トドの魔物
街道を北上、お約束の様に現れる盗賊を3件潰した。結界札は沢山用意してあるけど、帰るまで足りるかな?
馬車を進めて最北端に近付くと西の海にキレイな円錐形の山を乗せた島が浮かんでいた。潮の香りにお魚の臭いが混ざって、漁師町だと告げていた。世間一般には『魚の臭い』と悪臭扱いだけど、僕にとっては『美味しそうな匂い』って思える。そんな話をすると、愛菜以外は納得の表情で頷いていた。勿論、猫達も舌なめずりしていた。
最北端は、魔窟攻略ってより、観光で来ている。折角近く迄来たので、記念に立ち寄ったって感じかな?町に入ると『大陸最北の○○』っていう看板があちらこちらに掲げられていた。その中の『最北の協会支部』に結界札の半券3枚とキツネグマの耳と尻尾をを提出した。 小鬼ハーフなので、どっちがの分だと思ったけど、正直に話したら両方の報奨金が支払われた。それから『最北のキャンプ場』を訪れ、敷地の最北端にテントを張って今夜の宿にした。
北に位置しているので冷涼な気候なのは想像つくんだけど、更に北から押し寄せる海流が、涼しさを超えた寒さを運んでくる。急いで焚き火を焚いて暖まった。キャンプ場には『最北のトイレ』や『最北のブランコ』などがあり、中でも気になったのは『最北の魔窟』だった。今回の攻略リストには無いし、協会でも把握していないので、ただの洞窟をそう呼んでいるだけだと思うけど、一応覗いて見る。土産話し位にはなりそうだよね。ベルと姉貴が留守番兼晩ごはんの当番で、あとは釣り、山菜・キノコ狩りに散って行った。僕は、音とプランタンと3人で魔窟の下見に向かった。
最北の魔窟は、大きめな洞穴でやっぱりギャグだったみたい。笑って帰ろうとするとプランタンが奥の地面を指差して、
「あそこから潜れそうだよ!」
音が極光の柄で突付くと下層へのスロープが現れ、僕等は飲み込まれる様に2階層に落っこちた。迷路のようなフロアなので、一旦テントに戻って体勢を立て直す事にした。
釣り組を待って晩ごはん。残念ながら、魚料理が1品増えることは無かった。魔窟の事を報告して相談すると、明日の移動の事を考えて、今夜のうちに潜る事にした。
急なスロープを滑り降りて迷路を攻略。ノーマルの剣で斬り伏せられる程度の雑魚魔物しか居なくて、迷路の探索に軸脚を置いてフロアを彷徨った。お宝も下への通路も見つからずに降りて来たスロープに戻った。
「あれ?さっきはわからなかったけど、そこ!」
プランタンがそう言って指した地面を音が突付いて、3階層への通路を手に入れた。次の階層も、迷路を隈なく回ってから下の気配が解るみたいで、同じパターンを繰り返して8階層をクリアした。
9階層は迷路では無く、仕切りの無い大広間だった。半分以上が海かな?いや、仕切られているので池かな?雰囲気は海っぽい。残りは岩場で、愛菜センサーには、巨大な一匹しか居ないようだった。プレお宝フロアかもしれない。魔物は水の中にいるようで、愛菜が雷弾を撃ち込むとトドの魔物が浮かび上がった。岩場に攻めて来たけど、規格外の重量を武器に闘うトドは、愚鈍な速度で脅威は感じなかった。ただ、頑丈な皮膚に剛毛を纏っているので、いろんな攻撃を試したけれどほぼノーダメージ。風香の矢も刺さった様に見えたけど、剛毛に引っ掛かっただけみたい。
「アレを試して見ようかのう。」
ベルは皆んなに声を掛けると魔物の正面に立ち、風香と愛菜が左側、姉貴と音が、右側に離れて立って、ベルが高く掲げている飛竜に向かって魔力球を放った。魔力弾や魔力刃に魔力を圧縮する前の魔力の塊で、飛竜に吸い込まれるように纏わり付いた。ベルが飛竜を振り下ろすと、飛竜とトドの頭頂部が1条の光で結ばれた。魔物は崩れ落ち、背後の岩壁も大破していた。
「一発だったね!あそこが弱点なの?」
安堵の表情のベルに聞いてみたら、
「いや、もっと下を狙ったんじゃが、刀の威力が強過ぎて上擦ってしまったんじゃ。ギリギリじゃのう。」
プランタンの出番になったけど、下への通路は見つからない。水中にまだ魔物がいるのかとも思ったけど、愛菜のセンサーには引っかかっていない。お宝も見当たらなかった。お宝がない魔窟も有るのかな?先にクリアした形跡はないんだけどな。まあ文句を言っても仕方がないので、トドの処理を考えた。牙が駆除の確証になるので回収、肉は固くて不味いらしく、売れないし、毛皮もこれだけ頑固だと使い道ないよね?他有用な物は無いか、虫メガネでチェックすると『水晶玉』と感じた。胃袋を割くとこの前の魔窟でゲットした物と区別が付かないものが出て来た。ちょっと違うのは、水晶玉を覗いた時、まっ暗が殆どで、偶に最下層の眺めが見えていたのが、真っ赤になることが増えたくらいだった。
「これがお宝みたいね!」
トドの死骸を焼却して地上を目指した。
テントに戻って水晶玉を調べて見たけど、やっぱり変わりはなく一応先にゲットした物と区別出来るように、前のが赤い袋に入れてあるので、白い袋に入れて、仕舞っておいた。ちょっと夜更ししちゃったので細かい事は考えないで寝袋に包まった。




