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ひねくれ領主の幸福譚 性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】  作者: エノキスルメ
第三章 社交と結婚

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第84話 結婚前夜

 クラーラとマチルダが心を通わせ、ノエインと3人で生きていくと決意を固めた一幕を終えて。


 レトヴィクへと帰るクラーラは「帰ったらすぐにでもお父様にノエイン様との結婚の許可を求めるつもりです」と言い残していった。


 その数日後にはノエインも、クラーラとの結婚をアルノルドに申し出るためにレトヴィクへと足を運ぶ。


 今回は仕事の話をするわけではないので、応接室ではなく屋敷の中庭に招かれた。


「……クラーラから話は聞いた。私としては、二人の結婚に反対する理由はない。婚約を勧めたのは私なのだからな」


 そう言いながらも、アルノルドはどこか釈然としない顔をしている。


「だが、今回は一体どんな手を使ったのだ? 今までは結婚に悩んでいた娘が、先日帰ってきたらいきなり清々しい顔になっていたのだが……本人に聞いても『生きる希望が見えて覚悟が決まった』としか言わないんだ」


「それは、僕ではなくマチルダの手柄ですね」


 ノエインは苦笑しながら横に目を向ける。ノエインとアルノルドから少し離れたところでは、マチルダとクラーラが親しげに何やら談笑していた。


「僕がどんなにお嬢様を気遣って話してもお悩みを引き出すことができなかったのに、マチルダは少し彼女と話しただけであっさり引き出したばかりか、それを解決する提案までしてしまったようです」


 今回の最大の功労者はマチルダだ。ノエインが越えられなかった壁をマチルダはあっさり乗り越えて、自分もクラーラも、そしてノエインもより幸せになれる道筋を見つけてしまったのだから。


「……なるほど、『人生を切り開くうえで女は男より強い』というわけだ」


「ええ、私もそれをあらためて痛感しました」


 アルノルドが呟き、ノエインが首肯したのは、この世界でよく聞かれる格言だ。


 不条理の多いこの世界では、女の方がそれを受け入れてその中に希望を見出す力が強い。男が悩んでいる間に、女は覚悟を決めて前を向き、人生を切り開いてしまう。


 先人たちが導き出したこの真理を、ノエインは、そしてアルノルドも、強く実感したのだった。


「2か月後には貴殿らの挙式か。随分と急な話になったな」


 クラーラは出来るだけ早く結婚式を挙げたいとアルノルドに駄々をこねたそうだが、他の貴族に招待状を送り、彼らに結婚祝いなどを用意してもらう必要もあるため、ノエインとクラーラの挙式は7月の半ばになった。


 ホスト側であるアールクヴィスト家、ケーニッツ家の準備の時間はそれなりに余裕があるが、これでも貴族の結婚としてはかなり急な部類になる。


「……あまり乗り気でない様子ですが、もしかしてご迷惑でしたか?」


 未だに微妙な顔をしているアルノルドにノエインは聞く。


「いや、迷惑などということはないが……以前までの娘の様子を見るに、あの子が結婚を決意するまでにまだ数か月はかかると思っていたからな。それが2か月後には式を挙げて嫁いでしまうのだから……まあ、何だ、父親としては寂しいのだよ」


 そう不機嫌そうに言うアルノルドの顔は、ただの子離れできない父親のものだった。


「なるほど、お義父様は娘となかなか会えなくなるのが悲しいと」


「……君に『お義父様』などと呼ばれると鳥肌が立つな」


 悪ノリしたノエインの言葉を受けて、アルノルドはますます不貞腐れるのだった。


・・・・・


 日々は過ぎ、季節は夏になった。ノエインとクラーラの結婚準備も順調に進み、ついに式を翌日に控える夜となった、


 結婚の一応の主役はアールクヴィスト士爵家当主であるノエインだが、家の格ではケーニッツ家の方が上であること、レトヴィクの方が参列者の宿泊先などを考えると都合がいいことから、式の会場はケーニッツ子爵家の屋敷となっている。


 その日、ノエインはケーニッツ子爵家屋敷の客室に宿泊していた。結婚を控えた新郎の身ではあるが、アルノルドの計らいもあってマチルダと二人で一部屋に泊まることを許されている。


 あとは明日に備えてゆっくり休むだけ。クラーラとの結婚後もノエインとマチルダの関係が変わるわけではないので、二人の間には悲壮感はなく、むしろクラーラを迎え入れて三人で幸せになろうという期待感すら漂っている。


 しかし、ノエインにはどうしてもやっておきたいことが、マチルダに伝えたいことがあった。


「マチルダ、ちょっといいかな?」


 そろそろベッドに入って二人で夜を過ごそうかというときに、ノエインはそう言った。


「はい。何でしょう、ノエイン様?」


 マチルダがノエインを振り返ると――彼の手には小さな箱があった。おそらくそれは、指輪を入れるケースだ。


 その箱を持ったまま、ノエインはマチルダに近づく。そして、彼女の前で片膝をついた。


 ノエインが箱を開ける。


「これは……クラーラ様に贈られる結婚指輪では?」


 箱の中に入っていたのは、アールクヴィスト領産のラピスラズリで彩られた指輪。ラピスラズリ原石の中でも特に純度の高い部分を使用し、王国北西部で最も名高い宝石職人に加工してもらったものだ。


 ノエインがクラーラに贈る結婚指輪として、これを準備しているのはマチルダも見かけていた。


「違うよ。デザインは同じものだけど、これはクラーラに贈るものじゃなくて……マチルダ、君に贈るものだ。実はマチルダに内緒でこっそり作ってもらってたんだよ」


 そう言われて、マチルダは息を飲む。差し出された指輪を見つめる。


「マチルダは僕が9歳のときから僕の傍にいてくれた。誰よりも長く、誰よりも近くで僕をずっと支えてきてくれた。だから僕が永遠の愛の証明として指輪を贈るなら、その最初の一人はマチルダであるべきだと思ったんだ。受け取ってくれるかい?」


 ノエインがそう聞くと――マチルダはノエインもびっくりするほどボロボロと涙を流し始めた。


「ま、マチルダ?」


「申し訳ありません、ただ……あまりにも嬉しくて、嬉しいのに、涙が止まりません」


 そう言いながら大粒の涙を零し続けるマチルダを、ノエインはひとまず立ち上がって苦笑しながら抱き寄せ、彼女の涙を指で拭う。


「ノエイン様、ありがとうございます。心から愛しています。あなたに所有されて幸せです。私は世界一幸福な奴隷です」


「僕も心から愛してるよマチルダ。これからも君をずっと幸せにする。この指輪はその誓いの証だ」


 ノエインと抱き合いながら、マチルダは深い安心感に包まれる。


 マチルダが落ち着くまで、ノエインはずっと彼女を抱き締め続けた。

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