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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第四章 マーシアの西側へ
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107 王都アウストラリスへの帰還

 アトリア方面へと続く街道は広大な平野が周りに広がっている。


 ザウラクの街中から続く石畳の道が、広々とした草原を切り分けるように伸びている。その先を見やれば、学術の都アトリアを象徴するアカデミーのシルエットを薄っすらと見通すことができた。


 長く滞在していたとはいえ、不慣れな土地に兄妹が地図で行き先を確認する。

 目的地である王都アウストラリスはその南側に位置する。しかし高々と屹立する山脈に阻まれ、その様相を視界に捉えることはできない。


「あれがアトリアだろ? それでもって王都はその南側だ。馬車に乗れないと随分と長い遠足になりそうだな」

「うん」


 微かに見えるアカデミーらしき建物に目を凝らしながら、兄妹は今日の旅路を思う。ザウラクまでは馬車で来たため、その距離感や街道の地形を把握していなかった。


 これは長旅になりそうだ、と思ったライアスは手の甲を妹に差し伸べた。「憑依して向かおう」というサインだ。憑依中は歩き疲れることもない。


 ジッとその手を見つめていたフライアだが、やがてアトリアの方に顔を向け、そのままコツコツと街道を歩きはじめた。

 置いてけぼりを食ったライアスがきょとんとして声をかける。


「あれ? どうした?」

「たまには歩かなきゃ」


 フライアは石畳を踏み鳴らして街道を歩く。ライアスは小走りでその隣に寄った。


「健康志向か」

「……というより、鈍っちゃうから。ほんとに」


 その口ぶりからライアスは妹の心情を察した。並んで歩き、呟くように尋ねる。


「……憑依、か」

「そう。消えてる時間、最近かなり長いから」


 フライアは神妙な面持ちで言った。兄以外誰とも分かち合えない悩みだ。ライアスは妹の意思に任せることにした。




 これまで幾度となく頼ってきた憑依の力だが、その原理は兄妹も分かっていない。何も意識することなく、自然に出来るようになっていた。

 憑依中の感覚はライアスにも分かる。


 まず、体重を感じなくなる。ゆらゆら宙を浮くのだが、動きは憑りついて拠り所となった者に任せることになる。どこまでも自由に飛べるわけではない。

 身体を動かせても実体はないのだ。魔法の詠唱などによる精神的な負荷こそあるものの、一方で肉体的な負荷は一切なくなる。


 自重そのものがないわけで、憑依ばかりしていれば当然体力は衰えていく。寝たきりでいるのと似たようなものだ。


 ライアスと比べて憑依が圧倒的に多いフライアは、それを心配していた。


「だから重い荷物を持ちたがったり、獣皮の防腐作業とかっていう結構な重労働もやってたんだよな」


 ライアスは思い出すように言った。フライアが頷く。


「うん、最近やってないから」


 シェラタンに暮らしていた当時、兄妹は鉱石や獣皮を加工して生計を立てていたが、その採取やモンスター狩りの傷はライアスが受けていたが、荷物の持ち運びはフライアも加担していた。


 それから兄妹は黙々と街道を進んだ。それなりに歩いた気もするが先に見えるアトリアは程遠く、振り返ればザウラクの街がまだ近く感じられる。


 さらに歩きながら、ふとライアスが口を開いた。


「なら、またやるか」


 それはシェラタン時代の仕事──鉱石の錬成や獣皮の防腐処理──を指していた。

 軽く目を丸くするフライアだったが、その表情はみるみる明るくなっていった。


「……うん!」


 兄妹は平野の街道を一路、先を見据え進み続けた。




 アトリアに着いた頃には昼をとうに過ぎていた。


 マーシュのアドバイス通り定期便を確認すると、最終便が一時間後に出る予定となっている。運賃もザウラクの半分以下で申し分がない。


「こんな運よく事が進むのも珍しいな」


 首尾よくチケットも確保でき、ライアスは満足げに呟く。

 ゆっくりと昼食をとることもできた。




 そうして迎えた馬車の停留所。


 余裕をもって乗り込んだが、数分前になって慌てながら駆け込む乗客もいる。

 それでも、席は並んで座れるままだ。


 やがて時刻通りに馬車は、アカデミーの校舎を背に南へ向けて出発した。


 なぜだろう。見慣れたところまで来たからか、それとも王都に帰れることが約束されたからか兄妹から緊張が解かれ、どっと安堵の息が零れた。


「やっと帰れるな……」

「うん、よかった、ね」


 傭兵ギルド「ブラザーズ」としての初任務だったが、無事報告できるだけの手応えはある。

 それに、ザウラクに赴くときも、女将マーシュの宿があるとわかれば心強い。

 初めて訪れた武闘の都ザウラクを知る上でも大きな収穫だ。


 あれもこれもと思い起こそうとしたが、気づけば頭をこっくりとさせるほどの眠気がやってきた。

 続きは着いてからにしよう、と兄妹は馬車の揺れに身を任せながらしばし肩を寄せ合って眠りについた。


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