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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第二章 シェラタンの外へ
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026 焦燥感に駆られて

 アヴァランが去り静まり返った宮殿の中庭で、兄妹はぽかんと口を開けていた。


 結局、あの勇者は自分たちに何を求めていたのだろう。さっきまでの戦いが急に非日常的な出来事に感じられる。


「……何だってんだ、いったい?」

「あの人、光属性なのに、何でもできる」


 フライアは勇者との戦いを頭の中で思い返しながら呟いた。


 エレメントには六つの属性が存在するが、光属性は他五つの「黒魔法」と異なり、唯一「白魔法」と称されている。それは身体への治癒を専門とするエレメントを指すためで、フライアがシェラタンで教わった基礎魔法の中に攻撃や防御に通じる光魔法はなかった。


 アヴァランは兄妹の常識では考えられない戦い方を見せたのだ。


「フライア?」


 頭の中を整理しようとする妹に、ふとライアスが声をかける。


「……うん?」

「さっき、なんであっさり憑依を解いたんだ? ずっと隠してきたってのに」


 《憑依》はシェラタンでずっとお世話になっていたベベルにすら話していない。それを勇者と名乗る男に晒し、しかも理解されてしまったのだ。


「……だって……」


 フライアは消え入るように言うと、浮かない顔をして俯いてしまった。

 その様子を見てライアスが慌てたように声をかける。


「別に責めてるわけじゃないって。お前は……その、俺だからさ」


 フライアは俯けていた顔を少しだけ上げ、兄の顔をチラリと見た。


「……お兄ちゃん、止まらなそうだったから」


 その意味深な態度にライアスは首をひねった。

 何か理由があってのことだろう。その理由を探ろうと記憶を辿るが上手く思い出すことができない。

 やがてフライアが弱々しく、呟くように言った。


「お兄ちゃん、いつも全力だから。止まらないから……」

「……止まらない、から?」

「野盗に、襲われたときみたいに、また……」


 ライアスはハッと顔を上げた。


「離れそうになって、怖かったから……」


 それは野盗掃討作戦があった日の夜。兄妹が暮らす小屋に報復に来た野盗と戦った時のことだ。


 あの時、ライアスは命乞いをする野盗の男を無惨に殺した。断たれていく命に恐怖し、罪に苛まれ、涙を流すフライアを憑依させたまま――。


 やむを得ない状況だったがあれはもう、暴走だった。《独りの兄妹》の心が止まりたかったのに身体が止まらなかった。


「……俺、繰り返そうとしてたか?」

「……うん」


 ライアスの問いにフライアがゆっくりと頷く。

 今回のアヴァランとの戦いもまた、そうした状態にあったかもしれない。心に深い傷を負った妹に、また惨劇を見せるところだった。


「そうだったか……。わかった。悪かったよ。俺たちは喧嘩をしだしたら最後だ。どっちも保てない」


 何故なら二人で一人だから。


「……また置いてかれそうになっていたら、遠慮なく止めてくれよ」


 フライアが頷く。兄妹揃ってホッとため息を漏らした。


「それにしても、勇者だなんて……な。俺たちはただ、ほんのちょっと背伸びしたいだけで……」

「皆と一緒でありたい、だけ」


 既にこの場所へ招いたアヴァランの姿もない。初めて入った宮殿なんてどこに立ち入っていいのかもわからない。

 兄妹は来た道を戻るしかなかった。




 その後、兄妹はアヴァランから受け取った許可証を使わせてもらうことにした。

 それからしばらくの間、宮殿からほど近い宿泊施設を拠点に、冒険者ギルドでミッションを受注しながら過ごす。


 それから、シェラタンへ派遣される傭兵を試すために、王都が課す試験の洞窟にも行った。見張りの王都兵はいたものの監視は甘く、入口もひとつではなかったため簡単に侵入できた。


 既に何度も試験が行われていたためかモンスターは多くない。そのモンスターもシェラタンでよく見かける個体ばかりで大した脅威はなく、兄妹であればそのまま序盤はクリアできそうだ。試験は三人から四人が集まりパーティで実施されるらしいが、そこまでの人数が必要とも思えない。


 シェラタンの自警団で案内役を担っていた当時、ウォルフが「ド素人の集まり」と話していたが今なら頷ける。


「神官たちの話、全部が全部うまくいってるわけじゃないんだな」

「ウォルフも、これを知ってて」

「自分はそいつらとは違う、って言ってたんだっけか」


 そんなことを話しながら少しばかり郷愁を感じる。


 続いて通ったのは王都の図書館。

 シェラタンとは比にならない規模の建物に何列もの本棚が並び、大陸マーシアの歴史書や小説、魔法学書などがずらりと並ぶ。


 その中で特に、フライアが日々注目した本があった。


「また光魔法か?」

「うん。……でも、ない」


 気になったのは、回復だけでなく攻撃にも使っていた勇者アヴァランの光魔法。シェラタンでは習わず、この都なら存在するのだろうかと分厚い魔法学書をめくっていくが目当ての事柄は存在しない。


 数冊に及ぶ学書だったが、とうとうその難しさがフライアの知性を超えてしまい、やがて図書館へ通う理由もなくなってしまった。




 許可証のおかげで宿泊代もかからない日々は順風満帆にも思えたが、兄妹は次第に焦燥感が募った。

 淡々とミッションをこなすだけでその報酬もシェラタンの時と大して変わらない。生活の場が変わっただけだ。


 とはいえ、王都の傭兵になり神官たちの監視下に置かれるのも気が進まない。

 何も当てはないが、それでも何かに抗いたい、挑みたいという衝動に駆られた。




 数日後、兄妹は王都を離れることを決意した。

 アウラとカムトにそれを伝えると、神官たちは別れを惜しみながら北部にある「学術の都アトリア」に向かうことを薦めてくれた。


 そして王都を旅立つ日。

 兄妹は宿の前で地図を確認していた。大陸マーシアの中央は険しい山岳地帯となっていてアトリアへはその東側の街道を通る。シェラタンと比べて倍以上の距離がありそうだ。


 よし出発、と顔を上げると偶然にも遠くにアヴァランの姿があった。やはり大勢の市民に囲まれ、仰々しい祈りや派手な歓声を受けていた。


「勇者って、大変だな」

「うん」

「あいつが何を企んでいたかまだわからないけど……どんな状況でも、期待に応えないといけないなんて、気が狂いそうだよな」

「うん……」


 後に続く人間が現れてほしい、とアヴァランは言っていた。


 勇者という立場に何となく思いを馳せつつ、兄妹は王都アウストラリスを後にした。


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