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ひねくれ領主の幸福譚 性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】  作者: エノキスルメ
第一章 大森林の開拓地

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第29話 冬を前に

 11月の半ば。季節はそろそろ冬へと差し掛かっており、外套を着ずに外へ出るのがつらい気温になっていた。


 本格的な冬になればこの世界の多くの人間が屋外での活動を停止し、街や村、領と領の行き来もほぼ途絶える。徒歩で半日の距離にある居住地とレトヴィクならまだ行き来も可能な範囲内だが、それもこれまでのように気軽にはいかないだろう。


 なので、アールクヴィスト領でも冬支度が進んでいた。


 開拓1年目で食料の完全自給ができていないため、レトヴィクから麦や干し肉、野菜の酢漬け、塩などを買い込む。およそ50人分の冬越えの食料ともなるとイライザの店だけでは手に余るため、マイルズ商会のベネディクトも頼ることになった。


 領民たちは時間を見つけては居住地周辺の森に入り、冬の間の薪となる枝を集める。ノエインも家屋建設の際に出た端材などを屋敷の倉庫に集め、自分が消費するため、また冬に入ってから領民の中で薪が尽きる者ががいたら与えるために保存していた。


 冬に向けて行動するのは領民たちだけではない。レトヴィクから呼んでいた職人たちも、冬を前に帰ることになる。


 まず帰ったのは、親方ドミトリをはじめとした大工集団だ。ひとまず発注していた家屋を全て建て終え、本格的な冬の前に引き上げることになった。


 これからも増えるであろう移民のためにできるだけ多く家屋を用意しようと、ノエインは冬に差し掛かるぎりぎりまで彼らに追加発注を続けていたが、さすがにそろそろ切り上げる頃合いだった。


「ドミトリさんも皆も、何か月も滞在して家を建ててくれて本当にありがとうございました」


「なあに、これが仕事ですから。今まで未開の地だったベゼル大森林の中に俺たちの建てた家が並んでいくのはやりがいもあったし、若い衆に経験も積ませられやした。それに儲けさせてもらいやしたからね。お互いさまってことでしょう」


 そう言って豪快に笑うドミトリと、それに倣って笑う彼の部下たち。


「あはは、そう言ってもらえてよかった。冬明けにはまたあなたたちの商会に仕事を発注させてもらうと思うので、そのときもぜひよろしくお願いします」


「……そのことなんですが、冬が明けたら、俺と弟子の何人かをここに移住させてもらうわけにはいきやせんか。そんで、ここで新しく建設系の商会を立ち上げさせてほしいんですが」


 予想外の申し出に、ノエインは少し目を見開く。


「いいんですか? あなたは大きな建設業商会で幹部にまで登り詰めたんでしょう?」


「はい、確かに俺は幹部になりやした……ですけど、俺は獣人です」


 笑顔ではあるものの、少し諦めたような雰囲気も含ませるドミトリ。


「さすがに獣人じゃあ大商会でこれ以上の出世は望めねえ。それに、レトヴィクでは獣人の親方に家を建てられるなんてごめんだ、と施工主から拒否されることもたまにありやす。そんな場所でそこそこの親方として終わるより、新天地で自分の商会を持ちてえんです。直弟子の何人かも俺についてくると言ってくれやした」


 ドミトリの言葉に合わせて、彼の弟子らしい数人の職人が力強く頷く。


「分かりました……いや、分かった。移住を決意してくれてありがとう。僕としても自分の領に大工を抱えられるのはとても助かる。歓迎するよ」


 これからも発展していくであろうアールクヴィスト領では、家屋の需要もどんどん高まっていくのは間違いない。大工を領に迎えられるのは願ってもないことだった。


「ありがとうございやす。冬の間にうちの商会にも話をつけて、円満に退職して移住できるようにしてきやす」


「うん。待ってるね」


 ノエインはそう微笑んで、ドミトリたちを見送った。


・・・・・


 さらに数日後には、ラピスラズリ原石の採掘のために迎えていた鉱山技師ヴィクターもレトヴィクへ帰還する。


 この数か月で採掘現場の監督役であるユーリは坑道を掘り進めるための基本的な知識を覚え、領民たちも随分と作業に慣れたという。これで「鉱脈の掘り方を教える」という彼の仕事は終了だ。


「ヴィクターさん、うちの領民たちが世話になりました」


「いえ、私もラピスラズリ鉱脈を掘るのは初めてのことでしたから。いい経験をさせてもらいました」


 最初に挨拶を交わしたときと同じく、野性味溢れる容姿とは裏腹に丁寧な口調でそう言うヴィクター。


「うちの領はまだ人口が少ないからこれ以上の鉱山開発に手が回りませんが、レスティオ山地にはまだ何か資源があると思います。いずれ開発を進めるときは、また声をかけさせてください」


 ノエインへの丁寧な口調にも表れているように、ヴィクターは非常に真面目で礼儀正しい性格らしい。監督役として長く関わったユーリもそう彼を評していた。領民たちとも親しくなったというし、ぜひともまた働きに来てほしいものだ。


 そう思っていたら、ヴィクターは思わぬ提案をしてきた。


「……アールクヴィスト閣下。いずれ閣下のご領地の人口が増えて鉱山開発を本格的に進めるようになったら、自分もここへ移住してもよろしいですか?」


「えっ」


「やはり駄目ですか」


「いえ、そんなことは……むしろこちらとしては願ってもないことです。ただ、この居住地の家屋を建ててくれた大工にも移住を希望されたので、立て続けのことで少し驚いてしまって」


 しょんぼりとしてしまったヴィクターに、慌ててそう返す。


「そうでしたか。その大工もきっと上昇志向が強い職人なんでしょう。このあたりでは職人が雇われから独立するのは大変ですから」


 ヴィクターの言葉を聞いて、ノエインは納得した。


 西をベゼル大森林に、北をレスティオ山地に塞がれたロードベルク王国北西部は、良くも悪くも安定している。大きな戦乱も災害も久しく起きていない一方で、歴史のある大商会がそれぞれの縄張りで幅を利かせているから経済的には硬直しがちだ。


 必然的に、独立志向の強い者が新たな市場を開拓するのは難しいと聞いている。ヴィクターはそんな現状に悩んでいた一人というわけだ。大工のドミトリも、この凝り固まった北西部で獣人というハンデを乗り越えて一商会のトップになる夢を抱えていた。


 職人たちにとってチャンスが少ないこの地域で、ノエインは名ばかり貴族領として放置されてきたアールクヴィスト領を少しずつ開拓し、新たな村を徐々に作り上げている。ヴィクターやドミトリのような職人にとって、ここは大きなチャンスを秘めた新天地なのだろう。


「……この地の開拓を進めて、いずれ必ずレスティオ山脈の開発も拡大します。そのときはぜひこの領に移り住んでください。ヴィクターさんが活躍できる場を作りますよ」


「おお……そう言っていただけるのは職人として何より嬉しいことです。いつでも移住できるよう準備をしながらお待ちしています」


 将来の独立の道が開けて晴れやかな表情になったヴィクターは、そう言ってレトヴィクへと帰っていった。

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