表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第四章 マーシアの西側へ
108/387

104 ヴィクターが見る闘技の《裏側》

 闘技場の運営担当ヴィクターに質問できる。

 当初の目的を果たすのに格好の機会となっているが、相変わらずライアスは記憶が辿れない。


「えっと……フライア。なんだっけ?」


 兄から視線を送られ、フライアは手帳を取り出した。受け取って、拙い言葉で綴られた手記をライアスが読み取っていく。




「えーと……。そう。まずは『ヴェーリングアーマー』ってやつについて知りたい。闘技の中で出回ってて、ウェイさんもこれで苦戦してるって言ってる。これが一体何なのか。あとは……、結局俺たちは闘技証がもらえるのかどうか。それと、俺たちがさっき入れられた処刑場(エクセキューション)、って呼んでたあの場所のことがもう少し知りたいってとこだな」


 ヴィクターは頷いて質問を受け入れた。


「そうだな。ヴェーリングアーマーについては最後にさせてくれ。ふたつ目の闘技証についてはこれから話そうと思っていた」


 ヴィクターはそう言ってライアスを見やった。


「ライアス。登録上の不備があったとはいえ、結果としてお前は一人で戦い抜き、資格試験には合格した。ここで質問なンだが、お前はこれからも一人で戦い続けるのかい?」


 問いかけられ、ライアスは言葉を詰まらせる。


「う……」


 チラリと横を見るとフライアも苦笑いを浮かべた。どうもヴィクターは勘付いているらしい。


「どういう原理かはわからねえが、お前たちがベラムと戦っていた時は資格試験で戦っていたそれとは違う状況だったはずだ。そうじゃなきゃ、一敗が付くわけもないだろうし、芸術点が低く評価されるわけもない。試験と同じ状況ならベラムには勝てなかっただろう」


 言いながら今度はフライアを見やる。


「嬢ちゃんは氷と光のエレメントを使えると言ったよな。ベラムと戦っていた時に現れた氷はつまり、お前たちは二人で戦っていたンだろう?」


 ……完全なる図星だ。

 兄妹は揃ってヴィクターから目を背けた。とはいえこうも的確に指摘されてはもう隠しようがない。


 兄妹はチラリと視線を交わす。ライアスが手を差し出し、フライアが手を重ねた。浮き上がるように、スッ、とフライアの姿が消えてなくなる。


「うおおっ⁉」


 ヴィクターが素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。


 無表情のまま微動だにしないライアスの頭上に、突如氷塊が現れた。憑依中のフライアが発現させたもので、ヴィクターからすればライアスが詠唱もなく魔法を使ったように見える。


