笑いながらも嘆かわしげに首を振る。


「少し前はもっと血気盛んだったんだがねぇ」


 ライアスは考え込むように腕を組んだ。


「んー……、そういうことか。それで、釣り上がった残り物で俺たちが三倍近くの報酬を受け取れているわけか」

「まあな。……ま、ほんとのことを言えば学生共が受けるミッション報酬を半分近くまで下げているだけだがな」

「……え?」


 フライアが呆気にとられて口を開ける。


 マスターはがっはっは、とまた陽気に笑った。騙されたのか、とフライアは頬を赤く染めた。

 ライアスは首を横に振る。


「よく言って一・五倍になったってところか。言い方次第だな」


 そう言うと、小さくため息を吐いた。


「俺たちもそろそろ世間の冗談についていけねえとな。わかったよ、今日も残り物を受けてくよ」

「おう! ありがとうよ」


 マスターが嬉しそうにニカッと笑う。仕方なく今日受注するミッションを告げた。


(……ギルド、ね)

(自分ができなくても誰かがやってくれれば引き受ける。個人名を晒す必要もない、か)


 仲間で寄り合い、それぞれ協力しあいながら課題をこなしていく。悔しいところだが発想は悪くない。

 その仕組みに感心しながら、兄妹はまた案内所を出た。


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