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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第二章 シェラタンの外へ
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025 アヴァランの予言

 ライアスの負傷にフライアの回復魔法は数回に渡って続く。やがてそこへアヴァランも歩み寄ってきた。


「……すまない。かなりの出血だな。俺からも回復を」

「回復まで……⁉」


 フライアが驚きの顔で振り返る。戦闘に特化した魔法をあれだけ駆使しながら、回復魔法まで扱えるというのか。


「や、やめろ。なんでお前まで回復魔法が使えるんだ……?」

「わずかばかりだ。止血するまではさせてくれ」


 そう言うとアヴァランはしゃがみ込み、怪我を憂えるような表情で詠唱をはじめた。

 ライアスは悔しさからそれを拒否しようとしたが、慈しむような勇者の表情を見て回復を受け入れた。


「……あの、ありがとうございます」


 むっつりと黙り込んだ兄に代わり、フライアがお礼を述べる。実際、力試しからの立て続けで魔法を連発していただけに息を上げていた。

 フライアとアヴァラン。その後も交互での手当てが続く。




 アヴァランの回復魔法はフライアに劣らないレベルのもので、ライアスは少しして立ち上がれるまで回復した。


「……ありがとよ」


 ぶっきらぼうにライアスが礼を伝えるとやはりと言うべきか、アヴァランが神妙な顔を浮かべた。


「今、君は確かに……。妹を身体に纏わせていた。……そういう、ことだったのか」


 アヴァランは礼には返事をせず、考え込むようにしながら呟いた。

 思わず兄妹は揃ってため息を吐く。これまでずっと隠し続けてきたことを、ついに人前で晒してしまった。


「……そういうこと。あんまり見せたくなかった技だ」


 アヴァランが顔を上げる。


「その……なんて言えば理解してもらえるかわからないけど。俺たちは、こうして身体をひとつにできる力を持ってる」


 語りはじめたライアスの目を、勇者はジッと見据えている。

 ここまできたら変に誤魔化したところで意味がない。兄妹は自分たちの境遇を素直に伝えることにした。


「どうやって、なんて聞かないでくれよ。俺たちもはっきりとはわからないんだ。でも、身体はふたつあっても、能力は一人分。俺たちは互いに、話したり、覚えたり、吟味したりする力を切り分けた者同士なんだ。だから二人でいなきゃ人と話すこともままならない。今ここにいるフライアは、俺にとっての《自分自身》なんだ」


 顔を俯けたままのフライアもこくりと頷く。


「自分自身、か」


 アヴァランは意味ありげに、しかし優しげに口角を上げた。ライアスが言葉を続ける。


「ちょっとばかり挑発されたかと思ったよ。全力で来いって言われたもんだから、ハッタリかましてみたけど、こんなに綺麗に返り討ちに遭うとはなぁ」


 憑依術による戦いを初見でここまで見事に捌かれたのは、はじめてのことだ。


「……いや、戦略は悪くなかった。力技ではない、俺の隙を見抜こうとする息の合った連携だった。そして、すまなかった。わざとではないとはいえ、大切にしていた秘密を明かしてしまった。申し訳ない」


 勇者は謙虚に頭を下げた。ライアスが別にいいさと片手を上げて応じる。


「面倒事にならなきゃ別にもういい。勇者だとわかったから言っただけで、これを他のやつに言うなよ」


 するとアヴァランはニコリと笑った。


「わかってるさ! そうだな。せめてもの償いでしかないが、詫びも含めてこいつを受け取ってくれ」


 そう言って薄い金属製の板を差し出した。それには王都の紋章と思しき文様が刻印されている。


「これで、宮殿近くにある施設に自由に泊まれる。金のことなら気にするな」


 兄妹はにわかに狼狽えた。


「え? で、でも……」

「い、いや、待てよ。なんで俺たちにそんな節介焼くんだ? これから、俺たちが何をするかもわからないってのに、何のつもりだ?」


 アヴァランはふと視線を外し、小さく息を吐いた。


「これはただの直感なんだが、君たちが平凡なままで終わる気がしなくてな」


 兄妹は意図がつかめずキョトンとする。


「……ひとつ意地悪なことを聞くが、俺と戦おうと君たちが二人がかりで来たとき、卑怯だとは思わなかったか?」


 フライアが気まずそうに顔を俯けた。


「……そりゃ、思ったよ。でも、あんたは全力で来いって言った。俺たちにとっての全力は二人で戦うことだ」


 正直に答えるライアスに対し、アヴァランはうむと頷いてみせる。


「ああ、そうだ。全力になるなら手段を選ばない。常識に囚われない。飾ることもなく目的を果たすためにまっすぐ突き進む」

「別にそんな……いつも余裕がないだけだ」


 勇者が口にするような崇高な意志なんてない。兄妹はいつだって全力を尽くすしかなかった。


「だからこそ、応援してみたくなったんだ。俺は確かに勇者という称号を得ているが、何も勝ち誇るためじゃない。後に続く人間はいつもいてほしい。早いところ次の勇者が出てきてほしいくらいだ」


 その言葉にライアスはギョッと後ずさった。


「勇者だって⁉ な、なに言ってんだ? お、俺たちがそんな立場になるなんて……」


 反射的にそう言って首をブンブンと横に振る。


 すると、アヴァランはふうとため息を吐いた。


「……そうだな。別に同じ道を辿れと言おうとしたわけじゃないが……急になれって言うものじゃないよな」

 

 そう言われてライアスが振った手を(ひたい)に据えた。気持ちが慌てていたようで的外れな反応をしてしまったようだ。

 アヴァランはそう言うと踵を返し、「じゃあ」と片手を上げた。


「すまなかった。長く付き合ってくれて本当にありがとうな。その認定証は預けておく。人に譲ることだけはしないでくれよ」


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