 氷塊はゆっくりと浮遊し、ヴィクターの目の前で弾けて消えた。


「おっ⁉ お、おおう……」


 ヴィクターは信じられない、というふうに顔を強張らせる。

 机に肘をつきながら、ライアスが口を開いた。


「……大当たりだ。こうやって、俺たちはあいつと二人で戦ってた」


 憑依が解かれ、ライアスの背後にフライアが現れる。そして何となしに元の椅子へと腰掛けた。ヴィクターは未だ面食らった様子で呆気に取られたままだ。

 ライアスが言う。


「ルール違反じゃないよな? あいつは《二人まとめて》と言ったからな。その通りになって戦ったって話だ。もちろん、資格試験の時はその時のルールに従った」

「あ、ああ、そうだったな……」


 ヴィクターは狼狽えながらも頷いた。




 小さく息を吐き、額に浮かんだ汗を拭う。兄妹は彼を信じて打ち明けたわけだが、ヴィクターにとっては相当に衝撃だったようだ。


「はあ……。とんだ期待の新人が入ってきたモンだ……」


 首を横に振りながら呟く。

 想定以上に驚かせてしまったことに戸惑いながら、ライアスは本題へと話を戻す。


「あ、いや……。それで、あんたの回答なんだけど、そう。正直言って一人じゃ戦いたくない。俺たちはずうっと二人で戦ってきた。今更一人で戦う理由もないんだ」


 ヴィクターはようやく真顔に戻る。


「ふむ、そうだろうな。ベラムに対して二人であれだけ流れるような連携で戦えるならそうしたいだろうな」


 彼はひと息つくように言った。そしてふと思いついたように言葉を続ける。


「……それでもウェイがこうしてお前を闘士にしようと試験を受けさせたのは、何か別の目的があったからか?」

「ああ。それが、さっき言ったヴェーリングアーマーのことだ」


 ライアスが頷きながら答える。もはや隠すこともない。

 ヴィクターは右手を顎にやった。


「……なるほどな。全体像が見えてきたぞ」


 思案するように視線を持ち上げ、何度か頷いてみせる。


「ヴェーリングアーマーについて聞ければ、特にこの闘技場や階級には興味がない。そういうことでいいか?」


 オブラートに包まないストレートな物言いに、兄妹はいささか面食らった。ライアスがひらひらと手を振る。


「きょ、興味ゼロってわけじゃないぞ? ただ、まあ……」


 言い(よど)むライアスを見て、ヴィクターは「そういうことだな」とはっきり口にする。その上で言葉を継いだ。


「そこで相談がある。今回の件は登録不備による失格、ってことにさせてほしいンだ」


 兄妹はギョッとする。まさか怒らせてしまったのか、とヴィクターの顔色を窺う。

 しかしヴィクターはそんな兄妹をなだめるような、柔らかい口調で説明をした。


「本来ならこの程度は合格ってことにしてもいいンだが、なにしろ見られた相手がベラムだ。厳重な謹慎処分を食らわせたとはいえ、俺もウェイとは無関係じゃねえ。肩入れしてるとかって、奴に借りを作りたくもねえンだ」


 穏やかなヴィクターの態度に兄妹はホッとする。説明も納得がいくものだ。


「そうだろうな。それは想像がつく」


 あのベラムがただで転ぶような男とは思えない。隙を見せればすぐまた噛みついてくるだろう。

 ヴィクターが頷き、口を開く。


「でよ? もし現行のルールでお前が最大限の力が発揮できねえっていうのなら、また別のルール形式を設けるって手もあるなと思ったんだ。例えばデュアル戦。二対二形式にするとか、な」

