水晶玉の取説
途中の出張所で、結界札の半券と、盗賊団の馬車と馬、金目の物や、値の付きそうな武器や防具を持ち込んだ。道中、お尋ね者一覧で、ボスが北部一帯の元締めで数年前に、協会でアジトに乗り込んだけど返り討ちにあった組織で、高額懸賞金は確認していた。ただこれから回収してからの手続きだし、ホームの支部での支払いだから、実際に持ち込んだ分なので金貨200とちょっと。殆どが馬の値段だった。鎧はほぼほぼスクラップなので置いて来たし、唯一高額見込みのボスが持っていた大剣は、東雲の肥やしになっちゃったからね。もうすぐ暮れるけど、宿が空いていないので、そのまま南下して適当な所でテント泊の予定。なかなか場所が見つからずに、結局明るくなるまで走って、北央の町に近付いたのでそのまま街まで走って宿に直行した。
「申し訳ございません、お部屋の仕度が午後3時になります。」
カトリーヌ本人(?)は平気だと言っているけど、夜通し走らせちゃったから、ゆっくり休ませてあげたいんだよね。のんびり出来そうな所を聞いて見ると、町の東に温泉街があって、昼間は日帰り温泉、夜は宿泊出来るみたい。
近くの馬車屋さんで馬を借りてカトリーヌと交代、ペットモードになって、僕の膝で丸くなっていた。2時間程で温泉街に到着、登山口になっていたり、大きな滝があったり、結構な観光地で、お昼寝のカトリーヌも目を覚まし一番はしゃいでいた。渓流のそばをお散歩したり、滝を見上げたりしてリフレッシュ。
温泉でのんびりして、美味しいご飯を食べて、夜は露天風呂から満天の星空を満喫、少しお酒も飲んで、ちょっとした打ち上げ気分かな?まだ着いた訳じゃ無いけどね。
翌朝、北央まで借りた馬に引かせ、馬を返してカトリーヌが交代。僕らの町に帰る。銀のたてがみの白馬が銀の馬車を引くと、道ゆく人は誰もが振り返った。視線を浴び続けると、気配の感じ方が鈍くなるような気がして、急ぎ目で市街地を出た。距離的には3分の1は残っているので、気を引き締めて馬車を進めた。
街道は流石に盗賊の気配は無く、順調に進んだ。途中、畑作地帯を通ると道端で採れたての野菜や果物が売っていて、ばあち、、、弥生さんにお土産を買い込んだり、採れたてすぐを食べさせて貰ったり楽しい旅を続けた。
丸1日走って、盗賊にも魔物にも会わないのって初めて?美味しいみち草を食っても、明るいうちに支部に帰り着いた。結界札の精算が済んでいたので、書類を受け取りに受け付けに並ぶと、おっちゃんが寄って来て、
「随分派手に暴れた様だな、皆んな無事か?」
書類を渡されて、驚愕の金額に驚いた。通帳に記帳しているうちに、果物が一杯の箱を渡すと、
「チー坊の魔力計は全然変わらないけど、通帳の残高は凄い勢いで増えるな!桁が足りなくなりそうだな。」
それは、流石にギャグだけど、アパート建設で減った分がほぼ戻っていたのには驚いたな。
晩ごはんは久しぶりに、お馴染みの食堂に行くと、アパートの住人が殆ど来ていたので、お土産を配れた。
アパートに帰って、師匠と弥生さんにお土産を渡して、土産話を聞いてもらった。心配させないように、盗賊団の話はかなり控え目にしておいた。使い方が解らない水晶玉を見せると、
「あら、便利な物見つけたわね!」
弥生さんはそう言って、部屋に戻り水晶玉を持って来た。魔窟で見つけた物と同じみたいな水晶玉は金の枠に収まって金の鎖で首に掛けられるようになっていた。食堂に集まって使い方を教えてくれた。
「皆んな、1つずつ持ったね?水晶玉が自分のモノだって強く思ってね、うん、いいかな?今度は2人ずつ組んで、相手を思って水晶を覗いてごらん!ちーは、ばあちゃんと組もうか。」
僕は一生懸命『弥生さん』って呼ぶように頑張ってるのに、本人が『ばあちゃん』って言っちゃうと、また戻っちゃいそうだな。
「あっ、弥生さんが映ってます!」
「ちーも見えるよ、成功だね、皆んなはどうだい?」
「慈子が出来れば、皆んなOKですわ!」
「それもそうじゃが、ワザワザ言わんでもよかろう。」
「じゃあ、次だよ!コッチの子は、こうやって、待ってて!で、相手の子はね、水晶玉を覗いて、相手に会いたいって思うの。」
「あっ、呼ばれた感じ、解ります!」
水晶玉を見ると弥生さんが映っていた。
交代して弥生さんを呼んでみた。皆んなは成功したけど、僕だけ呼べない。皆んなは入れ替えて試して、ドンドン成功していた。ちょっと焦って、心のなかで『ばあちゃん』って呼んじゃった。
「おっ、来た来た!呼ばれたよ!」
えっ?呼び方がダメだったの?でもなんとなくコツが掴めたみたい。他の皆んなを呼んでみて成功出来た。
「じゃあ、自分の部屋帰って、お互いお喋りしてみるといい。」
自分の部屋から、皆んなを呼ぶと顔が映ってお喋りが出来た。直接話せばいい事を水晶玉を使ってお喋りを楽しんだ。1つは予備かな?メンバー増えるかも知れないしね!
弥生さんから呼び出しで食堂に降りると、お土産のスイカがキンキンに冷えて待っていた。
「弥生さん、魔力アップしました?」
「ううん、元々使えたけどね、ちーが成長するまでは、手抜きを覚え無いように封印してたんだよ。一応お忍びで育てていたしね!」
スイカを食べながら、水晶玉の枠の事を相談したり、脱線したり夜中までワイワイ。弥生さんの古い友達が営む、東国の宝飾店が機能も見栄えも良いとの事で、早速行ってみる事にして、遅い『おやすみなさい』になった。




