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ひねくれ領主の幸福譚 性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】  作者: エノキスルメ
第十一章 未来へ

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第261話 驚嘆

「やられたな。ゴーレムにあのような使い方があったとは……それに、あれほどの手練れを揃えたことも敵ながら凄まじい」


 敵陣の最前列に並ぶ鉄板の中から現れたゴーレムたちの暴走を見て、アイリーンは悔しげに呟いた。


 ベトゥミア共和国にも傀儡魔法使いは当然いるが、戦いの場に出てくる者はほとんどいない。彼らの多くは単純な荷運びなどの労働をこなすか、小さな人形を操って劇を演じる芸人のような暮らし方をしている。


 人間を超える大きさのゴーレムを自由自在に操るなどアイリーンの知る傀儡魔法使いの常識から外れているし、それほどの凄腕が二〇人近く集まっていることも尋常でない。こんなもの、事前に予想できるはずもなかった。


「正面からだけでは駄目だ。側面からも攻めさせろ! 一個軍団ずつ両横の丘に回れ!」


 アイリーンの指示が伝達され、歩兵部隊の中衛からそれぞれ一〇〇〇人規模の部隊が抜けて左右に展開。ロードベルク王国軍の陣の側面を叩くため、森に覆われた丘の中に踏み込んでいく。


 それを、ロードベルク王国西部軍の本陣からノエインたちも見ていた。


「側面攻撃を仕掛ける気か……まあ、私が敵将でもそうするだろうな」


「丘に潜ませた部隊の出番ですね。コンラート、ラドレーたちに伝えて。敵が丘から回り込もうとしてるって」


「了解です!」


 ノエインに言われたコンラートは『遠話』を繋ぎ、丘からの敵の襲撃に備えるラドレーたちに情報を伝達した。


・・・・・


「……分かった。こっちは任せろ」


 本陣のコンラートから『遠話』でノエインの指示を伝えられたラドレーは、短く応えると隣を向いた。


「いよいよ敵がここにも攻めてくるらしいですぜ、アードラウ準男爵閣下」


「そうか。ようやく我らの出番というわけだな」


 不敵に笑うのは、かつてヴィキャンデル男爵領で北西部閥と南西部閥の抗争が発生した際、南西部側の指揮官の一人としてノエインたちと争ったベラッド・アードラウ準男爵。


 当時こそノエインの敵だったアードラウ準男爵だが、今の彼は西部軍本陣から見て左手側の丘を守る防衛部隊の隊長だ。かつて小競り合いをくり広げた相手が、この戦いにおいてはラドレーの直属の上官である。


 ラドレー自身は、アールクヴィスト領軍における自身の部下と他領の兵を合わせた百人隊をひとつ率いている。このラドレー隊と、アードラウ準男爵が率いる隊、そしてリックたち狙撃部隊、さらに弓兵の一部を合わせた総勢三〇〇人ほどがこの丘を守る。反対側の丘にも同規模の部隊が配置されていた。


「……見えてきたな。いいか貴様ら! 我らが敵兵を逃せば、そのまま味方が側面を突かれることになる! 死んでも敵を通すな!」


 アードラウ準男爵は、丘全体に響き渡っているのではないかと思うほどの大声で防衛部隊に檄を飛ばす。


「ラドレー! アールクヴィスト子爵のことは私は好かんが、お前のような猪武者は嫌いではない! 期待しているぞ!」


「……へい、どうも」


 面倒くさい、と内心で思いつつもラドレーはそう答えた。マルツェル伯爵といい自分が武人からやたらと好かれるきらいがあるのは自覚しているが、ラドレーとしては別に嬉しくはない。自分はただ主君の命に従って戦うだけだ。


「来るぞ、構えろ!」


 木々に覆われた足場の悪い丘を、ベトゥミア兵が上ってくるのが見える。それを受けてアードラウ準男爵が声を張り、兵士たちが槍や剣、戦斧を構える。ラドレーも愛用の槍を隙なく構えた。


 歩みは遅く、しかし数はこちらの数倍になるであろうかという敵兵は――ラドレーたちのもとへ到達する前に、四方から矢を受けてばたばたと倒れる。


「な、何だ!?」


「どこから撃ってきた!」


「伏兵だ! 藪の中にも木の上にも……そこら中にいる!」


 不意打ちで敵を倒したのは、丘を覆う森のあちこちに潜んだ弓兵や、狙撃用クロスボウを装備したアールクヴィスト領軍の精鋭部隊だ。


「…………ふっ」


 その一人であるリックは、森の中に溶け込む迷彩を施した外套に身を包み、ある大木の、太い枝の上で短く息を吐いてクロスボウの引き金を引く。


 クロスボウは俯角をとって射撃をすることはできないので、狙うのは水平撃ちに近いかたちで狙える、やや遠くにいる敵兵だ。リックのクロスボウから放たれた散弾矢は飛翔しながら散らばり、背中合わせで周囲を警戒していた二人の敵兵を同時に貫いた。


