第一話/始まりの酒場
ここは王都イースティ、名高い貴族、出店を出したり行商をしている商人から、農耕をして暮らしている庶民まで幅広い身分の人々が暮らしている。
この世界で一番栄えている都市だ。
そんな王都の隅っこの方にある小さな酒場から、活発な少女の声が聞こえて来る。
「え〜!?いい加減ツケを払ってくれ!?酷いよマスター、ボクがお金持ってないの、マスターが一番良く分かってるでしょ?!ただでさえ生きていくのがやっとなのに、酷いよマスター....」
少女はそう言ってガックリと肩を落とす。しかし何故マスター呼びなのだろうか、ここはバーでも無ければカフェでも無い。ただの寂れた酒場である。
「プッ!だーっはっはっはっ!そう分かり易くしょげるなって嬢ちゃん!」
如何にも元気いっぱいといった感じの男が少女をからかって遊んでいた。
「でも分かったよ、マスターには普段からお世話になってるからね、ツケを払うためにお金を稼いでくるよ」
「おう!行ってこい!でも、怪我だけはするなよ!」
酒場の主人は笑いながら見送ってくれた。
しかし、何かが違う、何かが違うのだ。
「マスター....これ....余計に増やしてないよ....ね?」
「あっ当たり前だろ!増やすわけ無いじゃ無いか!」
明らかに焦っている。確信犯だ。
そう思ったら怒りが湧いてきた。
「ねぇマスター、どういうつもり?年端もいかないか弱い少女を騙そうっていうの?」
そう言って少女はその辺にあったナイフを酒場の主人の首にかざす。
「すまないね嬢ちゃん、うちもギリギリなんだ、ほらっお詫びの印に珈琲を一杯やるよ」
辺りに珈琲の香りが広がる。
少女はさっきの出来事など忘れてしまったかのように笑顔で珈琲を啜っている。
「ちょろすぎんだろ....嬢ちゃん」
「ん〜?なんか言った?マスター?」
「いいや何も」
少女は珈琲を飲み終わると、直ぐに酒場を後にした。
結局酒場の主人に増やされた少女のツケは減ることはないようだ。






