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ひねくれ領主の幸福譚 性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】  作者: エノキスルメ
第十四章 新発見と決着

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第362話 予定外

 戦術面の話し合いは多少の衝突がありつつも無難にまとまり、ルズールの北の要塞で陣構築作業が始まった。


「この調子だと、陣地の完成はぎりぎりかな」


「ですね。デール候国民の働きがこれじゃあ……」


 作業が始まっておよそ一週間が経った日の午後。自らゴーレムを操り、防壁にするための丸太材をまた一本運び終えたノエインが呟く。それに、警護についているペンスが答える。


 二人が目を向けた作業現場では、主にデール候国の徴集兵たちが土木作業をこなしていた。しかし、その動きは遅く、あまり気力があるようには見えない。そもそも彼らは普段から良い生活をしていないのか、痩せている者も多く、皆一様に疲れたような表情を浮かべている。


 クレイモアの一部もゴーレムを使って陣地構築に加勢しているが、数人ではやれることにも限度がある。大公国軍の他の者たちは兵器類の設置準備や調整があり、レーヴラント王国軍の者たちも森での木材の切り出しなどを行っているので、陣地での土木作業だけにあまり多くの人員を割くわけにもいかない。


 本当は陣地の手前にいくつも罠を仕掛けたり、可能であれば周囲の地形を多少変えたりするような作業もしたいが、この調子では陣地構築のみで手一杯だろう。現状ではそう思わざるを得なかった。


『アールクヴィスト閣下、コンラートです』


 そのとき、連絡役としてルズールの城館に待機しているコンラートから『遠話』が繋がる。


「どうしたの、コンラート?」


『ヴィルゴア王国の動向を探っていた密偵が戻ったそうです。その報告によると、どうも敵の侵攻が早まるようで……各国君主で集まって話し合いたいとのことですので、至急お戻りください』


「……そうか、分かった」


 苦い表情でノエインが答えると、『遠話』が切れる。今の報告をそのままペンスに共有すると、彼も表情を歪めた。


「ちょっとまずいですね」


「だね……僕はルズールの方に戻るけど、ペンスにはこのままここの監督を頼んでいい? 今は少しでも作業を進めさせたい。護衛はマチルダがいるから大丈夫」


「了解。お気をつけて」


 その場をペンスに任せ、ノエインはマチルダと共に馬を出した。


 再び『遠話』を繋いできたコンラートからもう少し詳細な報告を受けつつ、二時間ほどでルズールに到着し、そのままデール候の城館へ。


 ユーリと合流して広間に入ると、ガブリエルとエヴェリーナ、そして彼らの側近たちが既に揃っていた。


「お待たせして申し訳ない」


「気にするな、アールクヴィスト大公。話は聞いたな?」


 ガブリエルの問いかけに、ノエインは頷く。


「ええ。何でも、ヴィルゴア王国の軍勢の襲来が、一週間ほど早まりそうだとか……」


「その通りだ。敵軍の数は今のところおよそ四千。あと一週間もすれば、要塞の北の平原に到着する見込みだ」


「それだけではない。密偵が確認した敵軍の中に、いくつかの属国や友好国の旗が確認できなかった。それらの国が別の道を通って、北の平原でヴィルゴア王国軍に合流する可能性が高いということだ。敵の数はさらに増える。当初の想定以上だ」


 ガブリエルもエヴェリーナも、その表情は険しかった。


「……それは、かなり厳しい状況ですね」


「陣地構築はまだ終わらないか?」


「ええ、まだ時間があると思っていましたので。こうなると、陣地を予定より相当に簡略化することになるでしょう」


 丸太柵で要塞を囲み、柵の前には堀を作る予定だったが、その堀の幅と深さを小さくするしかない。堀の中には木材を尖らせた杭を設置するはずだったが、それも無しにするしかないだろう。丸太柵の裏に作る足場も数を減らさなければ。そもそも木材の切り出しが間に合わないだろうから、一部の防壁は土を盛って固めるしかない。陣地内を動きやすいように整地する作業も省略だ。


 ノエインは頭の中で、そんな計算を巡らせる。


「ふっ、貴殿が作れるというから防御陣地とやらの構築を任せたのに、随分と悠長にやっていたようだ」


 それはあなたの民の働きが悪いからだ、と嫌味を返したいのを堪えて、ノエインは冷えた視線だけをエヴェリーナに向けた。


「アールクヴィスト大公、その簡略化した陣地でどの程度戦えると思う?」


「……やや心もとないですが、それでもやはり、何もないよりは遥かにましです。陣地の全箇所を強固にするのは難しいので、脆い箇所を一部に集中させ、そこに敵を誘って叩くような戦い方をとるのが最善でしょうか。少々際どい戦術になりますが」