「……お?」


 思いもよらぬ提案にライアスが興味を示した。一緒に戦えるなら、という視線でフライアを見やる。

 だが当のフライアは眉尻を下げ、「ええぇ……」と(うめ)いた。


「フフ、嬢ちゃんはやりたくないか?」


 ヴィクターが微笑んで言うと、ライアスは気が付いたように「あ……」と呟き、頬をぽりぽりと掻いた。


「あー、かもな。いや、俺も『出るならそのほうがいい』ってだけだ。そのデュアル戦ってやつができたら一対一は出ないよ」


 無益な争いを嫌うフライアと同じように、ライアスも進んで血を流したいわけではない。

 ヴィクターがそうか、と頷く。


「そうだと思った。でも、それだと嬢ちゃんはまだ資格試験を受けてねえから、仮に公式化されてもすぐに揃っての出場は認められねえンだ」

「あっ……!」


 ライアスはハッとした。




 それからしばし固まった後、がっくりと顔を(うつむ)ける。

 また闘技に関わる時は今日の資格試験を再度行うということだ。考えただけで気が滅入ってしまう。


「まあ、気持ちはわかる。お前が一対一でも出る! って言ってくれりゃあしかたねえと思ったが、出ねえって言われちまったらなあ」

「くっそー……」


 ヴィクターが同情するように苦笑いした。

 ライアスはまあそうか、とため息を吐く。


「そうだよな。言われてみれば……。その、デュアル戦ってのは近々できるのか?」


 ヴィクターはやや満足げな面持ちで質問に応じた。


「まだ少しかかるが、お前たちのさっきの戦いを見て俺は計画を後押ししたいと思った」


 それから改めて試験の合否に話を戻す。


「だが、それでもお前が今日勝ち取った闘技証は実質無効だ。だから今回は失格ってことにしてほしいンだ」

「……なるほどな。わかったよ」


 こうなるとぐうの音も出ない。すっかり諦めると肩の力が抜けて、ライアスは大きく欠伸をした。

 ヴィクターが苦笑する。


「もう疲れたか? まだ続けるか?」

「ん~、いや、今日に全部聞いとく」


 ライアスが言って、フライアも「うん、あとちょっと」と同調する。

 ヴィクターは「わかった」と応じると、ふたつ目の質問に答えた。


「ふたつ目の《処刑場(エクセキュージョン)》のこと、これはシリウスが気に入らねえ奴が現れた時あそこにぶち込んで《稽古》という名義でボコボコにするところだ」


 フライアが眉をひそめる。予想通りの返答だった。

 ヴィクターが説明を続ける。


「あそこは古い闘技の間で今は使われてなくてな。音の響きも悪いところだからちょっとやそっと騒いでも気づきにくいンだ。たいてい今日みたいな警備や運営者が手薄な時に勝手に使っていく。受付前で話したが闘士は喧嘩がご法度だからな。その網を搔い潜るようにあいつらが勝手に設けたのだ。あそこも新たに専用の鍵がかかって封鎖される予定だ」


 封鎖、と聞いてライアスが視線を持ち上げる。


「そうなのか」


 ヴィクターが頷いた。


「今回はラッキーだった。理事官たちが会議のために別室に集まっててよ。しかもお前たちが粘って戦っててくれたからあいつの素行をたっぷり見せられたってなモンだ。大抵は全てが終わって証拠も残らねえンだ」


 言いながらやれやれと首を横に振る。兄妹は顔を見合わせた。


「……生きててよかったな」

「うん……」


 しみじみと呟きあう。

 そんな兄妹に目を細めながら、ヴィクターは最初の質問に言及した。


「そして最後、ヴェーリングアーマーだな」


 兄妹はいよいよか、といった様子で姿勢を正す。


「これは運営でも調査を始めている。現代の戦いにも精通し、追従する目的もあるこの闘技では一定の性能を持った武具は定期的にルールを更新しているが、あのアーマーに関しては疑問も噴出している」


 言いながら、ヴィクターは改めて兄妹の顔を見やった。


「今から十年近く前だ。その頃はウェイのような武術や剣術の使い手が闘技場の覇権を握っていた。並外れたスピードとパワーがぶつかり合う闘技の中の闘技ってなモンだったが、やがて闘技時間が伸びるように、攻撃だけでなく防御にも見どころを加えるべきだと、六年前に改正が入った。武器は今も青銅製に限っているが、防具は希少性のない防具なら参加できると、条件が緩くなったンだ」


 ヴィクターの説明に兄妹もうんうんと応じる。


「この程度の改定なら多少毛を生やすくらいなモンだろうと、正直俺もたいしたことは思っていなかった。だが、たぶんその改定から、ヴェーリングアーマーが一部の施設団に流れ始めたんだろうな。それから一年で、闘技場の顔がガラリと変わっちまった。ウェイは苦戦し、ベラムをはじめとするシリウスらが台頭した。奴ら、客を喜ばせるパフォーマンスも旺盛だからな。あっという間に客の目を取り込んじまった」


 それが、以前と今の闘技場との変化なのだと、兄妹は大きく頷いた。


「その、ヴェーリングアーマーはどこから?」

「ふーむ……。それなんだが、俺たちにもはっきりしたことはわからん。いつしか闘技会場で聞こえるようになった名前でな。『ヴェール』という、包み隠す意味ってのが定説だが、ここから北西にある都ヴェーロールムから来たっていう噂もある」


