102 死闘を乗り越えて
事情聴取として召集された兄妹は、運営の控室で椅子に座っていた。
ヴィクターは準備があるらしく、どうにか隙を見て《憑依》を解いてから、二人で彼の戻りを待っている。
テーブルには軽食が用意してあり、回復用にクエスタミンも用意されている。
去り際ヴィクターは「一応ベラムと同じ扱いで監視されてるってことだけは忘れンな」と忠告していった。
だが、兄妹はもうそれどころではないほど疲弊している。
特にベラムとの戦いを含め、一日に四戦もの真剣勝負を強いられたライアスは限界を超え、机に頭を伏せていた。
「……ふがっ」
眠っていたライアスがビクッと痙攣して身体を揺らした。
ふるふると首を振る兄を見て、フライアがぽつりと呟く。
「……疲れたね」
「……ああ」
テーブル上、ライアスは両腕に顔を埋めたままフライアを見やる。
フライアは安堵した微笑みを浮かべ、ジッとライアスを見つめていた。兄が声をかけてくるのを待っているようだ。
「……フライア。お前さっき、随分張り切ってたよな」
やがてライアスが言うと、フライアはにこりと笑って小首を傾げた。
「そう?」
「ああ、なんていうか。あんなに早く魔法を唱えられてたっけ? 助かったからいいんだけどさ」
ベラムとの戦いで何度妹に助けられたことか、とライアスは振り返る。それこそ今までにないくらいの力で。
フライアはこくりと頷いた。
「うん。なんとなくね。でも、お兄ちゃんだって……」
「ん?」
視線で問いかける兄を見つめ、フライアはおもむろに腕を指差す。
「腕、痛くない?」
ん、とライアスも自身の両腕を見つめる。そして、そういえばとセスタスにアームガードを取り外した。露出した肌を見て嘆き声を上げる。
「あ、あぁーっ! 言わなきゃよかったのに! 急に痛痒くなってきた!」
言いながら、火傷を負った両腕を慌ててさする。
フライアは周囲を見渡しタオルを見つけると、氷のエレメントで小さな氷塊を生み出し、冷やしタオルに仕立てた。それを兄の腕にあてる。
「……ああ。いい感じだ」
ひんやりと心地いい感触にライアスはふう、とため息を吐く。
その様子にフライアはほっとして席に戻った。それから、用意されていたクッキーに手を伸ばしてぽつりと呟いた。
「……悪口って嫌い」
「あ? ああ……」
顔を上げる兄から視線を外し、再度口を開く。
「今でもまだ、頭に残ってる」
そう言って少し硬いクッキーを音を立てて嚙み潰す。その目は、どこか悔しそうだった。
その悪口がベラムのことを指していると、ライアスはすぐに分かった。
ベラムに「インチキ」と決めつけられたとき、フライアは「やってない!」と悲鳴を上げた。普段舌足らずで口ごもってばかりの妹がああも主張するのは本当に稀だ。
──フライアにとって本当に耐え難い出来事だったのだ。
戦いには勝ったが兄妹の気持ちは決して晴れやかではない。
「悪口、か。ほんとそうだよな。俺もなんでか、腹立ったことばかりは頭に残る。昔っからだ」
呟くように言って、ライアスは再び顔を机に伏せた。