 戦果確認もそこそこに、リックは全身の力を使ってクロスボウの弦を引き、『天使の蜜』が入った小瓶に散弾矢の先端を突っ込んで浸す。それをクロスボウに乗せ、次の得物を探す。


 一方で地上では、弓やクロスボウによる不意打ちで敵が怯んだ隙を逃さず、アードラウ準男爵やラドレーの部隊が攻撃を仕掛けた。


「矢に倒れた敵はどうせもう動けん! 無視して未だ健在な敵を襲え! なるべく殺すなよ!」


 過去には薄めた『天使の蜜』と散弾矢による攻撃を身をもって体感したアードラウ準男爵は、周囲の兵にそう指示を飛ばしつつ自身も剣を振るう。


 肉体魔法によって強化された腕からくり出される斬撃が、それを受けようとした敵兵の剣を叩き折ってその先の腕を切り飛ばす。


 続いて準男爵は別の敵――大柄な牛人の兵士から振り下ろされたハルバードを難なく避けてその柄を掴み、敵ごと持ち上げて投げ飛ばす。まさに鬼神のごとき大立ち回りを見せる。


「数は敵の方が多いからな、小隊の仲間と離れるなよ。連携して倒せ」


 ラドレーはよく通る声で淡々と言いつつ、共にアールクヴィスト領の見回り任務などをこなしてきた信頼できる部下たちと陣形を組んで戦う。一〇人一組で、同時にぶつかる敵はなるべく五人以下。隊の半数が敵の攻撃を受け止めつつ他の者が側面や後方から傷を負わせる……という手順をくり返す。


 数で上回っているはずのベトゥミア共和国軍の側面攻撃部隊は、いつどこから飛んでくるとも知れない矢に怯えながら、手や足を執拗に狙ってくる相手の戦法に苦戦しながら、次々に戦闘不能になっていく。


 やがて損耗率が三割を超え、丘を突破できる見込みがないと判断した軍団長の命令で、ベトゥミア兵は撤退を開始した。


「深追いは無用だ! それより無力化した敵兵どもの面倒を見てやれ!」


「重傷の奴は止血してやれ。矢を食らってない奴には全員にしっかり『天使の蜜』を食らわせろよ」


 戦闘が終われば、あとは敵の「救助」の時間になる。アードラウ準男爵とラドレーたちは、敵の負傷者に応急処置さえ施しつつ、その手足を『天使の蜜』を塗ったナイフで切りつけて麻痺させていった。


・・・・・


「おのれ無能が! 一個軍団で丘に入っておいて逃げ帰ってくるだと!? 軍団長は後で処罰してくれる!」


 森に覆われた丘に突撃していったはずが、壊走と言ってもいい無様な退却を見せる側面攻撃部隊を見ながら、アイリーンは怒鳴る。


「しかし閣下、正面は勢いが拮抗しています。このまま継続して攻め続ければ、敵の体力が尽きるのも時間の問題でしょう」


 副官の発言どおり、こちらの歩兵部隊は敵のゴーレムとクロスボウ部隊、歩兵部隊と一進一退の攻防をくり広げている。戦線が互角ということは、兵数で圧倒的に不利なロードベルク王国側が先に力尽きるということだ。


「分かっている。これほど無様な戦いになるとは思わなかったが、最後に勝てばそれでいい。今日で敵を粉砕して……なっ、おい!? あの騎兵はどこから出て来た!?」


 アイリーンが右手前方に目を向けると、丘の死角から敵と思われる騎兵部隊が接近していた。その数およそ三〇〇。


 もしも敵が丘全体を迂回して騎兵を動かしているのなら、こちらが敵を視認するより早く、戦場のあちこちに配置している斥候から敵接近の報が伝えられないとおかしい。それがないということは、敵はおそらく丘の只中を抜けてこちらの側面に攻撃を仕掛けようとしている。


 だが、丘の中にそんな道が整備されているのなら、それこそ事前に斥候が発見できないわけがない。どんな手段で三〇〇もの騎兵が地形の不安定な丘の中を抜けたのか、その方法が不明だ。


 予想もしていなかった位置から数百の騎兵が全力で横っ腹に突っ込んできては、歩兵や弓兵の部隊が耐えられるわけがない。敵の騎兵部隊は大軍というわけではないが、この戦場では十分な決定打になる破壊力を秘めている。


「まずい! 側面の部隊に隊列を組ませ、あの騎兵部隊を止めろ!」


「閣下、今から命令を伝達していては間に合いません!」


 三〇〇の騎兵部隊は丘から敗走中だった部隊の生き残りをゴミのように蹴散らし、ゴーレムやクロスボウ兵との攻防に追われていた歩兵部隊と弓隊の側面に突入。隊列ど真ん中の蹂躙を敵に許したベトゥミア兵たちは総崩れになった。

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