 ヴェーロールム。その都の名前を聞いてふと、フライアが鞄から地図を取り出した。

 その都は『兵器の都』と称されている。


「その都は、このザウラクすらほとんど干渉できない未知の都だ。観光気分で行けるようなところじゃない。通称『ヘルズウォール要塞』と呼ばれる関所で、ザウラクとは壁のように隔てられちまっている」

「『ヘルズウォール要塞』……」


 地獄の壁――。忌まわし気な名称にライアスが思わず復唱する。


「ああ。この娯楽都市から一歩踏み出せばそこは《地獄》ということなンだろうな」


 ヴィクターは呆れるようにふっ、と笑ったが、兄妹は神妙な顔のままだ。


 なにしろそのヴェーロールムは地図上では大陸マーシアの中でもサダルメリクと並んで最も西にある。

 頭に浮かんだ疑問をライアスが尋ねた。


「そんな、得体の知れない都がそのままでいいのか? 西の大陸のメイシアとも近いって言うのに」

「まあな。ヴェーロールムの連中が気になる気持ちはわかる。だが、地形的にメイシアに接近することはできねえ。地図をよく見ろ」


 ヴィクターはそう促し、兄妹が持っていた地図の北西部を指差した。


「大陸メイシアにほど近い場所にヴォイドゲートがある。それも、この大陸では最大規模で頻繁にそのゲートからモンスターが出入りしていると聞く。幸か不幸か、このゲートによってサダルメリクのようにいざこざが起こっていないようだ。だがウワサじゃ、ヴェーロールムは自分たちが開発した兵器を持って管理しようなんて話も出てるようだ」

「……そんなこと、できるのか」

「わからん。この都に関しては噂でしかねえンだ。気になるのもわかるが、予想で言っても時間の無駄だろう。そろそろ話を戻そう」


 兄妹はハッと気が付いて息をつく。夢中になってしまったが、思えば大きく話題が逸れていた。


「結局のところ、ヴェーリングアーマーの出どころはわからないままとなっている。だが、そんな装甲がこの世に存在するのは事実だ。それを闘技の中に、平等になるよう規定を修正していくことが必要になった。……こいつは、お前たちが話さないと信じて伝えるが、大会前の着用防具のチェックはウェイを含めて選手には伝えずに強化し続けている。今回で言えば、お前の鎧からは何も検出されなかった」


 ライアスは首を傾げた。


「えっ? ああ……そりゃなんもないだろうけど、何? 探知装置か何かがあるのか?」


 ヴィクターが口の端を上げる。


「フフ、そこは企業秘密だ。だが、ひとつだけ教えておくと、お前が戦ったポルックスのフェイタム。あいつのアーマーからは特別な魔力を検出した」


 ライアスは思わず腰を浮かせた。


「ああ……! やっぱりか!」


 フライアも喜びを頬に浮かべる。兄妹の予想は確信に変わった。

 ヴィクターが話を続ける。


「それが何かは教えられねえ。だが、数年かけているこの調査ももうすぐ形として結果が出る見込みだ。これを適正化し、ウェイのような純粋な闘士がもう一度報われるような規約に改正していくつもりだ。お前たちには苦労をかけたが、今回の騒ぎで不正の芽を摘むにはいい機会だ。そう長くはかからないだろう」

「そうなのか。それは朗報だな」


 ライアスがグッと拳を握る。フライアは安堵のため息を吐いた。

 説明をするヴィクターも、心なしかホッとしているように見えた。


「ああ。だが、これが今外に漏れるのはまずい。それに、ウェイはそんな小細工にも屈せずに自分を鍛えて抗おうと何年も戦い続けてきた。お前らもウェイのとこからもう一度挑戦してくれるなら、敢えてこのことはあいつにも言わないでほしい」


 ライアスは「わかった」と応じ、力強く頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