 言いながらノエインが視線を隣のユーリに向けると、彼も頷いた。軍事の専門家であるユーリから見ても、補足はないということだ。


「そのような回りくどい戦い方をせずとも、こちらから打って出ればいいではないか!」


 エヴェリーナが声高に言った。それにノエインも、さらにはガブリエルも、二人の側近たちも目を見開く。


「敵は奇襲のつもりで急ぎ足に近づいてきているのだ! ならば逆に、こちらから奇襲を返してやればいい! 北方の蛮族どもに、騎士の戦い方を見せつけてやるのだ!」


「何を言ってるんですか! 馬鹿げてる! そんなものはただの蛮勇です!」


 思わず強い言葉でノエインは言い返す。すると、エヴェリーナと彼女の騎士たちは目に見えて殺気立つ。


「今何と言った! 我らの誇りを、言うに事欠いて蛮勇だと!?」


「……よく考えてください。要塞より北には平原が広がっていて、多少の林や丘がある程度です。そんな中を進軍してくる敵に奇襲など無理です。数では負けるとはいえ、こちらも総勢で千五百を数えるのですから。それに、元は農民の徴集兵に、複雑な奇襲戦などできませんよ」


「では農民兵など置いて行けばいいではないか! そもそも、本来は農民を戦に引っ張り出すこと自体が騎士の道に反するのだ! 戦は農民のものではない!」


「いくら何でも無茶ですよ。正規軍だけでは三国合わせても五百人に満たないんです。特に我が国の兵装は、平原で機動戦を行うようにはできていません」


 ノエインが淡々と反論を重ねると、エヴェリーナは鬼のような形相をしながらも黙り込んだ。射殺すような、下手をすれば本当に手を上げてきそうな気迫に、マチルダとユーリがいつでも主君を守れるよう身構える。


「ちっ! アールクヴィスト大公国軍は一体何をしに来たのだ! 鈍重なゴーレムと、走れもしない兵器ばかり持って来るなど。これでは単なる足手まといではないか!」


「……そこまで仰るのであれば、我々は自分の国に帰るのもやぶさかではありませんが。このような言われ方をしながら、尚も命を張る道理はありませんね。全く、とんだ無駄足だったようだ」


 投げやりな口調でノエインは言い放った。ノエインとしては本気ではなく、単なる嫌味のつもりだったが、その言葉に焦ったのはガブリエルだ。ノエインとエヴェリーナの間に割って入り、口を開く。


「……両者とも、どうか落ち着かれよ。デール候は言葉を慎んでくれ。敵は目の前の相手ではない。今この時も北より迫ってくるヴィルゴア王国の軍勢だ。かの国の害が自国に及ぶのを阻止するという共通の目的のためにこそ、我々は集ったはずだ」


「「……」」


 ノエインもエヴェリーナも、不満を顔に表しつつ言い争いを止めた。


「とにかく時間がない。今より新たに起こせる行動はないだろう。目の前の成すべきことを成すしかないのだ。エヴェリーナ・デール候。一国の主として貴殿が父祖より受け継いだものを守りたいのであれば、アールクヴィスト大公の提案を受け入れようではないか」


「……いいでしょう」


 明らかにまだ思うところがある様子だったが、エヴェリーナは少なくとも言葉だけはそう答えた。


・・・・・


 一触即発の話し合いをなんとかまとめた、その二日後。


 焦燥に駆られながら少しでもましな陣地構築に励む日々の中、ルズールの城館にあてがわれた客室で疲れ果てて眠っていたノエインは、マチルダに揺り起こされた。


「ノエイン様、お目覚めください」


「……おはよう、マチルダ」


 目を開けてマチルダを見上げたノエインは、何故か彼女がもう軍務中のような表情をしていることに違和感を覚える。


「おはようございます。ペンス様がお呼びです。廊下でお待ちいただいています」


「……っ」


 マチルダに言われて、ノエインは急ぎ体を起こした。この時間にわざわざ呼びに来ているのだ。何かよほどの事態が起こったに違いない。


 マチルダに背中からかけてもらったシャツのボタンを留めながら部屋の扉を開けると、そこにはペンスと、さらにヘルガ・レーヴラントもいた。


「ペンス、待たせてごめん。どうしたの?」


「……俺もたった今、騎士レーヴラント殿から教えていただいたんですが」


 そう話し出すペンスの顔色は悪い。隣のヘルガも青ざめている。


「デール候国軍が、夜中のうちに自分たちだけでルズールを発ったそうです。ヴィルゴア王国軍に奇襲を仕掛けに行ったようで」


「……あぁ、もう」


 それを聞いたノエインは、項垂れながら深いため息を吐いた。

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作者エノキスルメの更新中の最新作です。

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